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◆友を思う

 必ず戻る、と言い残して指令室から出ていくフェリクスの背中を、アーブルは、胸騒ぎを覚えながら見送った。

 フェリクスにとって、おそらく最も大切な存在であるセレスティアを託されたことを誇らしく思う反面、彼の傍らで手助けすることもできない自分が、アーブルは歯痒かった。


「あいつ、自分じゃ分かってないみたいだけど……人の心配するくせに、自分のことについては無頓着すぎるんだよな」


 ぼそりと呟いたアーブルを、セレスティアが不安げな目で見上げた。


「それくらいにしておけ。そんなことを言うと、王女が不安になるだろう」


 グスタフが、(たしな)めるように言った。


「……そうだな。姫様、あいつは、約束を破ったりしないさ」


 アーブルの言葉に、セレスティアが無言で頷いた。

 壁面の光る板(パネル)の一つには、地上の庭園に出たフェリクスの姿が映し出されている。

 彼の背中に出現した光の翼を見て、指令室にいる者たちは、ざわめいた。


「……まるで、伝説の『悪神』だな」


「馬鹿、そういうことを言うんじゃない!」


 たしかに、白い肌と髪に赤い目、そして光の翼を持つフェリクスの姿は、正に、伝説に登場する「人間を滅ぼそうとした悪神」そのものだ。


「『智の女神』は、主人(マスター)を複製しようとして、『不死身の人造兵士』を造ったのかもしれませんね」


 光る板(パネル)を見上げながら、カドッシュが言った。


「でも、フェリクスはフェリクスだろ。あいつは、俺たちを守る為に行ったんだ……たった一人で」


 言って、アーブルも、飛び立ったフェリクスを映し出す光る板(パネル)を見つめた。

 そして、フェリクスが「智の女神」の近くに到着し、「リベラティオ」が用意した飛空艇も交えての戦闘が開始された。

 「智の女神」が、攻撃をフェリクスと飛空艇に集中させているのか、先刻まで地下施設を襲っていた振動は、(ほとん)()んでいる。

 監視用の画面には、飛空艇からの映像も加わっていた。

 無数の光球による攻撃を(かわ)しながら、フェリクスも巨大な光弾を放っている。

 と、(かわ)しきれなかった光球が、フェリクスの左肩から先を、もぎ取るかの如くに消滅させた。


「フェリクス……!」


 その様を目にしたセレスティアが、悲鳴を上げる。

 しかし、フェリクスは、そのようなことは意に介さないとでもいうように、身体の欠損した部分を瞬時に再生して戦い続けていた。


「『不死身の人造兵士』……その名の通りだな」


「凄いな……彼には、痛覚が存在しないとでもいうのか」


 構成員たちの中には、フェリクスに対し、恐ろしいものを見るような目を向ける者も多かった。


「痛覚が無い訳ない……さっき、俺が鼻先を思い切り()まんだ時は、痛がってたんだ。あれは、我慢してるだけだろ……!」


 思わずアーブルが呟くと、セレスティアの目から大粒の涙がこぼれた。


「セレスティア、君は、見ないほうがいい」


 目を潤ませたグスタフが、セレスティアの肩に手を置いた。


「いいえ、彼が辛い思いをしているのに、私が目を逸らしている訳にはいきません」


 セレスティアは(かぶり)を振ると、涙に濡れた目で画面を見据えた。


「そうだよな……こういう時は、応援してやらなきゃな」


 アーブルも頷いて、今までは存在するなどと思ったことのなかった「神」に、友の無事を祈った。

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