◆象徴
「中央にいる協力者からの情報なのですが……ウェール王国の国境近くの洞窟で、切り落とされた毛髪が発見されましてね。白に近い金髪――あなたの髪と同じ色のものです」
カドッシュに言われて、セレスティアは、身元が分からないように長かった髪を切ったことを思い出した。
「切り落とされた毛髪からでも、帝国の技術であれば、個人の特定に繋がる鑑定が可能なのですよ。しかし、問題は、そこではありません。毛髪から検出された遺伝情報は、我々『人間』とは大きな差異のあるものだったそうです。――遺伝子については、多少はお聞きになったことがあるとは思いますが」
「大きな……差異……『人間』と……?」
セレスティアは、カドッシュの言葉を何度も反芻したが、導き出される答えは一つだけだった。
「私が、人間ではないと仰っているのですか?」
「まず、これまでに明らかにされている事実を整理してみましょう」
動揺するセレスティアを前に、カドッシュが淡々と語った。
「あなたの養父であるウェール王は、赤ん坊であったあなたを、『マレビト』たちの艦と言われる遺跡で発見し、我が子として手元に置いて育てた……しかし、いくら王自らが見つけた子供だとしても、自分の子として王族と同等の扱いをするのは異例なことでしょう。そこから考えるに、王は、あなたが『特別な存在』であると知っていたのではないかと思われます」
「お待ちください。伝説によれば、『マレビト』は、はるか昔に姿を消している筈です。仮に私が『マレビト』だとして、赤ん坊の状態で発見されたというのは、おかしくありませんか?」
セレスティアは、必死に反論した。いくら何でも、自分が「人間」ではないと言われて、すんなり受け入れることなど不可能だった。
「伝説によれば、『マレビト』は天より降り立った神々と言われていますが、近年では、宇宙の別の惑星、あるいは別の次元から渡って来た知的生命体であるという見方が一般的になりつつあります。また、それに伴い『智の女神』も、彼らの遺したものという認識が広まっています」
「…………」
「『マレビト』が、恒星間航行どころか次元すら超える技術力を持つ者たちであったなら、人工冬眠や、限定空間における時間停止といった方法を使って、あなたが赤ん坊である状態を維持していたと考えられます。現に、『智の女神』から伝授された魔導技術の中には、限定された空間内の時間を遅延させるものもあります」
「で、でも……『マレビト』は神の如き力を持つと言われています……私には、そこまでの力はありません……」
セレスティアは、意識の表面をカドッシュの言葉が滑り落ちていくような感覚に襲われながら言葉を絞り出した。
「あなたが、山の斜面を転落する車両の中で無事だったのも、奇跡などではなく『マレビト』の高い耐久力ゆえなのではありませんか」
「…………」
「どのような力を持つのかよりも、あなたが『マレビト』であるということそのものが重要なのですよ。彼らが別の世界から来た知的生命体であるという認識が広まっているとはいえ、多くの者にとって、『マレビト』は、まだまだ『信仰』の対象でもあります。あなたの存在自体が、帝国のみではない、人々の拠り所になると、私は考えています」
もしも、カドッシュの言うことが真実だとして、フェリクスが聞いたら何と思うだろうか――「人間」ではないという自分を、彼は、どんな目で見るのだろうか――いつしか、セレスティアの胸中は、そんな思いで占められていた。
「もちろん、あなた一人に何もかも背負わせるという訳ではありません。実際の政治的な事柄などは、私と、同志たちが行うことになりますので、ご安心ください」
言って、カドッシュは微笑んでみせた。
「今お話ししていただいたことを、私が口外しないとお思いなのでしょうか?」
「いずれは公表することですし、フェリクスくんたちに、お話ししていただいても問題ありませんよ」
――この人の中では、私を新しい世界の「象徴」とすることが、既に決定事項なのだ……
眩暈に似た感覚を覚えたセレスティアは、目を伏せて、小さく息をついた。




