燭台の真下は暗い
フェリクスたちを乗せた車両は、ヴァルタサーリ家の別邸へ到着した。
「皇宮が見える距離に、反帝国組織の本部があるとはね」
「近すぎて、却って気付かれないのか」
フェリクスとアーブルは、別邸とはいえ、貴族の本宅だと言われれば納得してしまう規模の屋敷を見上げた。
「燭台の真下は暗いという言葉がありますからね」
セレスティアの言葉に、二人は頷いた。
別邸には、魔法技術を研究開発する為の設備があり、当主であるユハニ──カドッシュが入り浸っても、全く怪しまれることはないらしい。
反帝国組織「リベラティオ」の本部は、その地下にあるのだ。
「ようこそ、『リベラティオ』本部へ」
先に本部へ着いていたカドッシュが、フェリクスたちを出迎えた。
政治宣伝映像の効果か、フェリクスたちは、組織の構成員たちから熱烈な歓迎を受けた。
もちろん、彼らの目当てはセレスティアだろう。
心なしか浮ついた様子の構成員たちに、フェリクスは、ほんの僅かだが苛立ちを覚えた。
フェリクスが、セレスティアに興味津々な構成員たちをぐるりと見回すと、彼らの間に緊張が走った。
「フェリクス、みんな、ビビッちまってるぞ。ここで姫様にチョッカイ出そうなんて奴はいないだろうし、そんな怖い顔するなよ」
アーブルが苦笑いしながら言った。
「皆、フェリクスくんの記録映像を見ていますからね。今は、『リベラティオ』で、君の強さを知らない者はいないでしょう」
カドッシュの言葉に、フェリクスは複雑な気持ちになった。
──セレスティアを守る為に、自分の力は必要なものであると納得はしている。しかし、危害を加えるつもりなど無いのに他者から恐れられるのには、慣れないものだ……
その時、セレスティアが、フェリクスの袖の端を、周囲から見えないように、そっと摘まんで、彼の顏を見上げた。
「分かっているから」とでも言うように、セレスティアが微笑むのを見て、フェリクスも、波立った胸の内が鎮まっていくかに思えた。
そうこうするうちに、カドッシュの案内で、広間のような部屋に通されたフェリクスたちは、組織の幹部のうち、現在本部にいる数人を紹介された。
幹部の中には、魔法技術や医療の専門家などもいたが、その出身は平民であるという者も珍しくないという。
「出身に拘っていては、有能な人材を見逃してしまいますからね」
そして、誰もが平等に尊重される世界を作りたいと、カドッシュは言った。
フェリクスも、その言葉に嘘は感じなかった。




