抗議
地下施設の薄暗い通路を、フェリクスは一人、足早に歩いていた。
彼が向かっているのは、先刻まで、セレスティアとカドッシュが話していたという部屋だ。
セレスティアが戻ってから、左程時間が経っていない為、まだカドッシュが部屋に留まっているかもしれない、と、フェリクスは考えていた。
彼の胸中には、怒りとも苛立ちともつかない、だが、酷く不快な何かが渦巻いている。
目的の部屋の前に着いたフェリクスは、扉を叩いた。
扉を開けて顔を出したのは、いつもカドッシュに付き従っている護衛の男だ。
「頭領に、話がある」
フェリクスが言うと、護衛の男は半ば呆れた顔で答えた。
「カドッシュ様は、お忙しい。いきなり来られても、取り次ぐことはできない」
「ここに、いるのだろう?」
思わずフェリクスが睨めつけると、護衛の男は怯んだ様子だったが、それでも頑なに主人へ取り次ぐ様子を見せなかった。
と、部屋の奥からカドッシュの声が聞こえた。
「フェリクスくんでしょう? 構いませんよ。通してあげてください」
護衛の男は、仕方なさそうに、フェリクスを室内へ招き入れた。
「どうしました? まぁ、お掛けください」
板状の情報端末を手にしながら、長椅子に座っているカドッシュが言った。
「あなたと、二人で話したいのだが」
フェリクスの言葉を聞いて、護衛の男が目を剥いた。
しかし、カドッシュは事も無げに言った。
「……分かりました。君、少し外してもらえますか」
「しかし……!!」
「彼なら、心配ないでしょう」
護衛の男は何か言いたげに口元を歪めたものの、了解しました、と部屋から出ていった。
フェリクスは、カドッシュと向き合う形で長椅子に腰を下ろした。
「――それで、私に話したいこととは何ですか、フェリクスくん」
カドッシュが、口元に、いつもの柔和な笑みを浮かべた。だが、顔の上半分を覆う銀色の仮面の所為で、その感情を読み取ることはできない。
フェリクスは、言葉に詰まった。感情に任せて、ここまで来たものの、胸の中に渦巻く不快な何かを、彼は言語化できていなかった。
「……セレスティアを、縛り付けないでやってくれ」
やっとのことで、フェリクスは言葉を絞り出した。
「私が、セレスティア殿を縛り付けていると? ご本人が、そう仰ったのでしょうか?」
あくまで穏やかに、カドッシュが言った。
「セレスティアは、ここに来るまでの間にも、ずっと無理をしてきている。それでも、あなたたちの活動が成功するまではと、堪えてきたんだ。それなのに、あなたは、『智の女神』を排除した後も、彼女を『象徴』として利用しようとしている……これでは、彼女は、いつまでも解放されないのではないか」
ここまで言うと、フェリクスは息を吐いた。
「あぁ……セレスティア殿は、君たちに話されたのですね。君たちなら、真実を知っても、彼女を受け入れると思っていましたから、特に心配はしていませんでしたが」
ふむふむ、と頷きながら、カドッシュが言った。




