苦手なもの(挿し絵有り)
「街に着いたぞ」
車が停止し、運転席から降りてきた中年男が、荷台にいるフェリクスとアーブルに声をかけてきた。
「助かったよ、おっさん」
アーブルが、愛想よく笑って答えた。
「いや、車が穴に嵌ったところに、お前さんたちが通りかからなかったら、どうなってたか分からないからな」
言って、中年男は、いくらかの金をアーブルに握らせた。
「これは、俺の気持ちだ」
「そうか、ありがたく頂いておくよ」
──情けは人の為ならず……か。
モンスとシルワが時折言っていた言葉を、フェリクスは思い出した。
フェリクスとアーブルは、改めて中年男に礼を言ってから、街の中へ入った。
この街は、帝国軍の戦線からは離れており、現在のところ、一応は平穏が保たれている様子だ。
「これで、今日明日の分のメシと寝床くらいは何とかなりそうだな。とりあえず、何か食べられそうなところを探そうぜ」
先刻、中年男に渡された金を数えて、アーブルが言った。
フェリクスにとって、今やアーブルは頼もしい相棒と言えた。
彼は、行く先々で見知らぬ者とも臆せず交渉し、まるで魔法のように必要な物資や寝床を調達し、働き口を探してきた。
自分一人では、とても同じようにはいかないだろうと、フェリクスは、いつも感心した。
フェリクスが、すごいなと褒める度、アーブルは、人より多少色々経験してきただけさ、と笑うのだった。
日没が近付いた頃、フェリクスとアーブルは、宿を兼ねた食堂を見つけた。
とりあえず腹ごしらえしようと言うアーブルに引っ張られ、フェリクスも食堂に入った。
夕食時ということもあり、店内は、程々に賑わっている。
無線通信機から流れる、雑音混じりの流行歌が、陽気な雰囲気を醸し出していた。
「お兄さんたち、見ない顔だね」
二人がカウンターに陣取って注文を済ませると、接客担当の若い女が話しかけてきた。
「戦を避けて、移動してきたってところさ。ところで、この辺で何か割のいい仕事、知らないか?日雇いで構わないんだけど」
すかさず、何らかの情報を得ようとするアーブルを見て、フェリクスは、自分も、こうあらねばと思うのだった。
「仕事ねぇ……この街の近くに炭鉱があってね。人手は、いつでも欲しいだろうし、体力に自信があれば、行ってみるといいかも」
飲み物を差し出しながら、女が答えた。
「そっちのお兄さんは無口だね」
突然、女に話しかけられたフェリクスは固まった。
「俳優にでもなれそうな好い男なのに」
やや頬を染めた女の表情からすると、客に対する世辞というより、本心が漏れ出している状態に近いようだ。
「あぁ、こいつは恥ずかしがり屋なんだ。あまり、いじらないでやってくれよ」
アーブルが口を挟んだ。助け舟のつもりだろう。
接客担当の女が、他の客に呼ばれて、その場を離れると、フェリクスは安堵した。
「……女関係で痛い目に遭ったからって、若い女全部を警戒するのは、神経質過ぎないか?」
アーブルが、少し茶化した調子で言った。
「だが、やってもいないことで責められた時は、本当に恐ろしかったんだ……アーブルも、指一本さえ触れたことのない相手に、子供ができたから責任を取れと言われれば、俺の気持ちが分かるかもしれないな」
フェリクスは、マルムがついた嘘の為に、彼女の父親から責められた際のことを思い出し、身震いした。
「たしかに……見た目がいいのも、良し悪しなんだな」
言って、アーブルは運ばれてきた骨付き肉に、かぶりついた。




