利用価値
「本当に、鈍い男だな。察しが悪くて、王女に嫌われても知らんぞ」
グスタフの言葉に、フェリクスは頭を殴られたような気分になった。
察しが良くないというのは、彼自身も自覚している。
しかし、セレスティアに嫌われるなど、フェリクスは想像すらしたくなかった。
「何て顔をしているんだ。冗談を一々真に受けていたら身が持たないだろう?」
眉尻を下げるフェリクスを見て、グスタフが、やれやれと言いたげな顔をした。
「戦っている時は余裕すら感じたのに、こんな些末なことでオロオロして、おかしな奴だな」
「些末なことではないが……」
フェリクスは、半ば無意識に、ぼそりと呟いていた。
「なるほど。王女が、貴様を可愛らしいと言っていたのが、何となく分かったよ」
言って、グスタフは、くすりと笑った。
――セレスティアは、そんなことまで言っていたのか……?
何だか身を捩りたくなるような気持ちが込み上げて、フェリクスは頭を抱えた。
その時、部屋の扉を叩く音が聞こえた。
――セレスティアとアーブルが戻ってきたのか。
フェリクスが扉を開けると、青ざめた顔のセレスティアと、困惑した表情を見せるアーブルが立っていた。
「何か、あったのか?」
思わず、フェリクスはセレスティアの顔を覗き込んだ。
「――カドッシュさんと話し終わって部屋を出てきた時から、こんな風でさ。姫様は、みんなのいる所で話したいって言うから、俺も、まだ何も聞いてないんだ」
アーブルが、口を挟んだ。
「そうか……」
フェリクスは頷くと、セレスティアを空いている寝台に座らせ、自分も隣に腰かけた。
ふと、セレスティアが、泣きそうな顔で彼を見上げた。
フェリクスは、彼女を労わるように、その背中に優しく手を当てた。
「僕は、席を外したほうが良さそうだね。隣の部屋に行ってるよ」
もう一方の寝台に座っていたグスタフが腰を浮かしかけると、セレスティアが口を開いた。
「いえ……グスタフさんも無関係ではないので、ここにいてください。あなたの意見も、お聞きしたいのです」
「僕の意見? 君が、そう言うなら……」
セレスティアの言葉に首を傾げながらも、グスタフは再び寝台に腰を下ろした。
「ま、いい報告じゃないのは確かってとこか」
そう言うと、アーブルも空いていた椅子に座った。
しばらく逡巡した後、セレスティアは不安げな面持ちで、カドッシュから聞いたことについて話し始めた。
「――君が、『マレビト』だと? カドッシュが、そう言ったのか? ほぼ状況証拠のような気もするが」
彼女の話が、あまりに唐突に感じられて、フェリクスは戸惑った。
「たとえ、毛髪の鑑定結果に『人間』との大きな差異があったとして、『マレビト』と断定するには、比較する為に『マレビト』そのものの遺伝情報も必要ではないのか?」
フェリクスが疑問を口にすると、グスタフが言った。
「『智の女神』様が『マレビト』の遺した人工遺物だとすれば、その遺伝情報も記録されているんじゃあないか?」
「カドッシュさんの思い込みとか勘違いとも思いたいけど、毛髪の鑑定結果って『証拠』があるしな……切り落としたものを、そのまま置いてきたのは不味かったなぁ」
アーブルが、頭を掻きながら言った。
「だが、これで、『智の女神』様が王女を連れて来いと命じた理由も納得できる気がするよ。君が本当に『マレビト』なら、色々と利用価値がありそうだからね」
言って、グスタフが頷いた。




