仮面の男3(挿し絵有り)
──アーブルは、これで相手の出方を見るつもりなのだ。
そう考えたフェリクスも、口を開いた。
「俺も、アーブルと同じ考えだ。この組織に関わって、セレスティアを少なからず危険に晒す可能性があるなら、尚更あなたのことを知らなければならない、と思う」
セレスティアが、やや驚いた様子で、フェリクスとアーブルを交互に見やった。
「貴様ら、カドッシュ様が、よからぬことを考えているとでも言いたいのか!」
先に反応したのは護衛たちのほうだった。
周囲の空気が、ぴりぴりと張りつめる。
「落ち着いてください」
あくまで穏やかに、カドッシュが護衛たちを窘めた。
「申し訳ありません」
護衛たちは、即座に姿勢を正した。カドッシュの人望によるものなのだろう。
「君たちの言う通りですね。こちらこそ、失礼しました」
カドッシュは、そう言うと、両手の指先で、こめかみに触れた。
かちり、という金属音と共に、彼の仮面が外れ、その下の素顔が露わになった。
若々しく、一目見て聡明な印象を受ける面立ちだ。髪と同じ、夜の闇を思わせる黒い瞳が、フェリクスたちを淡々と見ている。
その様子を見た護衛たちが、目を剥いていた。
護衛たちの態度を見るに、カドッシュが素顔を晒すのは、滅多にないことなのかもしれない。
「あ、あんた……」
どういう訳か、カドッシュの素顔を目にしたアーブルも、驚きの表情を浮かべている。
「彼を、知っているのか?」
「映像でしか見たことないけど、俺の記憶が正しければ、この人は……帝国十二宗家の当主の一人だ」
フェリクスの問いかけに答えながら、そんな馬鹿なとでも言いたげに、アーブルは首を横に振った。
「アーブルくんの言う通りです。私の本当の名は、ユハニ・ヴァルタサーリ……帝国十二宗家の一つ、ヴァルタサーリ家の当主でもあります」
カドッシュが、そう言って頷いた。
「帝国十二宗家は、建国の際に功績のあった者たちが、高い地位と権力を与えられたところから続く、特権階級と聞いている。『智の女神』が排除され、帝国が瓦解したなら、あなたも多くのものを失うのではないか?」
ずっと抱いていた疑問を、フェリクスはカドッシュに投げかけた。
「全てに見て見ぬ振りをしていても、私が生きている間くらいは、帝国も持ちこたえるかもしれません。しかし、このままでは、いずれ人間そのものが滅びると、私は考えています。そして、戦争が始まったことで、その流れが、更に加速しています」
「カドッシュ様……ユハニ様は、ご自身に与えられた力を以て、その『流れ』を止めたいと、お考えなのですね」
カドッシュの言葉を受けて、セレスティアが言った。
「ご理解いただけたようで、何よりです。それと、『リベラティオ』として活動する時の私は、カドッシュ・ミウネということで、お願いします」
柔和な微笑みを浮かべて、カドッシュが答えた。




