デートという日常の違和感
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「香苗さん、俺には仲の良い幼馴染がいるんです。その幼馴染がですね・・・・」
静かに話しを聞いてくれる香苗さんは、途中で質問する事なく聞いてくれている。そんな香苗さんを見ながら俺は、彩音と湊斗との関係を話しながら視線を手元のコップに向けたり戻したり店内の時計を見たりして不安定な視線を香苗さんへと戻した途中で、マスターが香苗さんが注文したコーヒーを運んで来た。
「お待たせしたね・・」
コーヒーカップをテーブルに置いてマスターが去った後に、カフェオレを一口飲み溜息をついてから幼馴染の2人が身体を重ねている関係を知ったことを静かに吐露してしまった。
「・・・・あの日の諒太くんの瞳は、その幼馴染さんとの関係を知った日だったんだね」
「・・そうなりますね。はい・・」
店内に流れるBGMは客の話し声を邪魔しない程度の音量で、会話が途切れてしまった俺の耳にスッと入ってきて聴き入ってしまい無言の時間が流れ、このままじゃ悪いと思いテーブルに落としていた視線を上げたところで香苗さんが先に口を開いた。
「・・諒太くんはさぁ」
「はい・・」
「その彼女さんと幼馴染君とこれからの関係はどうするの?」
「彼女とは・・彩音とは別れます。先に振られるかもですけどね・・寝取った湊斗は1発殴って関係を切ります」
「でも、同じ学校なんだよね?」
「そうですね。でも、運が良いのか悪いのか2人とはクラスが違うのでまだマシだと思います」
「そっか・・・・諒太くんは、2人に裏切られたけど復讐というか仕返しみたいなことしないの?」
俺を見つめる香苗さんの瞳は、悲しい感情から怒りの感情が読み取れる瞳に変わって俺を見て返事を待っている。
「今のところは無いというか、たぶん・・・・2人を想う俺の心は壊れたんだと思います」
「こ、心が壊れた?」
「はい・・初めて2人の関係を知ったときは、信じられなくて苦しくて悲しくて泣いたんです。でも、急にそのマイナスの感情が感じられなくなって、わからなくなったんです」
「そんな・・諒太くん?」
「でも、唯一の救いはあの時・・香苗さんが俺を抱き締めてくれた時に感じた温もりが優しくて・・だから前にも言いましたが、今の自分が保てているのは香苗さんのおかげなんです」
「諒太くん・・わたし・・」
香苗さんは冷たいカフェオレのコップを持っていて冷えきっていた俺の手を両手で優しく包み込み暖めてくれた・・・・。
「香苗さん、夜にわざわざ会ってくれてありがとうございました」
「気にしないで、諒太くん。私も会いたかったし、辛いけどお話し聞けたから」
カフェから出て香苗さんと駐車場の隅で話しをした後で、先に車で帰る香苗さんを見送る。
「帰り、気をつけてくださいね?」
「うん、諒太くんもね」
「はい。家は近所なんで・・それと、香苗さん」
「なにかな?」
「今日は、こんな俺の話しを聞いてくれてありがとうございます。明日、彼女に別れを告げる気持ちになりました」
「うん」
香苗さんはバイト先で別れる時と同じように手を振りながら走り去って行き、赤いランプが見えなくなってから俺は家へと帰り着き明日デートをする約束をしていた彩音と会うための支度を済ませてから眠りについた・・・・。
少しだけ朝早くに家を出るも、連休2日目だからか待ち合わせの御坂駅西口前には中高生ぐらいだろうたくさんのグループが楽しそうに改札口へと向かい、仲良くどこかへ遊びに行く後ろ姿を見ながら俺は1人歩く。
彩音と約束した御坂駅西口に9時になるまでまだ30分あるため、駅前のコンビニで立ち読みしながら時間を潰していると、ふと視界に湊斗らしき横顔が見え顔を上げると湊斗が1人で西口に向かって歩く姿を見る。
「あいつも何処か遊びに行くのか・・」
彩音と2人ではなかったためそのまま店内で目で追うだけにして、人波に消えた後に再び雑誌へと視線を落としかけたところで、通りを歩く彩音を見つけた。
「あいつも、早くね?」
左腕にある腕時計で時間を確かめるとまだ8時50分だった。いつも彩音は待ち合わせ時間より数分遅れて来るのに珍しいなと思いつつ、雑誌を棚に戻してからカフェオレのペットボトルをセルフレジで購入し、店を出て彩音を追いかけるも姿を見つけれなかった。
「・・・・まぁいっか」
この後に彩音と会う約束をしているから探すのをやめて、カフェオレを飲みながら通りを歩き御坂駅西口へと辿り着くと適当な場所の柱に背中を預け待つことにした。
