弁当を3人で食べるという日常の違和感
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「・・諒ちゃん」
「・・彩音?」
弁当をカバンから取り出しボッチ飯へと教室から出ようと席を立ち上がったところで、廊下から俺を呼ぶ彩音の姿があった。
彩音は俺と視線が重なると、躊躇うことなく教室へと入って来て傍まで来た。まるで湊斗の関係が俺には知られていないかのように普通に・・当たり前の様に近付いて来た。
「あのね、一緒にお弁当たべよ?」
「彩音と俺がか?」
「そうだよ? 昨日、一緒に食べれなかったし・・」
昨日の出来事が遠い過去の出来事の様に感じてしまう俺は、とりあえず彩音の隣りにいつもいる俺ではない男の名前を口にしてみた。
「・・湊斗は? いつも一緒だろ?」
「み、湊斗くん・・吉岡くんも一緒だよ?」
俺と彩音が恋人関係になり名前呼びしていた彩音と湊斗は互いに彼氏彼女がいるからと気を遣って苗字呼びにしていたのに、今ではもう名前呼びなんだなと心の中で想いながら言葉にしない。ソレは、俺達3人は仲の良い幼馴染でクラスの誰も名前呼びに違和感を感じないからだ。
「わかったよ。それで、どこで食べるんだ?」
「えっとね、それは着いてからのお楽しみだよ。だから、一緒に行こう」
彩音は嬉しそうな顔で右手を差し出してくるも、湊斗のいろんなところを触っている手だと知っている俺は気付かないフリをして先に歩き出す。
彩音は自分の相手を失った右手を少し見つめた後に、ゆっくりと戻しスカートの端をギュッと掴み離してから俺の後ろを付いてきて廊下へと出る。
「よっ! 諒太」
「おぉ。湊斗・・」
「今日は、一緒に飯を食おうぜ〜」
「あぁ、どこか良い場所があるって? 彩音が言ってたけど」
「らしいな。俺も知らないんだ・・橘さんだけのヒミツらしいぞ」
「そっか・・途中で自販機のお茶を買ってもいいか?」
「もちろん、俺も買うし」
「わ、私も買う〜」
彩音達は、いったい俺をどこへ連れて行くのだろうかと考えながら、とりあえず前を歩く彩音に付いていき自販機で俺はお気に入りの緑茶のペットボトルを購入すると2人は、昨日買っていた同じ銘柄の麦茶のペットボトルを購入していた。
「2人とも、あそこのベンチだよ〜」
彩音が指差す先にあるのは、昨日俺がボッチ飯を食べて寝ていたベンチだった。
「彩音、あそこのベンチ・・なのか?」
「うん、そうだよ諒ちゃん」
「なんだ・・てっきり屋上かと思ってたよ」
「甘いよ諒ちゃん。屋上は立ち入り禁止だからいけないよ? 吉岡くんも屋上だと思ってたかな?」
「あははは。橘さん、なかなか良い場所を見つけたね」
彩音と湊斗が笑い合う光景に、まさか体育館が近くにあるからここを選んだのかと聞きたくなる程苛つく衝動を抑え込んでから、ベンチの右側に座る俺を湊斗が真ん中に座れと言ってきた。
「良いから、諒太は真ん中なんだよ」
「なんでだよ・・俺は、隅っこが好きなの知っているだろ?」
反論しても2人は認めてくれないため、仕方なく真ん中に座ると彩音が右に座り湊斗が左側に座った。
「「 いただきまーす!! 」」
「・・いただきます」
ここに湊斗がいなければ、昨日のことを彩音に問いただすことができたのになと思いながら、弁当を食べて来週から始まるゴールデンウィークの遊ぶ予定や終わった後の実力テストの愚痴をいつもと変わらない雰囲気で溢しながら時間は流れ弁当を食べ終えてしまった。
「・・それじゃ、俺は教室に戻るけど2人はどうするんだ?」
2人の関係を微塵も知らないバカな彼氏を演じながら立ち上がり、ベンチに座る2人を見下ろした。
「えっと・・」
口籠る彩音をフォローするかのように、湊斗は最初から決まっているような口調で告げる。
「わりぃ、諒太。俺と橘さんは、昼からクラスの準備で体育館に行く予定があるんだった」
「そうか・・それは、大変だけど頑張ってな」
「う、うん・・ありがとう諒ちゃん。ゴールデンウィークは、一緒に遊ぼうね」
「そうだな。前半は遊びまくって、後半から勉強会だからな彩音?」
「が・・頑張るよ」
「湊斗、もう行くわ」
「おぅ・・またな」
