非日常に奪われた日常を取り戻せない違和感
アクセスありがとうございます。
起きているのか寝ているのかよくわからない意識の中で、暗く静かな場所をフワフワしているような感覚をほんの微かに感じ始めた頃に、リズム良く聞こえる電子音が聞こえてきて上を見上げたら白い天井と揺れてる白いカーテンがある部屋にいるらしい。
「・・・・っえ? んん?」
戻ってくる全身の感覚から不意に自分の左手に自分のものではない温もりがあり顔を向けた。
「・・・・だ、れ?」
「!!」
小さく震える声で呟いたことにピクッと反応しパッと顔を上げた可愛い女の子は、俺と視線を重ねると突然涙を流して抱き着いてきたことに驚きを隠せないけど、痛みでされるがままだ。
「ねぇ、キミは?」
2回目に尋ねた声にビクッと身体を震わせ硬直させた女の子は、少しだけ離れゆっくりと顔を見上げ目に前で見つめる。
「・・お兄ちゃん」
「お、お兄ちゃん?」
「わたしのお兄ちゃん」
「んと・・俺とキミが? それって、兄妹ってことかな?」
「うん、お兄ちゃん。お兄ちゃんは那月のお兄ちゃんだよ?」
俺の妹だと告げる可愛い女の子を見ながら、俺に妹がいたことが思い出さない。
「・・・・ゴメン、何も思い出せないんだ」
「うそ・・お兄ちゃん、那月のことわからないの?」
「ゴメンね。那月さんの顔や声を聞いても、俺との繋がりが良く思い出せないんだ」
俺の妹だと名乗る女の子は、涙を流し俺の左手をギュッと握りベットに顔を埋めてしまった。
・・コンコン・・
部屋のドアがノックされ入ってきたのは、また見覚えのない綺麗なお姉さんだ。
「那月ちゃん、諒太くんは・・・・諒太くん! 意識が、目が覚めたんだね」
綺麗なお姉さんもなぜか俺の名前を知っていて、目が覚めた俺の姿を見ただけで涙を流しているこの光景が怖くなり、動かせる右手で枕元にあったボタンを反射的に押すと、すぐに看護師さんが部屋に来て助けてくれると思った。
「・・澤田くん、目が覚めたんですね。すぐにご両親に連絡します」
「あれ? あのぉ・・」
せっかく来てくれた看護師さんは、俺が起きているのを確かめた後にそのまま親に電話すると告げて部屋から出て行ってしまい、再び部屋には3人だけとなる。
「・・・・」
「お兄ちゃん? ホントに那月のこと覚えてない?」
「・・ゴメン。何も思い出せないんです。でも、何かあったようなモヤモヤした感じはあります」
「えっと、諒太くん・・・・私のことも?」
「はい、すいません。貴方のこともわからないんです」
「そう・・なんだね」
俯きショックを隠せないお姉さんの顔を見て、なんだか胸が痛む自分がいる。
「あの・・名前を教えてもらってもいいですか?」
「うん。私は、香苗。諒太くんからは、香苗さんってよんでくれていて、一緒にバイトをしていたの」
「香苗さん・・ですね。ハッキリ思い出せないんですけど、ここが・・胸がチクッてするから、きっとそうなんですね」
香苗さんと言う綺麗な女性は2才年上で大学1年生で、俺が通っている高校の卒業生なのだそうだ。自己紹介を兼ねて俺との今までの関係を教えてくれたけど、今の俺にとっては他人事のようだった。
だけど、拭えない違和感がずっと頭の中で存在していることだけ自覚していた。
妹だと言う那月さんと香苗さんの3人で会話をしているあいだで、どうやら俺は自転車で事故って3日ほど意識が戻らなかったらしく、救急車での搬送から那月さんや親が病院に駆け付けるまで香苗さんがずっと付き添っていてくれたことを那月さんが教えてくれた。
「香苗さん、ありがとうございました」
「ゴメンね、諒太くん。私がバイトのヘルプの電話さえしなかったら、こんなことに・・・・」
「悪いのは、お兄ちゃんなんですよ? 香苗さん。むしろお礼を言わせてください・・私や親が来るまでお兄ちゃんの傍にいてくれたんですから」
「でも・・」
「香苗さん、ありがとうございます。だから、そんな顔をしないでください」
「諒太くん・・」
「あの、バイトのヘルプってことは、香苗さんがいなくなってバイト先の方はどうなったんですか?」
「それはね、オーナーさんの親戚の人が少し離れた場所で同じ系列のコンビニを経営しているから、そこのお店のバイトさんとかに手伝ってもらったの」
しばらくしてから病院から連絡が入った両親が勢いよくドアを開けて入ってくると、入れ替わるように香苗さんはバイトがあるからと言って、引き止める親に頭を下げて帰って行ってしまった。
「諒太、お前死んだと思ったぞ」
「父さん・・ごめん」
父さんからはぶつかった車の運転手や警察との事故処理は無事に終わったと教えてくれて、あとは保険屋に任せたと言い、母さんからは退院後は自転車通学を禁止と言われて歩いて通学するよう怒られてしまった・・・・怪我人なのに。
結果的に全身打撲だけで骨折はないけど、一時的な記憶喪失のような俺は検査を受けて様子を見るため1週間程入院することになり、個室で過ごす俺を放課後に来る那月さんと大学の講義とバイトが無い時間には香苗さんが部屋にいてくれて暇を持て余すことはなかった。
「澤田くん、今日で退院だけど違和感があったら先生のところに来てね」
「はい。何かあったら、先生に診てもらいに来ますね」
「絶対だよ? 思い出せない記憶は全て消えたしまった訳じゃないから。強いストレスが蓄積されたことが原因で、事故にあった衝撃で忘れてしまっただけのはずだから。元の生活に戻ったら、小さなきっかけで思い出せることもきっとあるはずだから」
「そうですね・・・・思い出を探すように、生活してみます」
「うん、前向きに行こう澤田くん。退院が平日でお迎えが誰もいないけど・・ププッ」
「先生、そこは笑わないでくださいよ」
平日の昼間に退院となったため学校や講義がある那月さんと香苗さんの姿は無く、なぜか両親も仕事で来れないと言われた俺は、タクシーに乗り聞いていた住所を告げてその家の前にたどり着いた。
「ここが家か・・」
見送ってくれた担当の医師が別れ際に行っていたことが信じれるように、家を眺めてから忘れていた思い出を少し取り戻せたような気がする。
その中で人間関係だけが曖昧なままで、両親のように普通に憶えている人と家族でも妹の那月さんのように憶えていない人との違いがわからない。
「・・ただいま」
玄関ドアを開けて中に入りそのまま自然と足は階段を上がり2階にある部屋へと入り、大きなバックを勉強机のうえに置いて見渡すと、この部屋は自分の部屋だったんだなと実感しながら部屋中の物を漁り、どこに何があるかを確認して最後に机のうえに置いたバックを開けて中にあるスマホを手に取る。
「・・・・ボロボロだな」
使っていたスマホは事故の衝撃のせいで画面は割れて電源が入ったように明るくなるも、何も操作はできないことに残っていた記録で記憶を思い出そうとするのを諦め、ベッドへと横になって窓から見える空を眺めていると家の前にトラックが止まった後に、呼び出しのチャイムが聞こえ部屋を出て俺は訪問して来た誰かを出迎えるのだった・・・・。
評価と感想ありがとうございます。
よかったら下の星に評価をお願いします。