エピローグ・・・橘彩音11
アクセスありがとうございます。
⑩で完結させられませんでした。
那月ちゃんはパッと手を離した後に、周囲を見てから私を見る瞳にさっきまでの怖さは消えていました。
「・・・・橘先輩、今の兄は先輩が知っている兄ではありません」
那月ちゃんが言っている意味がわからず私は聞き直します。
「那月ちゃん? それは、どういう意味なの?」
「・・あまり口外したくないのが本音ですが、先輩には仕方なく教えます・・兄は交通事故の影響で記憶障害なんです」
「・・・・え? 事故? 諒ちゃんが事故?」
那月ちゃんが言っていることがわからないのと、諒ちゃんが交通事故に遭っていたことに驚き頭が混乱している私に、那月ちゃんは淡々と答えます。
「はい。学校が午前中に終わった日の帰りに自転車で・・・・その、トラックに轢かれたんです。偶然、知り合いの人が傍にいてくれたお陰で一命を取り留めましたが記憶が・・・・」
「そんな・・それじゃ、諒ちゃんが私のことを・・・・」
「微塵も憶えていません。もちろん妹のわたしことでさえも憶えていませんでしたから・・なので、最低限の交友関係しか教えていません」
「那月ちゃん・・」
那月ちゃんの瞳が潤んでいる姿を見て、諒ちゃん想いの彼女も辛い思いをしたんだなと私でさえ理解できます。
「先輩が!・・貴方が、アイツと浮気したこと・・彼女だった彩音先輩が大好きだった記憶を兄はカケラも残っていませんから!」
「・・・・」
那月ちゃんが私を諒ちゃんから単純に遠ざけるだけために言っているのではないのだと、悲痛な表情を目の前にして何も言えなくなった私は走り去って行く彼女を見送り1人残されます。
私は諒ちゃんが事故で入院したことさえ知らず、ただ教室に通う私はなんだったんだろうと虚しくなり空を見上げていると、ふとあることを思い付きます。
「そうだ!」
記憶が無いなら新しく諒ちゃんに私をアピールすればと思い付き中庭を抜けて帰ろうとした視線の先に諒ちゃんの姿を偶然見つけました。
「諒ちゃん、怪我・・大丈夫だったの?」
「橘さん、もう昼休み終わるよ?」
「諒ちゃん私ね・・大好きなのは諒ちゃんだけだから」
最初が肝心だから想いを伝えると、諒ちゃんは私に笑顔を見せてくれます。
「そうなんだ、ありがとう橘さん。
もしよかったら、一緒に来て欲しい場所があるんだ・・・・・ここじゃ恥ずかしいし」
2人きりになりたいと言ってくれる諒ちゃんに嬉しくて笑顔で近づくと、優しく左手を久しぶりに握ってくれたことにギュッと抱き締めたい気持ちを我慢します。
「うん、良いよ。諒ちゃん、放課後にどこか行くのかな?」
「男バスの部室」
「えっ・・」
笑顔の諒ちゃんから聞かされた行き先が男バスの部室と聞いて、私の血の気が一気に引きます。
握られた左手を離そうとしても諒ちゃんは笑顔で握ったまま離してくれません。
「どうしたの橘さん? 誰も来ない男バスの部室には、いつも2人で行っていただろ?」
「ちがっ・・ちがう・・の・・ちがうの諒ちゃん、私は・・」
「橘さん? 早く行こうよ。今日は俺と一緒にさ? ちゃんと、ほら・・忘れずタオル持って来てるから後のことも大丈夫だよ?」
諒ちゃんから笑顔が消え、手に持つタオルがあの日に枕代わりに置いたタオルに私はあの光景が鮮明に蘇り、優しい瞳をしていた諒ちゃんは湊斗くんと同じ身体を一方的に求める瞳を向けています。
「いや・・」
あの日ベンチで寝ていた諒ちゃんは、すでに最初から知っていたんだと・・記憶障害は本当は演技だったんだと理解して、もう私は何も言えなくなります。
握られ引っ張られる手を見つめながら歩かされる私は、諒ちゃんに部室に連れ込まれるなら全てを受け入れ上書きすれば良いんだと思い、心が少し軽くなったと思っていると急に歩く方向を変え体育館とはちがう場所へと向かい始めたのでした・・・・・。
感想評価ありがとうございます。
ダラダラとすいません・・本編に沿ってのストーリーなので。
最後までお付き合いをお願いします。




