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手合わせ

「フェリクスさん、俺と手合わせしてくれないか」


 若い──おそらく、まだ十代であろうと思われる戦闘員の一人が、フェリクスに言うと、他の戦闘員たちは、ざわめいた。


「やめておけ、タイラン。お前が『戦士型の異能』とはいえ、格が違い過ぎるだろう」


「格が違うから、ですよ。皇帝守護騎士(インペリアルガード)と同等か、それ以上の相手と手合わせできる機会なんて、普通は、ないじゃないですか」


 (たしな)めるホルヘに、タイランと呼ばれた若い戦闘員は食い下がった。


「……俺は、構わないが」


 タイランの熱心な様子を見て、フェリクスは手合わせを承諾した。

 彼から、強くなりたい、という意思を感じて、少しでも手助けになるのであれば、と思ったのだ。


「では、軽く揉んでやってください。これは、訓練用のナマクラですが、当たれば痛いので」


 やれやれ、といった顔で、ホルヘが訓練用の長剣をフェリクスに手渡した。


「フェリクス、あんまり、いじめるなよ」


「殺さないようには、する」


 冗談めかした口調で言ったアーブルを横目に、タイランは眉根を寄せたが、フェリクスの言葉を聞いて、一瞬ぎょっとしたようだった。

 フェリクスは、皆から少し離れた場所へ移動し、剣を構えた。


「いつでも、かかってきていいぞ」


「よろしくお願いします!」


 タイランも、少し緊張した面持ちで、フェリクスに向き合った。


「今、フェリクスさんが取っている『脇構え』は、左半身が無防備に見えるが、逆に言えば攻撃を誘いやすい……つまり、何も考えずに突っ込めば後の先(カウンター)を食らうということだ」


 ホルヘが他の戦闘員たちに説明しているのを聞いて、フェリクスも、なるほどと思った。


 ──理屈など何も考えずとも、身体が動いてしまう……やはり、自分には「戦い」が染みついているのだろうか。


「いくぞ!」


 タイランが、素早い踏み込みで上段の構えから剣を打ち込んでくる。それなりの修練を積んでいると分かる身のこなしだが、フェリクスの目から見れば、隙だらけと言えた。

 何合か打ち合った後、フェリクスの一撃がタイランの剣を弾き飛ばした。

 自分の剣が床に落下する様を前に、タイランは、何が起きたのか分からないといった様子で、呆然としている。


「参りました……」


 我に返ったタイランが、まだ痺れが残っているのか、剣を握っていた右手をさすりながら言った。

 ほんの数分ほどの手合わせで息を切らせているタイランに対し、フェリクスは汗ひとつかくことなく佇んでいる。


「怪我をさせないようにと思って、剣を弾いたんだが、これで良かったのか?」


「あれでも、全力だったんだけどな。やっぱり、皇帝守護騎士(インペリアルガード)に勝つような人は違うな……」


 タイランは、恥ずかしそうに頭を掻くと、フェリクスに向かってお辞儀をした。


「俺が見たところ、実戦なら少なくとも十回は死んでいたぞ」


 ホルヘが、顎を撫でながら頷いている。


「俺たちは『異能』じゃないから、そもそも二人の動きが速すぎて、何が起きてるのか見えなかったけどな」 


 戦闘員の一人が混ぜ返すと、一同の間に笑いが起きた。

 その後、フェリクスは、他の戦闘員たちにも、剣や格闘の技を教えて欲しいとせがまれた。

 しかし、それは困難であることが、(じき)に分かった。

 どの技も、フェリクスにとっては自然にできるものであり、なぜ他人が同じようにできないのかが、彼には分からなかった為だ。


「強い人が、教えるのも上手とは限らない……天才には、ありがちなことらしいですね」


 ホルヘの言葉に、フェリクスは複雑な気持ちになった。


 ──自分は、戦う方法を、どのように学習したのかも、全く思い出すことができない……戦う方法以外の知識も、取って付けてあったように感じることがある。まるで、村で目覚める前の自分など、存在していなかったのではないかと思うほどに……


 フェリクスは、ずっと忘れていた、モンスとシルワの家で目覚めた時の、言い知れぬ不安が、胸の内に再び湧き出すのを感じた。

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