表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/117

遠くなる(挿し絵有り)

 翌日、いよいよセレスティアの政治宣伝(プロパガンダ)映像の制作が始まった。

 女性の構成員たちによって薄らと化粧を施され、白いドレスをまとったセレスティアは、どこから見ても(まご)うことなき王女だ。


「それでは、視線は、こちらに向けてください」


 映像を記録する係の指示に従って、セレスティアは何度か予行練習を重ねた。

 フェリクスとアーブルは、できることがない為に、部屋の隅で待機している。

 途中で休憩を挟みつつ、映像の収録が終了した。


「配信用の映像が完成しました」


 情報端末で何かの作業をしていた構成員が、顔を上げて言った。


「では、確認しましょう」


 カドッシュが言うと、構成員は板状の情報端末を皆に見えるように持って、その画面に映像を浮かび上がらせた。

 先刻収録した、セレスティアが演説している映像に、背景と音楽が合成されている。

 どこか(うれ)いを帯びた表情で、戦火に焼かれた国々の惨状と、平和への願いを訴えるセレスティアの姿は、フェリクスにとって神々しく見えるものだった。


挿絵(By みてみん)


「なかなか凝ってるなぁ。軍にいた頃は、色々規制されてて、こんなものは見られなかったけどさ」


 アーブルが、感心した様子で呟いた。


「これが自分だなんて、なんだか不思議な感じです」


 少し恥ずかしそうな顔で、セレスティアが言った。


「彼は、元々は国営の映像制作を担当する部署にいた方ですからね。本職の技というものですよ」


 カドッシュは、そう言って、映像を編集した構成員の肩に手を置いた。


「俺は、以前は帝国の元で働いていましたが、カドッシュ様の考えに賛同して、ここに来ました。自分の持つ技術でお役に立てるなら、これ以上のことはありません。他にも、そういう人は大勢いますよ」


 編集担当の男の言葉に、他の構成員たちも頷いた。


「帝国の中央にも、カドッシュ様に協力する方がいらっしゃると、お聞きしました」


「ええ。表に出せないだけで、『智の女神』による支配への危機感を抱く方たちは、中央にも少なからずいます。セレスティア殿にご協力いただいた政治宣伝(プロパガンダ)映像は、きっと高い効果があると思います」


 セレスティアの言葉に、カドッシュが微笑みながら答えた。



 早速、セレスティアの政治宣伝(プロパガンダ)映像は、帝都の一部地域で何度か配信された。

 少し経ってから、帝都にいる「リベラティオ」構成員からの連絡で、その反響が予想以上に大きいことが分かった。

 内容よりも、セレスティアの美しさに惹かれ、映像を自分の手元に保存した若者たちの間で、彼女の人気が高まっているという。


「どういうきっかけであれ、我々の考えと目的を多くの人々に知ってもらえるというのは大きいことです」


 帝都からの報せを受けて、カドッシュが言った。


「そりゃ、あんな綺麗な姫様にお願いされたら、聞いてあげなきゃって思うよな」


 そう言って、アーブルが笑った。

 一方、フェリクスは、複雑な気持ちだった。

 セレスティアの存在が人々の心を動かすのであれば、それは素晴らしいことなのだろうと思う反面、奪われた、と感じる自分がいた。

 政治宣伝(プロパガンダ)映像の反響に手ごたえを感じたのか、カドッシュは、演出などを変更して、第二弾、第三弾の映像制作を決定した。

 フェリクスとアーブルは、セレスティアの護衛という立場上、彼女が映像の収録に参加している間も、傍で控えている格好ではあった。

 しかし、セレスティアと話す相手が、カドッシュや映像制作に関わる構成員たちへと偏りがちになるにつれ、フェリクスは、胸の内に、何かもやもやする不快なものが(おり)のように沈むのを感じた。

 それは、やがて苛立ちとも焦りともつかないものへと変わっていった。

 手を伸ばせば届く筈なのに、セレスティアが遠くに行ってしまうかのような焦燥感があった。

 もはや、彼女が自分以外の人間と話しているところを見るだけで、フェリクスは不快な気持ちを覚えるようになっていた。



「フェリクス、ここ何日か、いつもと様子が違って見えるんだけど、どうかしたのか?」


 寝室で眠りにつこうとしたフェリクスに、アーブルが声をかけた。


「……別に、何もないが」


「そうか? なんか、ずっと怖い顔してるからさ」

 

 アーブルの言葉を聞いて、フェリクスは、ささくれ立った神経に触れられるような気持になった。


「何でもないと言っている」


 フェリクスは、そう言って、頭まで毛布を被った。


 これ以上、口を開けば、自分が何を言ってしまうか分からないと思った。


「……あんただって、言いたくないことはあるよな。話す気になったら言ってくれればいいよ。俺、口は堅いほうだから」


 おやすみ、と言って、アーブルは部屋の照明を落とすと、自分も寝台に潜り込んだ。

 アーブルが気を遣ってくれているのは、フェリクスも理解していた。

 彼に素っ気ない態度をとってしまったことを申し訳なく思い、そんな自身に対する嫌悪感が生じていた。


 ──こんなに、感情が制御できないなんて……自分は、一体どうしてしまったのか。


 毛布の中で、フェリクスは身体を丸め、溜め息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