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捨てる命を拾う者は

 先刻までの気迫が抜け落ちたグスタフの表情から、フェリクスは、諦念と、どこか悲哀に似たものを感じた。

 フェリクスは、身を屈めると、彼女を抱き上げた。


「何を……?!」


 グスタフが、驚きで目を見開いた。


「カドッシュ、どこへ運べばいい? このまま、転がしておく訳にもいかないだろう。彼女が俺を追って、ここまで来たのなら、俺にも責任の一端はある」


 フェリクスが言うと、カドッシュが頷いた。


「そうですね……では、こちらへ」


 その時、聞き慣れた声が近付いてくるのに、フェリクスは気付いた。


「フェリクス、大丈夫ですか?」


 セレスティアとアーブルも、庭園へ出てきていた。


「悪い、フェリクス。姫様が、あんたのことが心配だって言うから……状況が落ち着くまで、そこで隠れて様子を見てたんだ」


 アーブルが、ばつの悪そうな顔で言った。


「そうか……アーブルは、セレスティアに甘いからな」


「あんたが、それを言うかぁ?」


 フェリクスの言葉に、アーブルが、からからと笑った。

 不意に、フェリクスの腕の中で、グスタフが、ぽつぽつと絞り出すように言った。


「……殺せ……僕には、もう行くところもない……貴様に勝つこともできず、生きている意味もない……」


 その言葉を聞いたアーブルが、眉根を寄せた。


「……はぁ?! 負けたくらいで、何だって言うんだよ……せっかく生きてるのに、甘えるなよ!」


 彼が、これほど、不快感を露わにするのは珍しいと、フェリクスは驚いた。


「貴様に……何が分かる……」


 グスタフが、その美しい顔を歪めた。それは、涙を(こら)えているかにも見えた。


「……捨てる命なら、私が預かります」


 それまで、成り行きを黙って見ていたセレスティアが言った。


「セレスティア殿……?」


 カドッシュが、やや驚いた様子で彼女を見た。


「目の前で命を捨てようとしている方を放ってはおけません。それに、私にも関係のあることですから」


 セレスティアの言葉に、カドッシュは何か考えている素振りを見せていた。


「……分かりました。では、彼女の処遇は、セレスティア殿にお任せしましょう。ただし、この『本部』から出すことだけはできません。よろしいですね」


 カドッシュが言うと、周囲にいた構成員たちの間に、驚きと不満が入り混じる、小さなざわめきが起きた。しかし、正面から反対する者は、なかった。

 構成員たちの案内で、フェリクスはグスタフを地下施設へと運んだ。彼女は、俎上(そじょう)の魚の如く、ぐったりと成すがままにされている。


「君が、あんなことを言うとは思わなかった」


 一緒に付いてきているセレスティアに、フェリクスは声をかけた。


「その方、何だか、とても寂しそうで……放っておけなくて」


「君は、優しいな。俺も、できることなら、誰の命も奪いたくはない」


 セレスティアの言葉に、フェリクスは頷いた。


「まったく、二人とも甘いんだよなぁ。そこが、いいところでもあるんだけどさ」


 半ば呆れた様子で、アーブルが笑った。

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