彩音が遅れた来ることが普通に感じている俺は、腕時計を見る事なく行き交う人を眺めているも飽きてしまい、ふと時間を確かめると10時30分だった。
「・・さすがに遅過ぎだろ」
ズボンのポケットに入れている大人しくしていたスマホを取り出し、彩音に電話をかけると2コールで電話に出た言葉は言い訳からだった。
「諒ちゃん、ゴメン! 寝坊しちゃったの! 今急いで支度しているから、すぐ行くね!!」
「えっ・・寝坊?」
彩音は普通に嘘をついている。さっきコンビニ前の通りで見たのは、他人の空似ではなく彩音本人だったから。
「うん、本当にゴメンね。あと10分くらいで行けるから待ってて!」
「そっか・・駅で待ってるよ」
「うん、わかった」
彼女の嘘を聞き終え耳からスマホを離そうとした時に、彩音とは違う声が遠くで聞こえた。
「彩音〜支払い終わったから部屋出るぞ〜」
・・プーップーップーッ・・
通話が切られスマホから流れるのは無機質な電子音が繰り返されるだけで、俺はスマホをポケットにしまい目の前の行き交う人の流れを見ながらポツリと呟く。
「・・もう帰ろう。あの声は、きっと湊斗だろうし」
このまま湊斗と別れ俺に会いに来る彩音とデートをしても無駄に思えてきた俺は、ここで別れを伝え家に帰ろうと考えるも諦めて、流れる人の波に身を任せ改札口へと歩く。
・・ピッ・・
右手に持つスマホで改札にある画面に近づけると、電子音とともに閉まっていたゲートが開き構内へと俺を受け入れてくれる。
ただ構内を歩く俺は天井からぶら下がる電光掲示板を見上げ、4番ホームに目的地の駅に停まる快速が5分後に到着すると教えてくれている。
人の流れに乗れた俺は、階段を上がり同じ4番ホームへと向かう見知らぬお兄さんの背中を追って無事に辿り着くと、今まで使ったことのないホームに設置されているベンチに座り、向こう側の3番ホームをボンヤリ眺めていると、スマホがポケットの中で震えるも今は取る気がしない。
しばらく震えていたスマホは静かになり大人しくしてくれたところで、ホームのスピーカーから若い男性の声が響き渡る。
〜 まもなく4番ホームに快速四季が丘行き6両編成の列車が参ります。危ないですから、黄色の線の内側でお待ちください 〜
慣れたアナウンスが流れホームにいる客達に注意喚起している。それを素直に守る光景を俺はベンチに座ったまま眺めていると、朝なのに前照灯を点けた電車がホームに滑り込んで来て指定された場所に停まる。
エアーが抜ける音と共に複数のドアが一斉に開き、待っていた客を一気に受け入れている。
〜 ドアが閉まりまーす。駆け込み乗車はおやめくださいー 〜
この今停車している快速に俺は乗るんだったと思い出しベンチから立ち上がるも遅かったようで、開かれたドアは閉まり発車して、次の停車駅で待つ客達を迎えに行く。
それからも同じ間隔で来る電車をただ眺め見送っていると、大人しくしていたスマホが再び震え出しなかなか静かにならないため、仕方なく手に取り画面を見ると彩音から着信だった。
「・・もしもし?」
「諒ちゃん!? どこにいるの? ずっと西口で待ってるんだけどって中にいるの?」
電話に出ると立て続けに質問をする彩音は、俺のスマホが周囲の雑音を拾い彩音に伝えたことで俺がホームにいることに気が付いたらしい。
「・・そう、ホームにいるよ」
「だよね・・どこ?」
「4番ホーム」
「今から行くから!」
彩音はそう告げて俺の返事を聞かず先に電話を切った。
「諒ちゃん!」
数分してから彩音の声が聞こえ顔を向けると、階段を降りている姿があった。
「彩音、ここだよ」
ベンチに座ったまま、とっくに空になったペットボトルを振り出迎えると、彩音は左側に座る。
「西口って言ったのにどうして先に・・・・私が遅刻したのが悪いんだよね。ゴメンね諒ちゃん」
隣りに座る彩音の長い髪は、まだ完全に乾いて無いようで少しだけ濡れている感じだ。
「良いよ・・来てくれたし」
良いよ別にと言う途中で吹き抜けた風に乗ってきたシャンプーの香りは普段から彩音が愛用している香りと明らかに違った香りとだった。
「なぁ、彩音・・」
「なぁに?」
「シャンプー変えたんだね」
「えっ・・変えてないよ」
「そう? いつもと違う香りがしたから・・あっ電車来たね」
「・・・・・・」
黙り込む彩音の横顔を見ずにベンチから立ち上がり、彼女に差し出した左手は握られることは訪れないため、そのまま相手を見失ったボッチの左手をぶらぶらさせながら電車に乗り込んだのだった・・・・。
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