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朴念仁と強がりと

 数日を共に過ごすうち、グスタフは憑き物が落ちた如く、以前のような皮肉めいた物言いが少なくなった。

 フェリクスたちが相手であれば、今更、虚勢を張って取り繕う必要もないと思っているのかもしれない。

 ある日、セレスティアがカドッシュに呼び出され、フェリクスかアーブルのどちらかが、彼女に付き添うこととなった。

 グスタフが単独行動を禁じられている以上、誰かが彼女と一緒に残らなければならない為だ。


「『(かせ)』は着けられたままだし、ここまで厳しくする必要があるのかとも思うが」


 セレスティアとアーブルが部屋を出ていくのを見送ると、フェリクスは傍にあった椅子に腰かけた。


「周囲の目というものがあるだろう。ここの連中にとって、僕は未だ『侵入者』であり『敵』だ。一朝一夕で印象は変わらないだろうさ」


 寝台に座っているグスタフが、肩を竦めて言った。


「……僕と貴様を二人きりで部屋に残していくなんて、セレスティア王女も、自信があるんだな。いや、貴様を信用しているということか」


「どういう意味だ?」


 彼女の言葉の意味を計りかねたフェリクスは、首を捻った。


「王女に、僕が貴様を好きだから、全てを捨てて追いかけてきたんだろうと言われたのさ」


 思わぬグスタフの言葉に、フェリクスの思考が一瞬停止した。


「いや……君には大怪我をさせたし、むしろ嫌われていると……」


「貴様も、鳩が豆鉄砲を食ったような顔ができるんだな」


 グスタフは、くすくすと笑ったが、()ぐに真顔になった。


「貴様に負けてから、たしかに、僕は貴様のことばかり考えていたよ。どうすれば、そこまでの力を付けられるのか……何故、圧倒的な力を持ちながら、そんなものには興味がないような顔をしていられるのか……『強さ』だけが全てと思っていた僕には、分からないことばかりだった」


「…………」 


「僕は、倒した相手を思いやるなんて考えたこともなかった。弱い者には生きる資格も価値もないと思っていたからだ。僕の知っている『強者』と言われる者たちも同じようなものだった。でも、貴様は違った……いや、そんな理屈はいいんだ」


 そこまで言うと、グスタフは数秒間、逡巡していたようだったが、再び口を開いた。


「一緒にいると、胸が苦しくなって、でも、居心地がいいとも感じる……貴様などに心を乱されるのは腹立たしいことこの上ないけど、本当のことだから仕方ない」


「……それで、俺にどうしろと?」


 かつて、マルムに言い寄られた時のことを思い出して、フェリクスは何とはなしに身構えていた。


「別に、何もないさ。貴様が王女しか見ていないのは(はな)から分かっているし、勝負にすらならないじゃあないか」


 そう言って、グスタフは皮肉な笑みを浮かべた。

 彼女の答えは、フェリクスにとって安心できるものではあると同時に、意外なものだった。


「何も……? 好きな相手は、独占したいと思うものではないのか?」


「じゃあ、貴様は、僕に力づくで(さら)われて監禁されて、毎日僕とだけ会う生活をしたら、振り向いてくれるのか?」


「それは……ないと思う」


「そうだろうね。そんなことをしても、誰も幸せになれない……だから、このままでいいんだ」


 グスタフが、半ば自分に言い聞かせるように言った。


「君は、強いな……」


 フェリクスは、自らの身に置き換えて想像してみたが、彼女のように考えることができる自信はなかった。


「痩せ我慢に決まっているだろう? 本当に、鈍い男だな。察しが悪くて、王女に嫌われても知らんぞ」


「えぇ……」


 狼狽(うろた)えるフェリクスを見て、グスタフが、からからと笑った。

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