お節介
女神エンドルが去った後、ヨシムネは少し考え事をしていた。
「どうしたの?ヨシムネ?ぼーっとしちゃって…」
「いや、ちょっと眠たくなってきたかなって…」
その言葉を聞いて、ケンゾウがどっと笑う。
「何を言っているんだヨシムネ!商人たるモノ、夜が本番だぞ!」
「夜の繁華街で情報を集める事も商人の重要な仕事の1つだからな!ワハハハ!!」
その言葉を聞いてエゼルカの眉がピクリと動く。
「だから貴方の身体から嗅いだ事も無い魔香水の匂いがするんですね?」
「あっ…いやコレはだな…取引先の貴族との付き合いでだな…」
「ふ~~ん。新しい魔香水の匂いなんかしないわよ。語るに落ちたわね…アナタ」
「済まない!本っ当に済まないエゼルカ!遊び好きの顧客で致し方なく…!いやこの通り!」
ケンゾウはその場で土下座した。
(母さんの『嗅覚』は凄いなぁ…)
「…今回は男の甲斐性って事で許してあげるわ。久々に3人揃って過ごせるんだし。だから頭を上げて、アナタ」
「エゼルカ…!ありがとう…!」
ケンゾウは期待を込めた眼差しを彼女へ向ける。
エゼルカは小型の魔導電光板を取り出すと、ある映像を彼に見せた。
「これは服か…?」
「ええ。王都のある服飾デザイナーが自ら手掛けた最新の製品よ。これ、欲しいの♡」
「エゼルカ…因みにお値段の程は?」
「今関係ある?ソレ」
彼女は笑顔で言い放った。
「ないです」
ケンゾウは即答した。
(父さん…)
「ふふふ。これで明日からまた楽しくなるわ!」
エゼルカは楽しそうに料理を頬張る。
「良かったですね、奥様」
キャロラインが彼女に追従した。
「あら。貴女も服を買って貰う?」
エゼルカは彼女に問い掛ける。
「え?私のもですか!?それは流石に…」
「そ、そこまでは勘弁してくれ!メイドや使用人全員にまで買ったら俺の小遣いが…!」
ケンゾウが慌てて止めに入る。
「冗談よ、アナタ♡」
「目が笑ってないぞ…」
「それにこのコにはもう相手が居るんですもの。そんな無粋な真似は致・し・ま・せ・ん」
エゼルカはヨシムネにウィンクをした。
(えっ!?もうそういう認識なの!?早くない!?)
キャロラインは顔を赤くして、前髪をやたらと触りだした。
「わかってるわよね?ヨシムネ。ただ優しいだけの男はダメ。どんな事があっても、女の子の人生を丸抱え出来るような甲斐性を持っている男がデキる男なの」
「はい…!」
「よろしい♡流石私の子ね♡」
そう言ってエゼルカはヨシムネの頭を抱えて撫で回した。
(むー…)
キャロラインがその様子を不満げに眺める。
「大丈夫よ、キャロ。こっちに来なさい」
「はい!」
彼女は呼ばれるや否や、ヨシムネの元へサッと移動した。
(飼い主の家族に嫉妬する大型犬かな?)
「ヨシムネ様ぁ!」
キャロラインはその大きな身体でヨシムネに抱きついた。
「きゃ、キャロ…く、苦しい…」
(怪力で全身の骨がバキバキになる!)
「5歳でもうメイドを手なずけているとは…これは期待できるな…!」
ケンゾウはウンウンと頷きながらその光景を眺めている。
そこにエゼルカが近寄ってコソコソと耳打ちをする。
「…あなた、来週は市の参事会員達や有力商人達が集まるパーティがあったわよね?」
「ああ。そろそろヨシムネも顔見せして良い頃合いだな」
「キャロラインもお付きで連れて行きたいんだけど、彼女のドレスも見繕ってあげたいの?ダメ?」」
「ううむ…しかしキャロラインだけを特別扱いすれば家中の雰囲気がだな…」
「レンタルなら問題無いわよね?」
「ああ。それなら良いか…一応護衛も兼ねてという事なら名分も立つな」
「決まりね」
そしてエゼルカはニコニコとしながら、戯れている2人に声を掛ける。
「来週、市の有力者達が集まるパーティーがあるの。良かったら2人も来ない?」
その言葉を聞いて2人は驚いた表情をした。
「いいの?僕はマナーとか分からないよ?」
「右に同じです。私はメイドとしての立ち居振る舞いは存じてますが、社交の場の振る舞いはとんと存じ上げませんが…」
「大丈夫よ!」
エゼルカの目が光る。
「「えっ」」
「この私がビシバシ仕込んであげます!」
「エゼルカの仕込みは厳しいぞ~?」
ケンゾウがからかうような素振りをする。
「アナタ?」
「うん?」
「何か勘違い為さっているのでは?」
「えっ。まさか」
「アナタは特別再教育よ。アナタがウチの顔なんだから!」
「…そうだ!来週の予定がな…」
「無駄な悪あがきはおよしなさい」
「ハイ」
「…というワケで、明日から楽しくやりましょうね~?フフフフ…」
「「「…」」」
こうして3人は気の休まらない週末を送る事になってしまった。