二人の時間
昼食を済ませたフェリクスは、セレスティアと共に「資料室」を覗いてみることにした。
組織の頭領であるカドッシュが帝都から戻るまでは、彼らも、することが特に無い為、手持ち無沙汰なのだ。
一方、アーブルは、戦闘員のホルヘたちに剣の扱い方を習いたいと言って、再び訓練場に向かった。
セレスティアが、その後ろ姿を見送りながら、微笑んでいる。
「アーブルは、身体を動かすのが好きなのですね」
「そうかもしれないな」
フェリクスは、そう答えながら、ふと、アーブルが自分たちに気を遣ったのかもしれない、と思った。
案内役の構成員と共に資料室へ入ったフェリクスは、室内を見回した。
机に似た形の情報端末と座席が数組設置されている他には何もない、殺風景な部屋だ。
「操作方法は、説明した通りです。ここの情報端末は、単独機能……外部とは繋がっていませんから、安心して閲覧できますよ」
案内役の構成員は、そう言うと、部屋を後にした。
「この中に、何冊もの本の内容が入っているのですか?」
セレスティアが、情報端末の、机で言えば天板にあたる部分を指先でなぞりながら、不思議そうに言った。
やや傾斜のついた天板の部分には、飛空艇の操縦席で見た、文字や記号が浮き出る板に似た物が嵌め込まれている。
「とりあえず、起動してみよう」
フェリクスは、情報端末の前に置かれた椅子に座り、案内役に教えられた呪文を唱えてみた。すると、情報端末の天板が淡く光り、文字と記号が浮き出た。
天板には、「歴史」「地理」「自然科学」など多彩な項目が表示されており、文字に触れると、その内容が現れるらしい。
セレスティアも、隣の席に座ると、フェリクスに倣って、情報端末を起動させた。
「……物語のようなものは、入っていないのですね」
「『資料室』だから、実用的な内容のものしかないのかもしれないな。……だが、この『自然科学』の項目には、映像もあるぞ」
フェリクスが、「動物」と書かれた文字に触れると、画面に野生動物の記録映像が現れた。
次々に映し出される、動物たちの親子の映像に、セレスティアも目を細めた。
「可愛らしいですね……フェリクスも、動物が好きなのですか?」
「なぜ、そう思う?」
「だって、動物の子供を見ている時、とても優しい目をしているから……」
「そうか? たしかに、こういった、ふわふわしたものを見ると、君を見ている時と同じように、胸の奥が、むずむずするな……」
「あら、私は、動物の子供と同じということでしょうか」
「い、いや、そういう訳ではなくて……」
「……冗談ですよ」
二人は、顔を見合わせて笑った。
束の間だが、ここにいる理由すら忘れそうな、穏やかで幸福な時間だ。




