違和感への反撃という非日常
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那月が舌打ち?したような気がして思わず顔を横顔を見るけど、いつも俺に見せる表情をしているため気のせいだと思いながら前を見る妹の視線を追うように自販機でジュースを買っていた女子生徒に視線を戻した。
「りょうちゃ・・」
「橘先輩、何かご用ですか?」
「えっと、その・・」
昼休みの和やかな空気が秒で重くなったような感覚を感じながら自販機前でたじろぐ女子生徒は、昨日会った人と同じで太一から聞いた情報によると、彼女は幼馴染で彼女という関係になっていたらしい。
目の前の子は可愛い容姿だけど今の俺にとっては橘彩音さんに恋愛感情が湧かず、ただこの場の空気感が嫌なだけで当たり障りの無い言葉をかけてみた。
「橘さん、こんにちは。そのお茶は美味しいですよね」
「お兄ちゃん?」
「諒・・ちゃん」
「どうしました? 俺もその緑茶のペットボトル好きなんでよく買うんですよー」
「諒ちゃん・・どうして?」
橘さんが買ったお茶の話をしただけなのに、急に涙ぐむ彼女の反応が理解できず次の言葉を探していると先に那月が動いてしまう。
「橘先輩。少しお話いいですか?」
「・・・・」
「お兄ちゃん、橘先輩と少しお話があるんで先に那月が飲みたいと思っている飲み物を買って待っていてください」
「あぁ・・わかったよ那月」
那月は自販機前で動かない橘さんの左腕を掴み何処か見えない場所へと連れ去ってしまい、残された俺は自分と那月のお茶を買ってから近くにあるベンチに座り帰りを待っていると、中庭を見渡しながら歩く1人の男子生徒と視線が重なった直後に俺の方へと急足で真っ直ぐ向かって来た。
「諒太!」
「・・・」
サッと彼の名前が出てこなかったため、視線を重ねたまま俺は無反応になっていた。
「正面からシカトすんな!」
「がぁっ」
ベンチの背もたれに背中を預け無防備な俺は、正面に立つ彼に鳩尾へ前蹴りを食らい、衝撃をモロに受けた俺は持っていた弁当とベンチに置いていたペットボトルを地面に落としてしまう。
「いっ・・いきなり何すんだよ!・」
激痛と吐き気に耐えながら吐き出した言葉に、彼はさらに激昂し2発目の蹴り技を繰り出す直前にベンチから転がり落ちるように逃げようとするも、蹴りはフェイントだったらしく右腕を強引に掴まれ動けなくなる。
「離せよ! なんなんだいきなり!?」
「帰宅部のお前が、俺に力技で勝てる訳ないだろ? 大人しく来い・・」
どんなに力を入れて抵抗しても彼から逃げられることはできず、体力だけ消耗した俺は仕方なく諦め素直に彼の背中を見ながら連れていかれる場所へと向かった。
「・・体育館?」
「あぁ、体育館だ。今から俺達の記念の場所に連れて行ってやるよ」
「記念の場所? 体育館が? ぜんぜん意味わかんないんだけど」
「・・・・ここだ。中に入れ!」
「ここ? ここって、部室?」
「まんま部室だ・・しかも、男バスの部室。ここが、どんな場所かお前ならわかるよな?」
「・・部員が着替える場所だろ?」
彼が何か言いたそうだけど、俺には彼の意図がわからない。
「はぁ? お前、ここまで来て惚けるのもすげぇ精神だな?」
「あのさ、急に俺に絡んで来てこんな汗臭い場所に連れてこられて言うのもなんだけどさ・・お前誰だよ!?」
「諒太てめぇ! マジふざけんな!」
「だから知らねーよ! お前のことなんか・・ってか、なんでお前は執拗に絡んで来るんだ? なんで俺の名前を知ってんだよ!?」
「幼馴染の俺を忘れたフリするなんて意味わ何よんねーし! 発狂して殴りかかってくるぐらいの反応見せろよな!?」
何かと俺に絡んで来ては、挑発してくるのは幼馴染なのに俺が忘れて相手しなかったからなのかと思いつつ罵倒する彼を見ながらクラスメイトの太一の言葉を思い出した。
