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魔法の着火装置

 日没が近付いてきた為、雨風(あめかぜ)をしのげそうな場所を探していたフェリクスとアーブルは、山の斜面に開いた横穴を見つけた。近くには川もあって、水にも困らない。

 彼らは、そこで一晩過ごすことにした。


「セレスティアは、野宿などしたことはあるのか?」


「お姫様が、野宿なんてする訳ないだろ?」


 アーブルが、フェリクスに突っ込みを入れた。


「……ありません……でも、頑張って覚えます」


 そんな二人を前に、セレスティアは真剣な表情で答えた。

 セレスティアを穴の中で休ませている間に、フェリクスとアーブルは焚き火に使えそうな木の枝を手早く集めた。


「フェリクスも、ずいぶん手際が良くなったよな」


「いい加減、慣れてくるさ」


 アーブルに褒められたフェリクスは、少し得意そうに、二羽の鴨を差し出した。


「焚き木拾いのついでに、こんなのまで捕まえてきたのか。やっぱり、携帯食なんかより、新鮮な食材だよなぁ」


(さば)くのは、俺がやるから大丈夫だ。モンスとシルワに教わったからな」


 アーブルが火を起こしている間に、フェリクスはナイフで器用に鴨を捌いていく。

 焚きつけ用の小枝を前に、アーブルは、服のポケットから手のひらに収まる程度の筒状の物体を取り出した。


「……それは、何ですか?」


 セレスティアが、アーブルに尋ねた。


着火装置(ライター)さ。魔法の力で火を点けるんだ」


 アーブルが小枝に近付けた着火装置(ライター)から、小さな炎が生じるのを、セレスティアは不思議そうに見つめた。


「そんなに小さい魔導絡繰(まどうからく)りが、あるんですね」


「俺は、帝国軍から脱走したんだけど、その時に持ったままだった装備が幾つかあってさ。結構、役に立ってるよ」


 アーブルが、そう言って笑った。


「もっとも、どんな仕組みで火が出るのかまでは、俺も知らないんだよな。というか、帝国の奴らでも、大半は分かってないと思うけど」


 その昔、「魔法」は限られた者にしか扱えない技術だったという。仕組みを理解し、難解な呪文を正確に詠唱でき、尚且(なおか)つ、十分な量の「マナ」を扱える者でなければ、「魔法」を発動させることはできなかった。

 また、同じ呪文を唱えても、効果には個人差がある。一度に、どれくらいの量の「マナ」を扱えるか──「マナの(うつわ)」の大きさが、ほぼ生まれつき決まっている為だ。

 高い技量を持つ術者になるには、優れた頭脳の他に、大きな「マナの(うつわ)」が必要とされる。正に狭き門だった。

 しかし、簡単な操作で「魔法」を代行してくれる魔導絡繰(まどうからく)りの登場により、人間たちは、わざわざ技術を学ばずとも「魔法」の恩恵に(あずか)ることができるようになったのだ。

 もっとも、高度な技術は帝国が独占しており、他国との格差は広がり続けているのだが。


「自力で『魔法』を使える術者は、今でも貴重なのだな」


「そうさ。まぁ、借り物の力ってことだ」


 フェリクスの言葉に答えながら、アーブルは、次第に火力を増す焚き火に、更に枯れ枝を()べていった。

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