仮面の男1(挿し絵有り)
案内役の構成員に伴われ、フェリクスたちは地下通路を進んでいった。
近代的な造りの通路には規則的に照明が設置されている。
外側は見たままの廃棄された古城だが、地下の施設には魔導絡繰りの動力源である魔導炉も存在するらしい。
フェリクスは、ふと、傍らを歩いているセレスティアとアーブルの顔を見やった。
地下施設に入ってからは、二人とも緊張した面持ちを見せている。
視線に気付いたセレスティアが、フェリクスの顏を不安げに見上げた。
少しでも、彼女の気持ちを和らげたいと、フェリクスは微笑みながら頷いてみせた。
まだ村で平穏に暮らしていた頃、分からないことばかりで不安だったフェリクスに、モンスとシルワが、「心配はいらない」といった意味で、しばしばそうしてくれたのを思い出したのだ。
フェリクスの顔を見たセレスティアも、分かった、という様子で頷き返した。
通路に並んだ扉の一つの前で、案内役が足を止めた。
「こちらに、『頭領』がいらっしゃいます」
そう言って、案内役の男が扉を叩くと、部屋の中から、男の声で「どうぞ」と返事があった。
案内役は扉を開けて、フェリクスたちに部屋に入るよう促した。
客間なのだろうか、床には絨毯が敷かれており、二台の長椅子が卓子を挟んで向かい合わせに配置されている。
一方の長椅子には、長い黒髪を緩く束ね、暗赤色のローブをまとった、「頭領」と思しき男が座っていた。
目を引くのは、その顔の上半分を覆った銀色の仮面だ。露わになっている口元や顎の辺りを見ると、三十代前半に見える。
構成員たちの話を思い返せば、「頭領」は身分の高い人物である為、正体を知られたくないのだと考えられた。
傍らには、護衛と思われる、見るからに屈強な男が二人立っていた。
仮面の男は、フェリクスたちの姿を認めると、ゆらりと立ち上がった。
フェリクスは平均よりも背丈の高いほうであるが、仮面の男も彼と変わらないくらいの体格だ。
「カドッシュ様、セレスティア王女と、お連れの方たちです」
案内役は、そう言うと、一礼して部屋を出た。
「ようこそ、おいでくださいました。どうぞ、お掛けください」
カドッシュと呼ばれた仮面の男が、長椅子を指し示して言った。よく通る、落ち着いた声だが、表情は仮面に隠されており、感情を読むことはできない。
フェリクスとアーブルがセレスティアを間に挟む形で、彼らは長椅子に腰を下ろした。
その様子を見て、カドッシュも再び座ると、口を開いた。
「……私が、反帝国組織『リベラティオ』の頭領、カドッシュ・ミウネです」
「私は、ウェール王国の王女、セレスティアと申します」
セレスティアは、両隣りにいるフェリクスとアーブルに目をやった。
「彼らは、フェリクスとアーブル……帝国の侵攻を受けて脱出した私を、これまで助けてくれた方たちです」
言って、セレスティアが、カドッシュを真っすぐに見つめた。
彼女の、先刻までの不安げな様子とは打って変わった、凛とした横顔に、フェリクスは、一瞬見とれた。
「この度は、我々の要請に、お応えいただき、大変ありがたく思います。ウェール王国の惨状は聞き及んでいましたが、セレスティア殿だけでもご無事で何よりです」
「お気遣い、ありがとうございます」
カドッシュとセレスティアのやり取りに、これが型通りの挨拶というものだろうかと、フェリクスが思っていたところへ、扉を叩く音が聞こえた。
カドッシュの許可を得て、部屋に入ってきた構成員が、人数分の茶碗を配った。
発酵させた茶葉から抽出した茶の甘い香りが、鼻をくすぐる。かなり質の良い葉を使っているのが、フェリクスにも、何とはなしに分かった。