「幼馴染・・・・もしかして、お前が湊斗? 吉岡湊斗なのか?」
「そーだよ! その下手くそな演技で思い出したか? 俺が湊斗だ!!」
幼馴染だという吉岡湊斗の容姿と声を聞いて見渡す部室の景色が、頭の中に埋もれていた記憶が掘り起こされ忘れていた酷い記憶が全て頭痛と共にフラッシュバックした。
「くっ・・湊斗と彩音がここで・・・・」
「諒太? 演技なんかやめて思い出してくれたか? ここで俺は・・・・」
「それを言うな! それ以上、お前が言うな!!」
「彩音と毎日昼休みに何度もシタ場所だ。この部室で・・俺の部屋でも彩音の部屋でもな? 放課後の空き教室でシタ時は、バレそうな気持ちでいつも以上に激しく求めあったんだぜ? お前は、バイトに夢中だったろうけどな」
「黙れ!」
「諒太、彩音は最高だったよ。俺の言うことを従順に聞く女だ。彼氏だと口で言っても、諒太とのデートを早く終わらせて俺に会いに来てくれるんだぜ? カラダの相性が良い俺のことを優先してな・・」
「・・・・」
「どうだ? 彩音を信じていると言うだけで、裏切られたお前は?」
「やめろ湊斗・・それ以上は、やめてくれ」
湊斗は俺が泣き崩れ絶望していく姿を想像していたのか、彩音との馴れ初めを自慢しながら細かく語り続けてくれた・・・・。
俺がスマホで録音していることすら知らずに・・・・。
「諒太、これがお前の知らない彩音の姿だ・・まぁ、これからも仲良く彼氏ヅラを続けていくんだな・・俺とも幼馴染をよろしくな?」
「・・・・なぁ、湊斗」
「どうした? 寝取られクン」
「俺と湊斗は、幼馴染で親友だったよな? なんで、こんな寝取りを? そんなに彩音が好きなら・・・・」
「はぁ? 俺には本命の穂波がいるだろ? 彩音とは、ただシタかっただけ・・好きのカケラもねーし。諒太のその顔が見れて満足だよバーカ!」
湊斗は満足したのか俺を置いて先に部室から出て行き、バタンッとドアが閉まると静かな部室に昼休みが終わりを知らせる予鈴が聞こえてきた。
「はぁ・・弁当。ベンチに忘れてきたな」
胸元のポケットにあるスマホの録音を停止をタップし、無事に記録が残されたのを確認してからポケットにしまい込んで、2人がシテいたこの部室を見渡す。
「はは・・ここで彩音と湊斗がヤッタ場所ね・・・・」
換気用窓下にある折りたたみ式のハンドルを反時計方向に回すと、あの音を鳴らしながら窓がゆっくり開き外から見ていた光景を部室から眺めてみた・・。
「・・・帰ろ」
小さく呟きながら部室を出て体育館の外に出て誰もいない中庭を歩いていると、偶然なのか必然なのか彼女だった橘彩音の後ろ姿があり、俺の足音に気付いて振り返り視線が重なる。
「諒ちゃん、怪我・・大丈夫だったの?」
那月と2人で話した彼女は、妹から事故のことを聞いたのだろう。
「橘さん、もう昼休み終わるよ?」
「諒ちゃん、私ね・・大好きなのは諒ちゃんだけだから」
今更彼女は何を言っているのだろうと呆れた感情で俺が笑顔を見せたことで、何か勘違いしたのか少し笑顔を見せている。
「そうなんだ、ありがとう橘さん。もしよかったら、一緒に来て欲しい場所があるんだ・・・・ここじゃ恥ずかしいし」
「うん、良いよ。諒ちゃん、放課後にどこ行くのかな?」
さっきよりさらに笑顔になる橘彩音は、歩み寄り那月が甘えてくるような距離感まで近付いて来たけどここは我慢しながら左手を優しく握り告げる。
「男バスの部室」
「えっ・・」
一気に青褪めていく表情を見ながら笑顔で続ける俺は、もちろん掴んだ手は離さない。
「どうしたの橘さん? 誰も来ない男バスの部室には、いつも2人で行っていただろ?」
2人で行ったと言うのは、もちろん俺ではなく湊斗とのことだ。そんな言葉を聞いた橘彩音は俯き小さく震え呟き始める。
