戻り始める日常に迫る違和感
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誰もいなくなった家を出て思い出せない記憶を探すように近所を歩いてから、途中で見た景色や公園と店を確認して思い出せる物があったことに安心できた俺は、そのまま範囲を広げて通学路とバイト先であるコンビニを見てなんとなくわかって来た気がしていた。
「あのコンビニに香苗さんとバイトしてんだよな・・・・」
この時間は大学だろうと思い立ち寄ることなく、遠目からコンビニを見るだけにして通りの反対側の歩道を歩き過ぎ高校がある場所をスマホの地図アプリで誘導され向かった。
「ここが、通っている高校か・・」
もう登校する生徒の姿はなく校門の近くで足を止めてフェンス越しから校舎を眺めていると、楽しそうな声が聞こえ俺も明日から頑張って通うぞと決意している背後から不意に声が聞こえ振り返る。
「諒ちゃん? 諒ちゃん!」
振り返った視線の先には仲良く並び自転車を押している女子生徒と男子生徒の2人がこっちを見ていた。
「えっと、どうして自分のその呼び方を知っているんですか?」
「えっ??」
声を掛けて来た女子生徒は目を見開き少し調子が悪そうな顔色をしているのに対して、隣りにいる男子生徒は眉間にシワを寄せて睨みつけ何か言いたそうだ。
「す、すいません。今日は、諸事情で学校を休んでいるので・・帰りますね」
このままいると明日学校で2人に会った時に面倒になりそうだと感じた俺は、この場から立ち去ることを決めるも男子生徒は許してくれないらしい。
「おい待てよ! なんで、お前は他人みたいな反応で彩音の電話をシカトしてんだ?」
「電話? いったいなんのことですか?」
「諒太、てめぇ! まだふざけるのか!?」
押していた自転車を地面に乱暴に倒し大きな音を立てながら、感情を剥き出しのして俺のことが気に入らない様子だ。
「いえ、別にふざけてなんかいませんよ?」
「だったら、なんでそんな態度なんだ?」
「いや、それは・・2人のこと知らないからですけど?」
「「 !!!! 」」
俺の言葉を聞いて2人は言葉を失っているみたいだ。
「だから、本当に知りませんから。もう俺は帰りますから・・遅刻する前に早く行ったほうがいいですよ」
「諒ちゃん・・冗談だよね?」
「諒太、それ以上舐めた態度なら、幼馴染でも本気で殴るぞ?」
「俺を殴る? 冗談でもないし、幼馴染って言われても困ります」
もう絡んでくる2人から立ち去りたい俺は、必死に別の言い訳を考えている前で、女子生徒がスマホを手にして電話をかけようとしている。
このまま不審者扱いで警察でも呼ばれたら、また家族に迷惑がかかると焦っているとズボンのポケットにしまっているスマホから着信を知らせるように震え始める。
「・・電話だ」
「諒ちゃん、スマホ見て」
「はい?」
よくわからずスマホを取り出し画面を見ると、早朝に電話をかけていた彩音という名前が表示されている。
「・・・・朝の電話と同じ人だ」
「諒ちゃん、それ・・わたしだよ? なんでずっと無視するの?」
「俺が? あなたをですか?」
「諒太、なんでお前は彩音ちゃんの話を聞かず、一方的に冷たい態度なんだ?」
「えっ? その、急に怒鳴られても困ります。俺は、本当に2人のことを一切何も知らないし! だから、いきなり話し掛けられても迷惑なんだよ!」
言いたいことが言えた俺は涙を流し嗚咽を漏らす女子生徒の横顔を見ながら、これ以上話し掛けて来るなと願い足早に立ち去ることができた。
見知らぬ生徒2人に絡まれた俺は明日から学校に行くのが憂鬱になり、明日から学校に行けないと帰ってきた那月に告げた直後に、号泣されてしまい一緒に学校に行くことを約束するしか選択肢は残されてなく準備を済ませて眠りについたのだった・・。
「はぁ・・朝が来てしまった」
「・・お兄ちゃん、早く行こうよ!」
「そだな」
沈む気持ちの俺とは対照的に那月はとても嬉しそうな笑顔で玄関で俺を出迎える。
「那月、そんな急がなくても遅刻しないぞ?」
「わかってるよお兄ちゃん。でも、歩いて行くには少し遠いもん・・それに寄り道したくなるかもだしね」
「寄り道って、コンビニぐらいだろ?」
「そだよ〜」
まるで兄妹から姉弟の立ち位置に変わってしまったかのように那月は俺を先導している姿に、いつの間にか通学へのマイナスの気持ちは消えていた。
久しぶりの登校のせいかそれとも過去の記憶が部分的に抜け落ちているせいか、まるで入学初日のような不安な気持ちが込み上げてきそうだ。
「お兄ちゃん?」
「・・ん?」
「大丈夫?」
「あー大丈夫だよ」
自転車通学をしている那月は、俺に合わせて歩いてくれている。ただ母さんから俺だけ禁止されているだけで、学校から指導された時のように強制力は無いのに。
