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君が笑ってくれるなら

「あの……」


 何か考え込んでいた様子のセレスティアが、口を開いた。


「あなた方は、色々な情報を集めていらっしゃるのですね?」


「ええ、我々の活動には、国内外の情報が不可欠ですから」


 サレが、力強く頷いた。


「ウェール王国が、今どのような状態なのか、お分かりになりますか?」


 セレスティアの問いに、サレとシュクレは一瞬顔を見合わせ、少し眉を曇らせた。


「──王都は壊滅状態、王族も、あなたを除いて全員殺害され、僅かに生き残った国民は散り散りになって国外に逃げ出し……もはや、国としての(てい)を成していないそうです。もっとも、これはウェール王国に限った話ではありませんが」


「……そうですか」


 シュクレの説明を聞いたセレスティアは、少し苦しげな表情を見せながら俯いた。


「セレスティア、大丈夫か」


 フェリクスは、思わずセレスティアの肩に手を置いた。


「……覚悟はしていましたが、それでも、(こた)えますね」


 彼女は、顔を上げて弱々しく微笑んだ。


「……私は、あなた方の『頭領』にお会いしたいと思います」


 少しの間の後、セレスティアが、サレを見つめて言った。


「あなた方の仰る通り、このまま何もしなければ、世界中がウェール王国のようになってしまうのでしょう。私に何ができるかは分かりませんが、少しでも、この状況を改善できる可能性があるなら、それに賭けたいと思います」


 先刻までの弱々しさを振り払ったかのように、セレスティアの目には強い決意が(たた)えられている。


「セレスティアが、そうすると言うなら、俺も同行する」


 フェリクスにとって、それ以外の選択肢は無かった。


「フェリクス……私は、これが危険を伴う選択だと理解しています。だから、あなたやアーブルに、同行を無理強いするつもりはありません」


「俺は、自分の意思で、君と共に行くと決めた。君を守ると言った筈だ」


 フェリクスの言葉を聞いたセレスティアの大きな目から、一粒の涙がこぼれ落ちた。


「姫様は、いつも、そうやって無理してるんだからさ……放っておける訳ないよな、フェリクス」


 アーブルが、わざとなのか少しおどけた調子で言った。


「なぁ、サレさん。もし、あんたたちの活動が成功して『智の女神』がいなくなったら、色々な法律とか制度とかも変わるだろ?」


「そうですね……おそらく、一から作り直す形に近くなるでしょうね」


 アーブルの問いかけに、サレが頷いた。


「併合領が受けている差別なんかもなくなって、みんなが人間らしく扱われるようになるのか?」


「それは、我々にとっても望むところです」


「そういうことなら、俺も姫様とフェリクスについて行くぜ。……まぁ、お邪魔虫かもしれないけどな」


 そう言って、アーブルが、フェリクスとセレスティアに向かって、両手の親指を立てて見せた。


「お前が邪魔だと思ったことなど無いが?」


「思われてたまるか!」 


 きょとんとするフェリクスに、アーブルが突っ込んだ。

 それを微笑みながら見守っているセレスティアを目にして、フェリクスは、彼女が笑ってくれてよかったと、今は、ただそれだけを思った。

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