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彼氏彼女とその幼馴染の物語  作者: だいちき
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昼休みの日常に起きた違和感

アクセスありがとうございます。


「寝よ・・・・」


 ボッチ飯は集中して食べるからあっという間に食べ終えてしまうから、昼休みの時間を持て余してしまう。あともう一口だけ残した緑茶のペットボトルを枕代わりにして、占領しているベンチで横になり青い空を眺めた俺はゆっくりと目を閉じ、吹き抜ける心地良い風を全身で感じている時間を静かに満喫していると足音が近づいて来た。


「あれって・・諒ちゃんだ。寝てるのかな?」


 小さく聞こえた声は彩音だ。湊斗と弁当を食べ終わってから俺を探しに来てくれたのだろうかと嬉しく思うのも秒で終わり現実は違った。


「彩音、諒太そこにいたんだな」


「うん。寝てるみたい・・」


「起こすなよ? 今日は、部室の鍵を開けたままにしたんだから」


「・・・諒ちゃんの寝顔、久しぶりに見れた」


 湊斗の声に胸がドクッと大きく脈打ち苦しい俺は、苦し紛れに背もたれ側に寝返りをしたところで、枕代わりにしていたペットボトルを地面に落としてしまった。


「早く行こうぜ、彩音」


「待って・・諒ちゃんの首が痛そうだから」


「ベンチで寝てる諒太が悪いんだよ。早くしないと、昼休みが終わっちまう」


「もう、わかったから・・少し待ってて」


 さらに足音が近づくと少し冷たい指先が俺の頭を優しく持ち上げ、タオル生地のようなモノを置いてゆっくりと頭を下ろされた後に2人の足音は体育館へと歩き去って行き、聞こえなくなってからゆっくりと目を開ける。


「・・2人が昼休みの誰いない体育館の部室にか」


 どんなに頭で否定しようとも、男女2人が誰も近寄らない時間帯で密室となる部室に行く理由を簡単に想像できてしまい、怯える心が深く抉られてしまう感覚に襲われる。


「・・・マジでキツいな。どうしよう」


 上半身を起こし背もたれに背中を預けながら、2人の後を追いかけるか見知らぬフリをして教室に帰るか即断できず選択肢に悩む俺は、知らないまま不安な日々を過ごすより知って後悔する道を選び立ち上がった。


 枕代わりのペットボトルから彩音が普段愛用するプレゼントしたタオルを手にした俺は、湊斗が口にしていた部室の場所を男子バスケ部と決めつけその場所へと向かう。


 このまま体育館に入り部室の前に行こうとする俺の足は、体育館の入口前の階段で止まり震えて進めなくなったことに、深呼吸をして外壁沿いに歩き男子バスケ部の部室がある換気用窓の下で座り込み背中を壁に預ける。


 ガラッ・・ガラ・・


 当たって欲しくない予想が的中するのか、閉じられていた部室の換気用窓が1つだけ動き出し猫ぐらいの大きさなら入れそうな隙間のところで止まると、湊斗と彩音の会話が聞こえてしまい生唾を飲み耳を澄ませる。


「彩音、今日も可愛いな・・ソレ着けてくれたんだ」


「だって、湊斗がこっちの方が良いって言うからだよ?」


「ありがとな・・大好きだ彩音!」


「きゃっ・・いつも最初は、優しくシテって・・・・」


「ゴメン、彩音。でも、彩音が可愛から・・」


「もう・・仕方ないなぁ、湊斗は」



「・・・・・・・・・」


 盛り上がっていく2人の会話を聞き続けた俺の胸は張り裂けて、いろんな訳わからない感情が溢れ出し止められない。


 こんなに悲しいのに泣き声すら出せず灰色の地面に顔を向け、ただ涙だけがとめどなく溢れ足元のコンクリートを濡らしていく。


「・・ゔぅ・・最悪じゃねーかよ、神様・・・・俺が何したって言うんだよ」


 換気用窓からは彩音から聞いたこともない喘ぎ声と湊斗を求め続ける甘い声が、俺の心を容赦無く蝕んで彼氏という存在意義をゼロからマイナスへと落としていき止まらない。


 もう微かに残っているはずの最後の力を振り絞り、この場から立ち去ろうと立ち上がり一歩踏み出した時に彩音と湊斗が一緒に絶頂を共有し幸せそうな会話を耳にした瞬間に、胸の奥にある何かがブツンッとはじけたような音が鳴り響いた直後に、さっきまで支配されていた感情の痛みが一瞬で消えた。


「・・・・あれ? 何も痛くない・・ってか、ここで何してんだ俺は? とりあえず、家に帰ろう」


 背後で再び換気用窓が動く音が聞こえ閉められていくのを見た俺は、止めていた足を足音を立てないよ動かし離れて教室棟ではなくグラウンドの方へと歩く。


 校舎からは午後の授業が始まる予鈴が鳴り響くのを合図に、グラウンド整備していた女子ソフトボール部員が教室へとダッシュして戻って行く。


「みんな、足が速いな・・」


 帰宅部の俺にはグラウンド整備を貴重な昼休みでするなんて考えられないと思いながら見送り、校門へと向かっていると最後尾らしき部員が俺の方へと急に進路を変えて走って来た。


「お兄ちゃん!!」


「・・那月」


「お兄ちゃん、授業始まるよ? ってそのタオルどうしたの?」


「タオル? あぁ、コレか・・・・彩音のだよ。うん、彩音のなんだ」


「おにぃ・・ちゃん?」


 昼休みに偶然会った妹の那月の笑顔が消え、急に様子が変になるとまるで何かに怯えているような表情で俺を見上げている。


「どうした? 調子でも悪いのか那月?」


「えっ? どうしたって、それはお兄ちゃんだよ!? じゃなくて、どうして泣いているのお兄ちゃん?」


「泣いている? 誰が?」


「お、お兄ちゃんだよ〜どうして泣いているの〜?」


 急に俺が泣いているという那月は、歩み寄り俺のズボンをギュッと両手で握り締め見上げた顔には、大きな涙の粒を流し泣いてしまう。


「那月? 那月がなんで泣いているんだ?」


「だって〜お兄ちゃんがぁ〜」


 もう既に体育館で泣き止んでいたと思っていた俺は、妹の那月の前で涙を流していたらしい。頬に伝わる何かを感じて右手で触れると、たしかに手のひらが濡れていた。


「そうか・・俺は泣いていたんだな。気付かなかったよ那月」


「ん〜お兄ちゃん〜」


 泣きじゃくる那月の頭を撫でて落ち着かせた頃に、午後の授業が始まるチャイムが鳴ってしまった。


「那月、早く教室に戻らないと」


「お兄ちゃんもだよ?」


「・・俺は、無理だ。だから、もう家に帰る」


「お兄ちゃんが帰るなら、私も帰る」


「1年生でレギュラーの那月が帰るのは、マズイだろ?」


「そんなの関係無いもん。部活なんて、いつでも辞めてやるんだ。お兄ちゃんの方が大切だもん」


「那月・・・」


 甘え口調になった那月の意志は小さい時から固く変わらないため、親に怒られる覚悟で俺は那月と午後の授業をサボり家に帰ったのだった・・・・。


評価&ブクマ感謝です。


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