那月と並んで通学路を歩いて行く時間の中で、学校のことや教室の場所とかを今の俺から抜けている記憶を繋げさせてくれる。
「那月、ありがとうな」
「お兄ちゃん、どうしたの急に?」
「こんな俺に付き合ってくれてさ」
「だって、私のお兄ちゃんだよ?」
「そっか・・ありがとな」
長い道のりに感じていた通学路は、思ってたより短くあっという間に校門まで辿り着いた。
「お兄ちゃん、朝練があるからここでお別れなの。もし、教室の場所がわからないならこのまま一緒に行くよ?」
「大丈夫だよ。那月はいっぱい教えてくれたから、なんとなく思い出せたよ。怪我には気をつけてな」
「うん、バイバイ」
リュックを背負い直し走り出した那月はピタッと止まると振り返り戻って来た。
「那月?」
「お兄ちゃん、お昼休みに教室行くから、一緒にお弁当食べよ?」
「わかったよ。また、昼休みにな」
「うん!」
ダッシュで走って行く那月の後ろ姿を見送り、1人になった俺は教室へとゆっくり歩いていると背後から誰かに肩を叩かれ足を止める。
「諒太! サボりは終わりか!?」
「おわっ・・・・」
僅かに姿勢を崩しながらも見上げると、昨日の男子生徒とは違う爽やかな笑顔を見せる男子が立っているも名前が思い出せない。
「・・・・」
「・・・・ん? 諒太、なんかお前変だな? 休みボケか?」
「そんなことは・・・・えっと、誰?」
「はぁ? サボり明けの一言目がそれかよ!? さすがに笑えねー」
「ゴメン・・」
「・・マジ?」
笑いながらバシバシ肩を繰り返し叩いていた彼から笑顔が消え、手は止まってしまう。
「マジで・・ゴメンけど、名前教えてくれないかな?」
「・・た・・太一」
「太一くん・・太一くんね・・覚えた」
「なんだよ諒太・・お前、気持ち悪いぞ?」
太一と名乗る男子生徒の容姿を見ながら思い出そうとしている頭がズキッと襲う頭痛に耐えながら、彼との記憶を探すとパッと浮かび上がって来た。
「あー太一だ! そうそう太一だよな」
「諒太? なんだその反応は・・親友をバカにしてんの?」
「ゴメンゴメン。ちょっとここだと話せないから教室に行こうぜ」
「まぁ、いいけど・・・・どうした諒太?」
久しぶりに会う俺の反応に戸惑いを見せる太一を連れて教室へと入ると、まだクラスメイトの姿は無くちょうどタイミングがいい環境だ。
「あのな、太一」
「なんだよ改まって・・もしかして告白か? 俺はBLに興味ないぞ? それにお前には、彩音ちゃんがいるじゃねーか」
「太一、とりあえずBLとその彩音って子のことはおいといてだな・・実は俺さ自転車で事故って入院していたんだ」
「はぁ? 諒太、それマジで言ってんの?」
「あぁ、一時的な記憶喪失らしんだ。妹の那月のこと忘れてて、めっちゃ泣かれたよ」
「マジか・・ならさ、彼女のことも?」
「その彩音って子のことも、どんな関係だったかさえ思い出せないんだ」
「嘘じゃないよな?」
「マジだって・・だから学校休んでたんだよ」
太一の驚く顔を見ながら、今の俺の現状を全部伝えると幼馴染で彼女である橘彩音と親友の吉岡湊斗のことなど細かく話してくれた。
「・・そういうことだったのか。だから、あの2人は俺に馴れ馴れしく話しかけて来たし、スマホの番号も知っていたんだ」
朝の静かな教室で太一から聞いた話を自分なりに整理している中で、クラスメイト達が教室に入って来て俺の姿を見つけては、みんな声をかけてくれたことが嬉しかった。
いつも通り始まる授業は休んでいた俺はついていけず、とりあえずノートに要点だけをまとめて家で復習しようと決め午前中を生き抜いた俺は無事に昼休みを迎えれた。
「お兄ちゃん、いますか?」
購買や外で弁当を食べに行くクラスメイト達の流れに逆らうように、妹の那月がドアから顔を覗かせ俺を呼ぶ姿を見つけた。
「那月、今行くよ」
席を立ち太一と別れた俺は迎えに来てくれた那月へと歩み寄る。
「お兄ちゃん、お茶買っていこ?」
「そうだな」
那月と廊下を歩き購買へと走る生徒達の背中を見送りながら、途中で曲がり中庭へと出て自販機へと向かうとちょうど自販機でジュースを買う女子生徒の姿を見る。
「ちっ・・・」
隣りにいる那月から微かに舌打ちが聞こえたような気がして思わず顔を向ける。
「・・・・」
「お兄ちゃん?」
見上げる可愛い那月の顔にさっき聞こえた舌打ちは気のせいだと決めて、なんでもないと言いながら頭を撫でると、猫のように甘えてくる仕草にホッとしていると、顔を前に向けながらスッと雰囲気が変わったのだった・・・・。
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3人の物語が再び動き出します。




