仮面の男2
「……我々の組織の目的については、既にお聞きかと思いますが」
上品な所作で、茶を一口飲んだカドッシュが、再び口を開いた。
「我々は、『智の女神』の機能停止もしくは破壊によって、その支配から国民たちを解放すること、そして停戦を目的として活動しています」
「『智の女神』は、帝国の根幹を成している存在とお聞きしています。本当に、そのようなことが可能なのでしょうか」
セレスティアが、問いかけた。
「可能かどうか、でなはく、実現しなければならないのです」
穏やかだが、強い意志を感じさせる口調で、カドッシュが答えた。
「『智の女神』は、古い文明の遺物と言われています。かつては、その知識と分析能力により、我々の文明の発展にとって多大な恩恵をもたらしてきた存在であるのは確かです。しかし、所詮は『魔導絡繰り』……経年劣化も、当然、起こり得ます。現に、ここ数十年ほどの施策には粗が目立ちます。にも関わらず、多くの人々は『智の女神』に依存し続け、自ら判断することを放棄している」
「古くなって不調が起きているのであれば、直すことはできないのでしょうか?」
「残念ながら、『智の女神』の中枢部分は密閉状態になっています。はるかな過去に、何度か内部構造を明らかにしようとした者はいたものの、全員が『彼女』に拒まれた挙句、自衛用の武装により、『排除』されたそうです。以後、『智の女神』の機嫌を損ねてはいけないという、暗黙の了解が生まれました」
「そんな……」
「そして今、帝国は『智の女神』に従って世界統一を謳い、あらゆる国に戦争を仕掛けています。その戦略や戦術に対し、実は軍部でも疑問を持つ者は多い……それでも、口に出すことは禁忌とされています。しかし、我々が従っているのが、『壊れた機械』だとしたら?」
「『壊れた機械』の為に、沢山の人々が亡くなっている、ということですか」
セレスティアが、眉を曇らせた。帝国の侵攻により全てを失った彼女にとって、それは、あまりに理不尽と言えるだろう。
「今や役目を終え、害悪でしかなくなった『智の女神』を排除し、我々は自立する時に来ているのです。その為には、セレスティア殿にも、ご協力頂ければと」
微かな違和感──カドッシュの話は、確かに理路整然としている。しかし、仮にそうでないとしても、どこか他人を従わせてしまう力があるように、フェリクスには感じられた。
「お話は、分かりました。でも、私に、一体何ができるのでしょうか」
「ちょっと、いいかな?」
セレスティアの言葉を遮って、アーブルが言った。
「あんたの言うことは、その通りだって思う。けど、俺たちも命を張ることになるんだろ? 正体を隠したままの奴を、俺は信用できないね」
「無礼な……」
アーブルの言葉に、護衛たちが険しい表情で呟いた。
「生憎、育ちは良いほうじゃないのさ。併合領の出だからな」
そう言うと、アーブルは、にやりと笑った。




