彼氏彼女とその幼馴染の物語
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「・・良い天気だ」
朝の目覚ましアラームが枕元にで鳴り響き、目が覚めた俺はゆっくりと上半身を起こしてから窓のカーテンを開けて外を見ながら呟いた。
天気予報通り雲一つない爽やかな朝は青空が広がり、今日は遊園地日和りだなと思いながら何一つ準備していない自分を思い出し、とりあえずシャワーを浴びる英断をした。
「お兄ちゃん?」
「ん?」
「朝からシャワー浴びるの?」
「あぁ、今日は香苗さんと遊ぶ約束してるから」
「香苗さんと? どこ行くの?」
「遊園地だよ」
「遊園地? 子供みたい・・」
「やっぱり?」
妹の那月に鋭い指摘に、やはり別の場所が良かったのではと今になって後悔し、重い足取りで浴室へと向かう。
温めのシャワーを浴びて身体を洗いながら、香苗さんと会ってから遊園地ではなく映画館とか買い物とかに変更しようと伝えようと考えている中で、背後のドアが開き誰かが入って来た。
「那月?」
「お兄ちゃん、背中洗ってあげる」
「いや、もう洗ったし・・」
「だぁ〜め。可愛い妹を家に置いて自分だけ遊びに行くんだもん」
「ゴメン、那月。今度遊びに行こうな?」
「・・やった・・攻めてみるのもアリみたい・・」
「ん? なんか言ったか?」
ボソボソッと背中で那月が呟いている声はシャワーの音で聞こえず、聞き返しても教えてくれないままギュッと抱き締められてしまう。
「おい、那月・・くっつくのは無しだって・・いろんなことが背中で・・・・」
「別に良いじゃん、兄妹なんだし? 小さい頃から一緒だったから、減るものでもないでしょ?」
「だけどさ・・」
「もう、いつでもどこでもお兄ちゃんだなーまったく・・・・香苗さんとの遊園地、アリだよ? 手を繋ぐチャンスあるし、乗り物乗って距離感を近付けれるチャンスだよ?」
「・・善処します」
「・・この、ヘタレ兄ちゃんめ」
「・・・・」
そう言い残した那月は、さらにギュッと俺を抱き締めてから浴室を出て行き足音が遠のいていく。遅れて出た俺はリビングへと来るもテレビはついたまま那月の姿は見当たらず、そのまま自分の部屋に戻り着替えてから那月の部屋のドアの前に立つ。
「・・那月?」
「なぁに?」
「兄ちゃん、行ってくるから」
「・・わかった。お土産買って来てね〜」
「あぁ、行ってくる」
「行ってらっしゃーい」
「・・・・」
ドア越しに那月と会話を終わらせてから玄関に向かい、履き慣れたスニーカーを履いて待ち合わせのカフェのコンフォタブルへと歩く。
住宅街を歩き続けあと一つ路地を曲がればコンフォタブルが見えるその路地から、見覚えのある女性が姿を見せたため思わず足を止め互いに顔を見合わせる。
「諒・・・・ちゃん」
「橘さん」
こんな場所で橘彩音と遭遇することを微塵も思っていなかった俺と同じように彼女も驚いている反応だった。
「えっと、諒ちゃんはお出かけ?」
「・・・・あぁ。知り合いの子と遊びに行くところ。そっちは、彼氏とデート?」
「ちがぅ・・よ」
あと残り数分で待ち合わせの時間なのに、橘彩音に進路を阻まれているかのように対峙している状況だ。
「そっか・・俺、もう待ち合わせの時間だから・・」
数歩だけ離れて間隔を取り、立ち尽くしている橘彩音の横を通り過ぎとようとしたタイミングで、サッと目の前に手を伸ばされ俺は足を止めた。
「橘さん?」
「諒ちゃん、お願い・・行かないで。私を置いて行かないで・・・・話を聞いてよぉ」
「・・無理だよ橘さん。もう俺達は、終わったんだから。だからさ、今の彼氏と幸せになればいいよ」
「ヤダよ、諒ちゃんぅ・・わ、私は・・諒ちゃんじゃなきゃ。ヤダよ・・」
さっきより橘さんは俺に近付いて来るも、手を握るような素振りを見せず近くにいるこの状況をどうやって突き放そうか考え、隠し思っていた想いを告げることに決めた。
「橘さん、俺達は恋人同士だった・・けど、橘さんと交換した恋心を俺から取り自ら吉岡に渡したんだよ? 俺は橘さんへの恋心が愛情に変わっていた。だから、ずっと好きでいて信じてた。高校を卒業してもその先の未来があると信じて・・。裏切られているのを知っても俺のところへ帰って来てくれるのを願っていたからこそ、あの時・・彩音を信じてるって言葉にして伝えた。でも、キミの心は変わらなかった。ただそれだけ・・婚姻関係じゃないから、今の俺達はただ・・・・さよならって言葉で終わったんだよ」
「・・・・・・」
俺の言葉を最後まで聞いた彼女は、大粒の涙を溢しながらごめんなさいと繰り返し謝り続ける。そんな彼女を置いて行こうと足に力を入れたところで、香苗さんが不意に姿を見せたのだ・
「香苗さん・・」
「諒太くん、ここにいたんだ」
「はい・・」
「えっと、そこで泣いている子は?」
「元カノです・・」
「そっか・・その子なんだ・・ホントに可愛い子ね」
香苗さんは年上という強みなのか、落ち着いた様子で泣いている橘彩音の前に立つ。
「はじめまして。橘彩音さんだったかな? 私は、諒太くんのバイト先の先輩の三原香苗です。たしか、あなたの学年に三原先生がいるでしょ? その先生は、私のお姉さんです」
「えっ!?」
香苗さんが橘彩音に話しかけた内容に、担任の三原先生の妹だと告げたことで俺は驚きの声を出すも、彼女は反応がなく、そのまま香苗さんは話しを続ける。
「諒太くんとの橘さんの関係は、それなりに聞いているんです。だから、ひとつだけお願いがありますが聞いてくれますか?」
一方的に話し続ける香苗さんに対して、やっと橘彩音は顔を上げて香苗さんを見る。
「・・・・なんですか?」
「諒太くんは、今日・・今の時間をもって、私と彼氏彼女の関係になります。そして橘さんは、幼馴染・・それを伝えたくてここに来ました。
「えっ? 諒ちゃんはわたしの・・」
「橘さんは幼馴染です。私は諒太くんの彼女なの。これからデートだから、邪魔しないでくれるかしら?? それじゃ行こう、諒ちゃん!」
「うぇ? あっはい。うん、行こう香苗」
微笑み手を伸ばす香苗の手を握り歩き出す俺の視界には香苗だけで橘彩音の姿は無く、カフェの駐車場に止めてある水色の軽自動車に乗って、遊園地デートへと出掛け新しい恋愛物語を始めていくのだった・・・・。
評価&感想ありがとうございました。
キリがいいので、最終話として完結させていただきます。
もし、続きが見たい場合は、活動報告のほうにコメントください。
彩音と湊斗の物語は読者様の要望があればエピローグとして投稿します。
ここまで読んでいただいた読者様に感謝です。
ありがとうございました。




