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同道

 赤毛の男は、アーブルと名乗った。

 彼もまた、身体能力の優れた「異能(いのう)」らしい。

 アーブルに促され、フェリクスは彼と共に村を離れた。

 モンスとシルワを弔ってやることすらできないのは心苦しかった。だが、いつの日か、ここに戻らなければ──フェリクスは、心に誓った。

 道すがら、フェリクスはアーブルと互いについて話した。

 村で保護されるまでの記憶を持たないフェリクスから見ても、アーブルは、およそ兵士らしくない、気が優しく人懐こい人物に思えた。

 アーブルの話から、村を襲撃したのが隣国のアルカナム魔導帝国の軍隊であることを、フェリクスは知った。


「帝国を治めているのは皇帝だが、その皇帝も、『智の女神』からの『お告げ』を聞いて、それに従っているんだってさ」


「『智の女神』とは?」


「何でも、ずっと昔に、古い文明の遺跡で発見された『考える魔導絡繰(まどうからく)り』って話だ。どんなことにも、的確な答えを出してくれるというんで、帝国では、何でも『智の女神』にお伺いを立てて、その通りにしてるんだ。今回の、周辺国への侵攻も、『智の女神』から、そういう『お告げ』があったからだって」


 そう言って、アーブルは馬鹿馬鹿しいとでも言いたげに鼻を鳴らした。


「アーブルは、帝国民なのに、『智の女神』に対して否定的に見えるが」


「俺が生まれたのは、何十年も前に帝国との戦争に負けて併合された土地なんだ。建前上は同じ帝国民でも、併合領出身というだけで(ひど)い差別を受けるし、本音を言えば『クソ食らえ』って思ってるよ」


「そうか……帝国は豊かな国だと聞いていたから、国民も、みな幸せに暮らしているのかと思っていた」


 これまで自分は何と狭い世界しか知らなかったのか、と、フェリクスは眩暈に似た感覚を覚えた。そして、「仲間」を殺した筈のフェリクスに対し、アーブルが負の感情を向けてこない理由も、何となく分かる気がした。


「ところで、物は相談なんだけどさ」


 不意に、アーブルが真顔で言った。


「フェリクス、俺と組まないか?」


「俺が、お前と?」


 思わぬ言葉に、フェリクスは、きょとんとした。


「帝国は、あちこちの国に戦争を仕掛ける筈だ。学のない俺にだって、これから先、混乱が起きることくらい分かる。落ち着き先を探すにしても、正直、一人じゃ心許ない」


「…………」


「あんたも、腕は立つけど世間知らずみたいだし、行くところもないだろうし、困ってるんじゃないのか?俺は、家族が流行り病で全滅してから軍に入るまでの間、流れ者みたいな暮らしをしてたから、あんたよりは多少、世間を分かってるぜ」


 フェリクスは、アーブルの言う通りだと思った。

 再び村に戻るには、まず生き延びなければならない。

 アーブルと一緒なら、その確率も、ずっと高くなるかもしれない。


「……分かった。そうさせてもらう」


 フェリクスが言うと、アーブルは右手を差し出してきた。


「それじゃ、よろしくな」


 その手を、フェリクスが握り返すと、アーブルは、どこか安堵したような微笑みを浮かべた。

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