表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/117

反撃(挿し絵有り)

 フェリクスは、雨霰(あめあられ)と降り注ぐ「智の女神」の光球を、ただひたすらに回避した。

 反撃しなければ、と身構えるものの、彼は先刻の「激痛」を思う度に、身が(すく)んだ。


「フェリクス! 大丈夫ですか?!」


 そんなフェリクスの耳に、通信機を通して、セレスティアの声が届いた。


「さっき、苦しそうな声が……!」


「……大丈夫だ。何ともない」


 答えながら、フェリクスは少し冷静さを取り戻した。


 ――そうだ。痛みが生じていても、身体には何の異常もない。あれは、俺の動きを止める為の「偽りの痛み」であって、危険信号などではない。だとすれば――――


 フェリクスは、再び「智の女神」に対する攻撃の態勢をとった。

 途端に、彼は、全身の内側から無数の針で貫かれるが如き激痛に襲われた。


 ――落ち着け。これで死ぬ訳ではない。痛みなど、意に介さなければいい……!


 消えそうになる意識を必死に繋ぎ留めながら、フェリクスは、守りたい者たちのことを思った。

 恩人のモンスとシルワを失い、悲しみと不安に満ちていたフェリクスに、安心と信頼感をもたらしてくれた、アーブルとの道行きの記憶。

 自分の気持ちを押し付けるだけではなく、相手を思って身を引くことも愛だと示したグスタフとのやりとり。

 そして、セレスティアの優しい抱擁と安心する香り、口づけした時の、彼女の唇の柔らかさ……心地良い記憶に、フェリクスは心を(ゆだ)ねた。


「――攻撃を一点に集中してください。一か所でも突破できれば……!」


 通信機から、カドッシュが構成員たちに指示する声が聞こえた。

 フェリクスも、手のひらに精神を集中させ、飛空艇が攻撃を集中させている部分に向けて、渾身の、巨大な光弾を放った。


挿絵(By みてみん)


 飛空艇からの砲撃と、フェリクスの放った光弾が同時に命中した瞬間、「智の女神」が、僅かに揺らいだように見えた。


「『智の女神』の空間歪曲式防護壁ディストーション・フィールド、一瞬ですが不安定な状態に陥った模様です!」


 通信機を通して、構成員による報告と、指令室で歓声の上がる様子が、フェリクスにも伝わってきた。


「砲撃を続行してください。フェリクスくんも、やれますね?」


「ああ、問題ない」


 カドッシュの声に答えると、フェリクスは続けざまに光弾を放ち続けた。

 フェリクスの光弾と飛空艇からの砲撃、それに「智の女神」が放つ無数の光球が夜空を照らし、廃墟と化した帝都中心部の上空では、今や、この世の終わりの如き光景が繰り広げられている。

 時折、『智の女神』が放つ無数の光球に身体の一部を持っていかれながらも、欠損部位を瞬時に再生させつつ、フェリクスは攻撃を続けた。


「馬鹿な……何故、『七号(ななごう)』が、私に攻撃できるの?! あの『仕組み』の効果が消えたとでもいうの?!」 


 彼女にとっては、予想外の事態なのだろう。「智の女神」が、明らかに狼狽した様子を見せた。


「効果は抜群だぞ。今も、身体中を切り刻まれ続けているかのようだ」


 フェリクスは、冷静な口調で答えた。


「それならば、どうして……?!」


「こんな『痛み(もの)』で、俺は、お前の自由になどならないということだ……こういう時、何と言うか知っているか?」


「……何ですって」


「クソ食らえ! だ」


挿絵(By みてみん)


 そう言うと同時に、フェリクスは、更に光弾を放ち続けた。

 光弾の連打と飛空艇からの砲撃を受けて、『智の女神』が、ぐらりと傾いだ。


「……『智の女神』の空間歪曲式防護壁ディストーション・フィールドが、(まだら)になっています……これは、向こうの制御系の不具合……こちらの攻撃に、処理が追い付いていないのかもしれません」


 報告する構成員の声が、心なしか明るくなったようだった。


「さっきの『作戦』で送り込んだ呪文(プログラム)による損傷を、『智の女神』が修復しきれていない可能性があります。回復する前に、畳みかけますよ!」


 カドッシュの号令に合わせ、フェリクスも攻撃を加速させる。


「……『人間』のくせに……下等生物のくせに……ッ!!」


 巨大な輝く球体――「智の女神」の周囲の空間が揺らいだかと思うと、燐光を放つ鱗粉のようなものが、一面に撒き散らされた。


「『智の女神』の空間歪曲式防護壁ディストーション・フィールド、消失しました!」


「主砲、出力最大で発射を!」


 飛空艇からの砲撃と共に、フェリクスも、渾身の一撃を放った。

 空間歪曲式防護壁ディストーション・フィールドを失い、裸同然になった「智の女神」は、砲撃と光弾の前に、なす術もなく崩壊し、爆発した。


「飛空艇も、かなり損傷していましたし、ぎりぎりというところでしたが……何とかなったようですね。フェリクスくんのお陰です」


 通信機越しに、カドッシュがフェリクスを(ねぎら)った。 

 これで、セレスティアたちのところへ帰れる……フェリクスが、そう思った時――

 「智の女神」が残した爆煙の中から、大口径の光線が発射された。

 不意を突かれ、動くこともできずにいたフェリクスの目の前で、光線は夜空を切り裂き、次々と飛空艇に命中した。


「三番艦、制御不能です!」


「駄目です! 全艦、轟沈します!」


 指令室で上がっていた歓声が、悲鳴と怒号に変わった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