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無為徒食ではいられない

 反帝国組織「リベラティオ」の隠れ家の一つ、古城の地下施設。

 その厨房で、フェリクスとセレスティア、そしてアーブルの三人は、イモの皮を剥いている。

 組織の頭領であるカドッシュが、所用の為に帝都に戻ってから、数日が経っていた。

 彼が帰ってこない限り、今後の予定は立たず、フェリクスたちは、無為な時間を過ごすだけなのだ。

 村で老夫婦と暮らしていた頃のフェリクスは、彼らの仕事を手伝うのが当たり前になっていた。

 ゆえに、衣食住を無償で与えられているのは、彼にとって居心地の悪いものだったし、アーブルもセレスティアも、それは同様らしかった。

 しかし、雑用の手伝いを申し出ても、フェリクスたちは頭領の客人という扱いであるからと、当初、組織の構成員たちは固辞し続けた。

 それでも、自分たちも手持無沙汰なのは辛い、と構成員たちに訴えた結果、厨房の手伝いなら問題ないだろう、ということになり、フェリクスたち三人は野菜の下ごしらえに勤しんでいるという訳だ。

 組織の活動に関することについては、機密事項もある為、現時点では触れないほうがいいと、構成員たちは判断したらしい。


「フェリクスは、器用ですね」


 イモの山を前に、ぎこちない手つきでナイフを使いながら、セレスティアが言った。


「前に住んでいた村で、色々教わったんだ。君だって、初めてなのに、ちゃんとできているじゃないか」


「でも、私が一つ剝いている間に、フェリクスは三つは剥き終わっているし……」


「ところで、このイモって、何に使うんだ?」


 せっせと手を動かしながら、アーブルが言った。


「茹でて潰して、肉料理の付け合わせにすると聞いた」


「そうなのか……油で揚げても旨いんだけどなぁ」


「それもいいな。村で暮らしていた時、シルワが時々作ってくれた、煮た挽肉(ミートソース)と溶けた乾酪(チーズ)をかけたものが旨かった」


 シルワの手料理の数々を思い出し、あれらは、もう二度と食べられないのだと、フェリクスは切ない気持ちになった。 


「あの……シルワさんって、どなたなのでしょうか?」


 セレスティアが、フェリクスに問いかけた。


「あぁ、俺が以前住んでいた村で世話になっていた人だ。もう亡くなってしまったが」


「お料理が、上手な方なのですか?」


「そうだな。料理も裁縫も上手で、今思うと、家の中は常に綺麗に片付いていた。働き者で、優しい人だった」


「素敵な方だったのですね」


 何故か、セレスティアの顏に(かげ)りが差した。


「姫様、もしかして、何か誤解してない?」


 アーブルが口を挟んだ。


「シルワって人はダンナさんがいたし、その二人って、フェリクスの親代わりだったんだろ?」


「……そうだが」


 フェリクスは、アーブルの言わんとしていることが今一つ見えず、首を傾げた。


 一方、セレスティアは、何故か安堵の表情を見せた。


「よく、フェリクスの話にお名前が出るので、親しい間柄の方だったのかと……殿方は、お料理の上手な方が好きですよね。私は、殆ど経験がなくて……」


「できるのに越したことはないかもしれないが、君に料理の経験が無いなら、俺がやればいいだけの話だ」


 当然だとばかりに、フェリクスは言った。


「でも、私も、お料理を覚えたいです。そうすれば、できることが増えるでしょう?」


「そうだよなぁ、フェリクスの為にできることが増えるもんな」


 そう言って、アーブルが片目をつぶってみせると、セレスティアは、頬を染めて、目を逸らした。

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