興味
「……まったく、正気とは思えないな」
柔らかな寝台に腰を下ろして、グスタフが呟いた。
「同じ部屋にいるなら、私が監視していることになるという訳です」
そう言って、セレスティアは微笑んだ。
セレスティアは、組織の頭領であるカドッシュに、もはやグスタフには「リベラティオ」に敵対する意思がないとして、その待遇の改善を願い出た。
結果、部屋の寝台が一つ余っているということで、グスタフはセレスティアと同じ部屋で過ごすことになったのだ。
身体能力を著しく低下させる「枷」は着けたまま、単独行動は許可されず、勿論この本部から出るのは禁止という条件だが、それでも破格の扱いと言えるだろう。
「ユハニ・ヴァルタサーリは、君には随分甘いと見える。ところで、君の、お供たちは納得してるの?」
グスタフが、傍らに立っているフェリクスとアーブルに目をやった。
「君に敵対する意思がなく、かつセレスティアが承知の上なのであれば、言うことはない」
フェリクスは頷いた。
「『枷』が付いたままなら、あんただって何もできないだろうしな。ここまで来て、何か仕出かすとも思ってないけどさ」
アーブルが肩を竦めて言った。
「言っておくが、僕は『リベラティオ』に協力する気はないからね」
念を押すかのように、グスタフが言った。
「そこまで要求するつもりはありませんよ。ただ……私は、今まで歳の近い同性の方とお話しする機会が殆どなかったので、できれば、話し相手になっていただければと……」
微かに頬を染めるセレスティアを見て、フェリクスは少し複雑な気持ちになった。
──考えてみれば、セレスティアも、長い間、孤独な時間を過ごしてきたのだ。同性のほうが話しやすいこともあるだろうし、彼女が友人を欲しいと思うのも、何ら、おかしなことではない筈だが……
「そこの男……フェリクスとかいったか、本当は、あまり面白くなさそうな顔だね」
グスタフが言って、薄く笑った。
「貴様の大事な姫様を盗ったりするつもりはないから安心しろ。でも、嫉妬深い男は嫌われるぞ」
「お、俺は別に何も……」
図星をさされた気がして、フェリクスは狼狽した。
肉弾戦では勝てるかもしれないが、舌戦になると翻弄されそうだ、と、彼は思った。
「しかし、人一倍、努力はしてきたつもりだったが、貴様と戦って、上には上がいるというのが、初めて身に沁みたよ」
不意に、グスタフが少し寂しそうな微笑みを浮かべながら、ぽつりと言った。
「だが、君に食らった鳩尾への一発は痛かったぞ」
彼女との初めての戦闘を思い出し、フェリクスは自分の鳩尾を撫でた。
「普通は、『痛かった』程度で済まない筈なんだけどね……」
フェリクスの言葉に、グスタフは半ば呆れた顔で、小さく溜め息をついた。
「僕と戦った時も、全力は出していなかっただろう。どんな修練を積めば、貴様ほどの強さが身に付くんだ? いや、もう生まれつきの素質が違うとしか思えないな」
「俺は、半年ほど前に、ある村の近くの森で倒れているところを保護されたのだが、それより前の記憶はない。だから、残念だが、君の参考になるような情報は提供できない」
「そうなのか。てっきり、王女付きの騎士か何かだと思っていたよ」
少し拍子抜けした様子で、グスタフが頷いた。
「今は、姫様専用騎士みたいなものだろ」
アーブルが言って、片目をつぶってみせた。




