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咆哮

 村を出たフェリクスは、夜の森を一人とぼとぼと歩いていた。

 溜め息をつく度に、視界が白くなる。気温が、かなり下がっているのだろう。

 フェリクスは、歩きながら、短い間だが自分を本当の息子のように可愛がってくれた、モンスとシルワのことを思った。二人と過ごした日々を思いだすうち、彼の目に、再び涙が浮かんだ。

 初めて味わう、悲しみと孤独が、フェリクスの胸を締め付ける。

 本当は、今すぐにでも引き返して、モンスとシルワの元に戻りたかった。

 しかし、二人に迷惑をかけたくないという理由で村を出た以上、それは許されないことだと、彼は必死に(こら)えた。

 突然、静寂に包まれていた森の空気を、微かな爆発音が震わせた。

 フェリクスは、音の聞こえた方角を振り返った。間違いなく、先刻までいた村のほうだ。

 更に、森の木々の向こうが、ぼんやりと赤く光っている。

 火事だとすれば、家の一件や二件という規模でないことは、フェリクスにも分かった。

 ただ事ではない──そう判断した瞬間、彼は村に向かって走りだしていた。

 落ち葉を巻き上げながら、疾風の如く森を駆け抜け、フェリクスは村に辿り着いた。

 そこで彼が見たのは、見慣れていた筈の村の景色が一変した様だった。

 家々は原型を留めない程に破壊されて瓦礫と化しているか、そうでなければ燃えているという状態──文字通りの焼野原だ。

 一目見て、生存者がいるなどとは思えない惨状である。

 それでも、一縷の望みを胸に、フェリクスは、モンスとシルワの家のあった辺りへ向かって走った。

 だが、彼の目に映ったのは、家があった筈の場所に残る、砲弾が直撃した跡であろう大きな穴だけだった。

 フェリクスは何も考えることができなくなり、呆然と立ち尽くした。

 数時間前まで一緒に過ごし、言葉を交わしていたモンスとシルワが、もう存在しないという事実を、彼は受け入れられなかった。

 その時。


「小隊長、掃討は完了したであります」


「よし、じゃあ撤収だ」

 

 声のしたほうを、フェリクスは、ぼんやりと見た。

 瓦礫の向こう、数人の男の姿が燃え盛る炎に照らし出されている。

 戦闘服姿で小銃を手にしているところを見ると、彼らは兵士だと思われた。

 何が起きたのかを、フェリクスは全て理解した。

 同時に、彼は、身体の中心から、これまでに感じたことのない、熱く、どす黒い何かが突き上げてくる感覚を覚えた。

 その不快さに、フェリクスは咆哮した。言葉にならない叫びが(ほとばし)った。

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