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食い下がれ

「……あなた方は、帝国の方ではないのですか?」


 思い出したように、少女が問うた。


「ただの、通りすがりだ。帝国とは関係ない」


 フェリクスが答えると、少女は、ほんの少しではあるものの安堵した様子を見せた。


「君は、何者なんだい?ただの一般人には見えないけど」


 アーブルの問いかけに、少女は俯いた。


「もし、君たちが、どこかの国の身分の高い人たちだとして、この状態から考えるとさ……帝国軍に追われていたんじゃないの?」


「待ってくれ、アーブル。もう少し、そっとしておいたほうがいいのではないか?」


 フェリクスは、思わず口を挟んだ。今にも泣きそうな顔で俯いている少女を、見ていられなかった。

 すると、アーブルは、いつになく厳しい顔で言った。


「あんたのことだ、この子を一緒に連れて行こうとか言うんだろ?」


「……それは……こんなところに放っておく訳にはいかないだろう」


「今は、こんなご時世だし、治安も悪くなってる。女の子を連れて移動するとなれば、危険度は一気に上がるぞ」


「…………」


「まして、その子が帝国に追われるような要人なら、追手が来るかも……きっと、さっきの軍用車両も、彼女たちを探していたんだ。分かってるのか?」


 アーブルに見据えられ、フェリクスは少し怯んだ。

 たぶんアーブルの言うことは正しいのだろう。流行り病で家族を失ってから軍に入るまでの間、帝国内を一人で放浪していたこともあるという彼は、自分などよりも多くのものを見てきたのだ──と、フェリクスは思った。

 それでも尚、彼は、目の前の少女を守らなければならないという思いを捨てられなかった。


「……そうだな。では、アーブルは、一人で行ってくれていい」


 フェリクスは、絞り出すように言った。


「はあぁ?!」


 フェリクスの言葉に、アーブルが目を丸くした。


「俺は、あえて危険な選択をすることに、お前を巻き込みたくない。だが、彼女を、このまま放っておくのも嫌だ。だから……」


「なんで!そうなるんだよ!!」


 アーブルが、フェリクスの鼻を指先で、思い切り()まんだ。


「ちょ、痛い……()じらないでくれ……」


 想定外の状況に、フェリクスの思考が停止する。


「その子の状況が分からないと、どうやって危険を避けるかも判断できないだろ!……ちょっと、せっかちだったとは思うけどさ」


「お、俺は、てっきり……アーブルは彼女と関わりたくないのかと……」


「それと、譲れないと思ったら、しつこく食い下がれ!生き延びたいなら、誰が相手でも簡単に引っ込めるなよ……そういうの、あんたの良くないとこだぞ」


 そう言って、アーブルはフェリクスの鼻から手を放した。

 ひりひりする鼻先を押さえながら、やはりアーブルは信用できる相手だと、フェリクスは改めて思った。

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