「ちがっ・・ちがう・・の・・ちがうの諒ちゃん、私は・・」
「橘さん? 早く行こうよ。今日は俺と一緒にさ? ちゃんと、ほら・・忘れずタオル持って来てるから後のことも大丈夫だよ?」
反応がなくなってしまった橘彩音の手を握ったまま俺は歩き出し目的の場所へと向かう・・もちろん男バスの部室・・・ではなく職員室へ」
「三原先生は、いますか?」
橘彩音の手を握ったまま職員室に入ると、三原先生は俺と彼女が一緒に来たことで何かを察したかのように何も言わず職員室から出て保健室へと俺達を連れて行く。
「木葉先生、少しお借りしますね?」
「三原先生? あっはい、どうぞ〜私は、用事があるのでしばらく席を外しますねー」
木葉先生は、羽織っていた白衣を脱ぎ椅子の背もたれにかけてから保健室から出て行き、三原先生と俺そして橘彩音の3人だけとなった。
「さてと、澤田くんが橘さんと一緒に来たと言うことは、そういうことなのね?」
「はい、さっき吉岡湊斗からハッキリと言われたので、偶然会った橘さんを連れて来ました」
「諒ちゃん? 吉岡くんと会ってたの?」
ずっと混乱している橘彩音の言葉を無視して、俺は持っているスマホを机の上に置いた。
「澤田くん、このスマホは? 先生、没収しちゃうよ?」
「三原先生、聞いてください」
「もう、仕方ないわね・・聞いた後に没収よ」
体育館の男バスの部室で吉岡湊斗との会話を録音したデータを橘彩音にも聞かせるためスピーカーに切り替え大きめの音量で再生する。
「やめて! 全部嘘よ!!」
吉岡湊斗の独白から橘彩音との馴れ初めの話しへとなったところで、発狂する橘はスマホを奪い取ろうと動くも、より近くにいた三原先生が先にスマホを手に取り再生は最後まで続けられた。
「澤田くん、苦しかったね・・」
「ほんの最初だけです、三原先生。途中から、僕の心は壊れてしまったようで全て他人事のようでした」
「それでもよ・・これで決定的な証拠は揃いました。澤田くんの立場が他の先生達に知られるけど良いかしら?」
「はい、俺はもう覚悟できています」
「わかりました。それと、橘さん?」
吉岡湊斗の暴露話しでさらに不安定になりブツブツ呟きながら涙を流している橘は、三原先生の声が届いてないようだ。
「橘さん!!」
「あぅ・・」
三原先生の声でビクッと反応する橘は、顔を見上げ先生を見る。
「橘さん、校内であなた達が行ってきた不貞行為・・いえ、学業に専念する場所での問題行為を見逃すことはできません」
「・・・・」
「先日の職員会議で橘さんと吉岡くんを呼びだした理由を覚えていますね? よって、これから午後の授業は出る必要がないことを後から校長先生が伝えにくるでしょう」
「せ、先生? 私は・・ただ、諒ちゃんのことが・・」
「学生とはいえ、彼がいるのに秘密裏で他の男性と身体の関係を持つことはあり得ません。ちゃんと別れると言う正しい手順を踏んでから新たな恋をするなら問題なかったことです。ですが、行為を行った場所そして澤田くんを裏切ったことは、大人社会で婚姻関係であれば高額の慰謝料を請求される程の悪質なことなのですよ?」
「・・・・」
三原先生に何も反論できない橘は、そのまま泣き崩れ俺に謝罪の言葉を繰り返し告げるも、俺の心に何一つ響かない。
「澤田くんは、今からクラスに戻りなさい」
「はい、先生」
横で泣き崩れる橘を見ながら、三原先生が備え付けの電話で誰かと話しているうちにソッと歩み寄り耳元で告げる。
「彩音、ざまぁ・・・・」
彼女との関係を完全に断ち切るように保健室のドアを大きな音を立てて閉めたことで、心のモヤモヤが消えスッキリした気分となった。
「残るは、吉岡湊斗だけだな・・・・」
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