訓練場にて
「リベラティオ」の隠れ家に着いた翌朝、フェリクスは、食堂でセレスティアやアーブルと共に朝食を摂っていた。
ここでは、組織の構成員たちが交代で炊事をしているらしい。考えてみれば、当然のことだ。
何か手伝おうか、とフェリクスたちは言ったものの、「頭領の客人に、そのようなことはさせられない」と、丁重に断られたのだった。
「反帝国組織の中にいるってのに、今までで一番落ち着いてメシ食ってるなんて、何だか不思議だな」
おかわりした野菜のスープと肉団子を美味そうに頬張りながら、アーブルが呟いた。
「ずっと粗食だったし、食べられるうちに食べて、体力を回復したほうがいいだろう。これから、何があるか分からないからな」
「そうですね……」
フェリクスの言葉に、セレスティアが頷いた。
何とはなしに、彼女の手元を見ていたフェリクスは、その所作の美しさに気付いた。
そういう部分を見れば、やはり、王族の一人として育てられただけのことはあるのだ、と、彼は思った。
三人が食事を終える頃合いを見計らっていたのか、一人の大柄な男が近付いてきた。
「ちょっと、よろしいですか?」
その男に、フェリクスは見覚えがあった。
国境を超える際に、「リベラティオ」から迎えに来た構成員の一人で、護衛を担当していると言っていた記憶がある。
「何か、用でも?」
「戦闘員たちが、フェリクスさんとアーブルさんに是非会いたいと言っていて……少し、訓練場にお付き合いいただければと」
「俺は、構わないが。アーブルは、どうする」
フェリクスは、アーブルに問いかけた。
「別に、いいけど」
「私も、ご一緒してよろしいでしょうか?」
アーブルとセレスティアが、同時に言った。
「君を、一人にする訳ないだろう?」
フェリクスが言うと、セレスティアは安堵した表情を見せた。
ホルヘと名乗る構成員に案内されて、フェリクスたちは訓練場へ入った。
場内では、二十人ほどの若い男たちが、基礎的な動作の訓練をしたり、格闘や剣の手合わせ、射撃などを行っている。
「私を含め、ここにいる者は戦闘員です。もっとも、我々の役目は、暴力で目的を達成することではなく、身を守る術を持たない構成員たちを守ることですが」
そう言うと、ホルヘは訓練中だった他の戦闘員たちに声をかけた。
フェリクスとアーブルの姿を見た戦闘員たちは、即座に訓練を中止して集まってきた。
「あんたの記録映像見たぜ!すげぇな!」
戦闘員の一人が、興奮気味にフェリクスの肩を叩いた。
「おいおい、落ち着かないか」
ホルヘが、戦闘員たちを窘めた。
「記録映像なんて、あったんだ」
アーブルが、目を丸くした。
「フェリクスさんと皇帝守護騎士の戦闘記録が、サレから送られてきていたので……ご覧になりますか」
そういえば、偵察用の魔導絡繰りで、グスタフとの戦闘の様子を見ていたと、サレが言っていたっけ──と、フェリクスは思い出した。
戦闘員の一人が持ってきた、板状の情報端末を受け取ると、ホルヘは起動の為の呪文を唱えた。
情報端末の表面に、アーブルを追いかけようとする皇帝守護騎士・グスタフと、それを阻止するフェリクスの姿が浮かび上がる。
「こうして自分の姿を見るというのは、何だか妙な気分だな」
フェリクスは、首を捻った。
「帝国の技術は、私などの想像を遥かに超えているのですね……あぁ!」
グスタフに殴り飛ばされるフェリクスの映像を見て、セレスティアが小さく悲鳴をあげる。
「私たちが逃げている間に、こんなことになっていたなんて……」
「あれは、かなり痛かったが、その時だけだったから、大したことはないさ」
フェリクスの言葉に、戦闘員たちがざわめいた。
「普通の人間なら即死してるし、『戦士型』の異能でも、すぐには動けないと思うぞ」
「『戦士型』というのは、何だ?」
聞き慣れない言葉を耳にしたフェリクスは、ホルヘに尋ねた。
「『異能』の中でも、頑丈な肉体と高い身体能力を持つ者を、我々は、そう呼んでいます。ここの戦闘員の中にも、私の他に数人いますよ。ちなみに、セレスティア殿のように不可思議な力を持っている者は『特殊型』、また魔法を使う際、一度に扱うことのできる『マナ』の量が極端に多い者を『術者型』と呼びます」
「つまり、俺やアーブルは『戦士型』ということか」
「そうです。『戦士型』は、『異能』の中でも、比較的多いと言われています」
二人が話している間に、記録映像は、フェリクスとグスタフの攻防の場面へと進んでいる。
「再生速度を落としてくれ。そのままじゃ、何が起きているか分からないぞ」
「皇帝守護騎士の戦闘なんて、普通の人間の目じゃ見えないからな」
誰かが言うと、映像の動きが緩やかになった。
「フェリクス……こんな相手に、手加減して勝つなんて、本当に凄いんだな」
アーブルの無邪気な賞賛の言葉が、フェリクスの胸に、ちくりと刺さった。
「私でも、皇帝守護騎士と一対一では二秒も持たないでしょうね」
ホルヘが、何度も頷きながら言った。




