バイト帰りの日常という違和感
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彩音に誘われて湊斗と3人で弁当を一緒に食べた日からずっと彩音にどうやって別れをゴールデンウィーク中に告げるか考える日々で、いつのまにか明日から連休になる日になっていた。
「それでは、明日からみんなが楽しみにしているゴールデンウィークです。終わったら実力テストが笑顔で待っていますから、遊び過ぎないよう遊んでくださいね? それでは、これで終わります」
担任の三原先生は伝えたいことを言い終えると、もうこの教室に用事は無いかのように颯爽と出て行く姿に、きっと先生にもプライベートの予定が詰まっているのだろう。
「太一、お前は休み何してる?」
帰り支度をしている太一に、とりあえず意味はないけど連休の予定を聞いてみる。
「ん? 俺か? 俺は、バイト三昧だなー欲しい物が高くて買えないから・・諒太は?」
「俺は、あえてバイトせずに彩音と遊ぶ予定〜」
「くぅ〜滅びろリア充が! ペッペッ」
「悪いな? まぁ、また休み明けに会おうぜボッチ」
「おう、またなリア充」
先に帰る太一と教室で別れた後に、俺は彩音がいる隣りの教室へと向かう。
「彩音〜」
彩音を呼びながら教室を覗き込むも、彼女が座る席は誰もいなかった。
「彩音? あいつどこ行ったんだ?」
まだ彼氏役をアピールするため迎えに来た俺は、独り言のように呟いていると教室にいた名前を知らない女子と視線が重なったため、彩音の行方を聞いてみた。
「あの、彩音・・橘彩音さんがどこ行ったか知りませんか?」
「あやねっち? あーキミは隣りのクラスの彼氏クンだよね? あやねっちは、吉岡君と一緒に職員室に行ったよ」
「職員室にですか・・」
「・・み、みたいだね。なんか、ゴメンね?」
「あー大丈夫です。ありがとうございました」
彩音は先に湊斗と2人で職員室に行ったらしく俺も行くも2人の姿はなく、偶然会った三原先生の荷物を車まで運ぶのを手伝わされた俺は、もう駐輪場の近くまで来たため2人を探すのを諦め自転車に乗ってバイト先に向かった。
「おはようございます。香苗さん」
「おはよう、諒太くん」
狭い事務所にはユニフォームに着替えた香苗さんがパソコン前の椅子に座って、休息している姿を見ながら俺は着替え終えて名札の裏にある番号をパソコンに入力し出勤登録をすませると、香苗さんにマウスを触っている右手を握られる。
「香苗さん?」
「来て、諒太くん」
香苗さんに連れ込まれるように商品在庫が置いてあるスペースに着くと、ただ何も言わずにずっと見つめてくるため、おれもそのまま香苗さんを見つめていると不意にギュッと抱き締められてしまった。
「か、香苗さん??」
バイト先で知り合った2歳年上のお姉さんである香苗さんは大学1年生で、俺はコンビニのたくさんある仕事を優しく教えてくれた先輩でもある。そんな香苗さんに抱き締められた俺、柔らかい感触に包まれ凄く癒されていることに気付く。
「諒太くん、辛くないの?」
「えっ?」
抱き締められたまま香苗さんに言われた言葉に俺は戸惑い何も言えない。
「諒太くんの・・瞳がね・・・・心が泣いているの」
「・・・・・・」
彩音と湊斗との関係で頭と心がおかしくなるも、突然何も感じなくなったことでいつも通りに戻ったと思い込んでいた俺は、香苗さんから見た姿は異常だったらしい。
しばらく妹の那月に抱き締められていた感触とは違う香苗さんの癒しに包まれたいた俺は、胸の中に溜まっていた得体の知らない何かが流れ出たような感覚だけ残る。
「・・・・香苗さん、なんか心がスッと軽くなった気がします」
「まだ、全然足りないよ・・・・諒太くん、私が癒やしてあげるからね」
「香苗さん・・」
バイト先の物陰で年上のお姉さんに抱き締められるこの状況に背徳感を感じながらも、家族でない他人に優しく抱き締められたことがこんなに嬉しいことを初めて知った。
・・レジ応援に来てください・・
事務所のスピーカーから流れてきたコールに香苗さんは、少し溜息を吐きながら俺を解放してくれる。
「もう、行かないとだね? まだ5分あるのにな」
「そそ、そうですね・・」
少しだけ乱れたコンビニのユニフォームを整えてから2人でレジへと向かい、オーナー夫婦が来る21時まで香苗さんと接客して、合間の時間に高校の話しや大学の話しをして今日のバイト時間が終わりを迎える。
「オーナー、お先です 」
「お疲れさま〜そうだ、諒太くん。もしかしたら連休中にヘルプするかもだから、その時はよろしくね」
「オーナー本気ですか?」
「半分ね。お願いした時の時給は、深夜時給にするから」
「ん〜考えておきまーす」
「ありがとう! 夜道気を付けてね」
「はい」
先に小走りで駐車場に行って車に乗る香苗さんの方に俺は自転車を押して横に近付ける。
「香苗さん、お疲れ様でした」
「お疲れ様〜。オーナーさんに呼び止められてたけど、なんか言われたの?」
運転席の窓を開けて見上げる香苗さんを見下ろしながら答える。
「あはは・・ゴールデンウィーク中にシフトを1日も入れてないんですけど、ヘルプで呼ぶかもって言われました」
「本当に?」
「はい、時給を深夜と同じ額にするからと」
「へぇ、そうなんだ・・・・諒太くん、暗いから帰り気を付けてね?」
「はい、香苗さんも」
「はいはーい」
香苗さんは、ヘッドライトを点灯させ水色の軽自動車を発進させながら手を振り走り去って行く。車の姿が見えなくなってから、住宅街の道を自転車で走り帰っている途中に街灯に照らされる男女2人組の後ろ姿が少し先の路地を曲がり消えたのが妙に気になった俺は、自転車のスピードを落としてから2人が曲がった路地で止まり道の先を見る。
後ろ姿が気になった男女2人はここから少し先にある街灯に照らされた自販機前で止まり、楽しそうにジュースを選んでいるような声が聞こえその楽しそうな横顔を見ると、彩音と湊斗の2人だった。
「こんな時間に2人きりかよ・・」
彩音と湊斗は高校の制服ではなく私服姿のため、どこかへ遊びに行った帰りなのだろう。
「もう〜またコーヒー飲むの? あんなに飲んでたのに」
「綺麗な景色を見ながら飲むコーヒーとは、また違う旨さがあるんだって・・」
話しに盛り上がる2人の声はそんなに大きくないはずなのに、夜という特別な時間だとこんなに離れていても会話が聞こえてしまった。
彩音もジュースを買ったようで取り出し口からジュースを屈んで取り出し立ち上がった後に振り返ると、湊斗と顔を見合わせて動きが止まったほんのわずかな時間の後に、2人がキスをする光景を見せられてしまう。
「・・・・・・」
実際に2人が愛し合う姿を初めて見た俺はショックというより、気持ち悪くて吐き気に襲われ耐えることに必死だった。
自転車のスタンドを下ろして置いたことで2人から目を逸らした俺は再び2人を見ると、互いに両腕を回し抱き合っている光景に何も感じることなく、せっかくだから邪魔してやろうとポケットからスマホを取り出し彩音に電話をかけたのだった・・・・。
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