湊斗はボロが出る前に俺を早く帰らせて、彩音と部室で身体を重ねたいというオーラを出しているけど、ここで俺は彩音の心を揺さぶれるか試してみた。
このまま何も知らないバカ彼氏役を演じて素直に帰る素振りを見せた俺は、3歩だけ歩き足を止め何かを思い出したかの様に振り返る。
「あっ・・そうだ、彩音?」
「な、なに?」
「彩音・・俺、信じてるから彩音のこと」
「「「 ・・・・ 」」」
3人の狭い世界の中で静寂が訪れた一瞬の時間を、湊斗が耐えきれなかったのか最初の言葉を漏らす。
「諒太、どうしたんだよ急に?」
軽く揺さぶってみる程度の気持ちで彩音に問い掛けた言葉は予想以上の反応を揺れる瞳で表現してくれる彩音に笑顔で手を振ってから湊斗に顔を向け答える。
「別に? ゴールデンウィークに遊べるのが楽しみなだけ」
「はぁ? 意味わかんねーな」
「そうか? まぁ、クラスの雑用頑張れよー」
未だに動揺を隠しきれていない彩音へと再び視線を戻してから踵を返し、午後の授業のため教室棟へと歩いて帰る姿を2人に見せてから、大回りして体育館前の戻って来た俺は昼休みに不自然に開いている換気用窓の近くに立ち背中を外壁に預け耳をすませると、予想通り2人の会話が聞こえて来た。
「彩音、さっきからどーしたんだよ?」
「・・ねぇ、湊斗くん・・今日はやっぱり、やめよ?」
「もう我慢できねーよ」
「あっ・・待ってって・・・・わたしには・・」
「彩音、もう今更だろ? さっき諒太に言われたこと、気にしてんの?」
「うん。だって、もしかしたら・・」
「あの鈍感な諒太が気が付く訳ないぞ? 妹の那月ちゃんは、小さい時から勘が鋭いから危ない気がするけど。アイツは、いつになっても俺と彩音の関係には気が付かないぜ? もしかしたら大学行っても気付かないかもな」
「うん・・・・」
彩音は湊斗に言い包められたようで、さっきまで居た俺の存在を消滅させてから、少しづつ窓から喘ぎ声が聞こえ始めそのまま頂点まで達して楽しんだようだ。
このまま昨日のような感情は湧き上がらない俺は、この場に留まり換気用窓が閉まる前に聞こえて来た2人の会話が気持ち悪かった。
「あ〜今日も最高だったよ彩音・・・・マジで腰に力はいんねー」
「・・湊斗くん、タオル取って」
「彩音のタオル? 昨日、諒太に使っただろ? まだ返してもらってないのか?」
「あっ・・・・そうだった。どうしよう」
「どうするって?」
「まだ午後の授業あるし、持ってるハンカチだけじゃ」
「おぉ、たしかに・・でも、大丈夫だって。教室に戻ったら、俺のタオル貸すから」
「うん、ありがとう」
2人の会話を聞いて快楽に溺れずちゃんと避妊しろよなと思いながら話しを聞いていると、どうやらゴールデンウィークの話しに変わったようだ。
「ふぅ・・彩音、ゴールデンウィークはどうする?」
「どうするって?」
「そりゃ、諒太が彼氏だろ? バイトが休みの日は、アイツと遊ばないと怪しまれるからさ」
「諒ちゃんは、ずっと彼氏なの。今もこれからもずっと・・・・」
そんな事は無いぞ?もう彩音の彼氏は、目の前に居る吉岡湊斗だぞとツッコミたくなるのを我慢する。
「おいおいマジかよ彩音・・こんなに俺と身体の相性が良いのに?」
「お休みになったら、もう諒ちゃんと遊ぶだけだから」
「はぁ? もちろん、俺も一緒だからな?」
「・・・・」
そこは彼女の自覚があるなら拒絶しろよと思いつつ、彩音と別れる日をゴールデンウィーク中にしようと決めた俺は、体育館から離れ教室に戻った頃に彩音からスマホにメッセージが届いた。
「諒ちゃん、ゴールデンウィークはバイトで忙しい?」
「バイトは入れてないから、毎日遊べるぞ」
「良かった! 諒ちゃんと一緒に買い物行ったり遊びに行けるね」
「一緒に行こうな!」
「うん!! 今からすごく楽しみだよ」
彩音に別れを告げる日を決めた俺は、必ず港斗も絡んでくるため2人きりなったタイミングにしようと、別れを切り出す方法を考える日々を過ごして行くうちに、休みまでの日数を消化したのだった・・・・。
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