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位高ければ徳高きを要す

 再び歩き出したフェリクスたちの背後で、女の悲鳴が上がった。

 彼らが振り向いた先では、小さな子供を抱きかかえた、母親らしき女が半狂乱になって(わめ)いている。

 どうやら、食料を奪い合う大人たちの揉み合いに巻き込まれた子供が、弾みで突き飛ばされたようだ。運悪く地面に突き出ていた石に、額を打ちつけてしまったらしい。

 母親の腕の中で、わぁわぁと泣く子供の額には大きな傷が開いており、かなり出血している。


「そのガキが、勝手に転んだんだろ!俺は知らねぇ!」


 食料を奪い合っていた者のうち、数人が、あたふたと走り去った。


「だ、誰か……助けて……!」


 母親の悲痛な声に、周囲にいる者たちも右往左往するばかりだった。

 薬も医療器具も無い状況下で、できることなど無きに等しいのだ。

 その様子を見たセレスティアが、きつく目を瞑り、何かを(こら)えるような表情をしているのに、フェリクスは気付いた。

 血を見て気分が悪くなったのだろうか──と、フェリクスが声をかけるより先に、セレスティアが、小走りで母子(おやこ)の元へ向かった。

 フェリクスとアーブルも、慌てて彼女の後を追う。

 止血しようとしているのだろう、手のひらで子供の額の傷を押さえている母親に、セレスティアが声をかけた。


「私に、任せてください」


 彼女は、母子(おやこ)の傍に(ひざまず)くと、子供の額に右手をかざし、精神を集中するかのように、目を閉じた。


「な、何をするんだい?!」


 母親は、一瞬警戒する素振りを見せたが、セレスティアの右手が淡い光を放ち始めたのを目にして、言葉を失った。

 子供の額に、ぱっくりと開いていた筈の傷が、見る間に塞がっていく。

 フェリクスとアーブルは、セレスティアの予想だにしなかった行動を前に、ただ立ち尽くしていた。


「……いたく、ないよ?」


 母親の腕の中で、子供が不思議そうに呟いた。

 傷は、跡形も無く治っている。


「あ、ありがとうございます……!」


 母親は子供を抱いたまま、涙を流しながら、セレスティアに何度も頭を下げた。

 いつの間にか、周囲に人だかりができていた。


異能(いのう)か……」


異能(いのう)……癒しの力の……」


 人々は、セレスティアを見て、ざわついている。


「あの……」


 人だかりの中から、一組の若い男女が進み出てきた。

 男の方は、女に支えられながら、よろよろと歩いている。片方の脚に添え木が括りつけられているところから、骨折しているであろうことが見て取れた。


「この人の脚も、治せますか? 私たちの街が帝国軍に攻撃された時に……」


 女が、セレスティアを縋るような目で見た。


「分かりました。では、そこに座ってください」


 言って、セレスティアは、男を地面に座らせた。


「うちの子も……」


「母ちゃんの火傷(やけど)が、何日も治らなくてよぅ……」


 その様子を見ていた人々の中から、更に、傷の治療を望む者たちが現れ始める。


「セレスティア、大丈夫なのか?」


 フェリクスは、ようやくセレスティアに声をかけた。


「心配ありません。治療を望む方たちを、私の周りに集めてもらえますか」


 セレスティアの指示に従って、フェリクスとアーブルは、治療を望む怪我人たちを彼女の周囲に運んだ。

 怪我人たちの中心に立ったセレスティアは、祈るように胸の前で両手を組み合わせ、目を閉じた。

 やがて、彼女の全身が淡く輝きだす。すると、周囲の怪我人たちから、驚きの声が上がり始めた。


「傷が……治っていくぞ?!」


「あぁ……あんなに痛かったのに……嘘みたいだ」


 セレスティアの傍にいるフェリクスも、彼女の「力」を感じた。

 それは、何か暖かく柔らかなもので包まれているかのような、心地良い感覚だった。

 やがて、治療が一段落つき、回復した怪我人たちが、それぞれの家族の元に戻っていく。

 子連れの男が、セレスティアに近付いてきた。


「息子を助けてくれた礼だ……受け取ってくれ」


 男が差し出したのは、繊細な細工の施された首飾りだった。

 素人目にも、結構な価値があるものに見える。


「これしか、渡せるものがねぇんだ。もう、身につけてくれる奴もいないしな」


「お気持ちだけで十分です」


 セレスティアが、優しく微笑んで言った。


「それは、あなたの大切な方のものではありませんか?どうか、大事にお持ちください」


 彼女の言葉に、男は目頭を押さえながら、子供の手を引いて去っていった。

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