天空よりのマレビト1(挿し絵有り)
これは、此処ではない場所と今ではない時代の御伽話。
不安定な磁場、気紛れに荒れ狂う暴風、有害物質を含んだ雨、容赦なく大地を焦がす恒星からの光──
その世界で「彼ら」を取り巻く環境は過酷なもので、生命を維持することそのものが苦行だった。
それでも、「彼ら」は環境に適応し生き延びる為に、進化の過程で超常の能力を獲得した。
また、「彼ら」は、ある物質を異空間から抽出し、呪文の詠唱などの手続きを経てエネルギーに変換する技術を生み出した。
「マナ」と呼ばれる、その物質は、どこにでも存在するものの、知覚し取り出すことが難しいものでもあった。しかし、その発見により「彼ら」の文明は飛躍的に進歩した。
無尽蔵と言える「マナ」を用いた「魔法」は有害な廃棄物を生み出すこともない、理想的な技術と言えた。更に「彼ら」は、「魔法」を機械に代行させる「魔導絡繰り」へと発展させた。
天候や重力さえ操作できるようになった「魔導絡繰り」を用いて、「彼ら」は安全に、そして快適に過ごせる環境を作り上げた。
安寧を得たと思われた「彼ら」だったが、ある時、不幸なことに「彼ら」の生きる世界は大規模な災害により次元ごと消え去るという運命を辿った。
滅びゆく世界から、かろうじて逃れた僅かな者たちは、技術の粋を集めた次元航行魔導艦で、永遠とも思える長い旅をすることとなった。
「彼ら」は進化の過程で獲得した超常の能力と、魔法技術を用いた遺伝子操作によって、不老と無限に近い寿命を得ており、あらゆる病からも解放されていた。
生物としては、ある意味、究極と言える存在だった。
しかし、それらと引き換えに、「彼ら」は「生命力」そのものを失っていた。
新たな生命の誕生は、もはや望めなかった。
長い旅の間に、数十隻はあった次元航行魔導艦も、徐々に数を減らしていき、やがて残るのは数隻程度になっていた。
結局は、このまま滅びゆくしかないのだろうか──絶望と共に、幾つもの次元を渡り、彷徨っていた「彼ら」は、とある宇宙で、楽園のような惑星に辿り着いた。
その惑星は「彼ら」の生まれた世界に比べると、穏やかで美しく、生命力に溢れていた。
しかも、姿かたちが「彼ら」によく似た知的生命体「人間」が存在していた。
「人間」たちは魔法の存在すら知らず、文明レベルこそ「彼ら」に比べれば大きく劣るものの、好奇心旺盛で友好的だった。
天より降り立った、美しい「彼ら」を、「人間」たちは「マレビト」「神」と呼んで歓迎した。
長きに渡る放浪に疲れ切っていた「彼ら」──マレビトたちは、この惑星を終の棲家にしようと考えた。