彼女は罪人? それとも……
デルフィーヌは、自身を殺そうとしたエマニュエルの処刑を、先程恋人と共に見届けた。
『私は、無実です!』
最期まで罪を認めなかったエマニュエルだったが、そんな人でも命を奪われるのは後味が悪い。
聖女であるデルフィーヌを殺そうとした当然の報いだと、恋人のエドワールは言ったが、庶民として育ったデルフィーヌには、処刑はやり過ぎのような気がしてならなかった。
「エドワール様。暫く独りにして貰えませんか?」
「構わないが。……どうかしたのか?」
「……少し、疲れただけです」
「そうか」
何となく、エドワールには解って貰えないような気がして、デルフィーヌは誤魔化した。
独りになって暫く経った時、デルフィーヌはふと視線を感じて振り返った。
「?! エマニュエル様?!」
其処に処刑された筈のエマニュエルの姿を見て、デルフィーヌは恐怖に青褪める。
「エマニュエルは、姉ですわ」
しかし、そう否定され、よく見れば、其処まで似ていない事が判った。
遠目で見たり・ぱっと見だったりでは、間違えてしまうだろうが。
「そうですか。失礼しました」
「間違えるのも無理はありませんわ。化粧の仕方によっては、もっと似ますもの」
その目がデルフィーヌを嘲笑しているように見えて、嫌な感じがした。
これから、酷い事を言われるような。
「エマニュエル様の処刑の件で、わたしに仰りたい事があるのですか?」
「ええ」
姉が処刑されたのはデルフィーヌの所為だと、責めに来たのだろう。
彼女はそう思ったが、そうではなかった。
「お礼を言いに参りましたのよ」
「……お礼? ですか?」
「そうです。私の代わりに、姉を処刑してくださってありがとうございます」
「……え?」
デルフィーヌの脳は、理解を拒んだ。
何を言っているのだろうか?
「私、姉が大嫌いですのよ。ですから、姉の振りをして、婚約者のエドワール様に嫌われるように色々しましたの。貴女にも恨みは無かったのですけれど、思った通り、効果的でしたわね」
「それは、どういう……?」
「あら。解りませんの? 全て、私の仕業と言う事ですわ」
最期まで否定し続けたエマニュエルの声が、蘇る。
『私は、無実です!』
あれは、真実だった?
私は、無実の人間が処刑されるのを止めずに、見届けてしまったの?!
デルフィーヌは、罪悪感に押しつぶされた様に膝を着いた。
「酷い顔色ですわね。私は、これで失礼させて貰いますわ。捕まりたくありませんもの」
その言葉も耳に入らない。
記憶の中のエマニュエルの声が、デルフィーヌを責めるように、何度も何度も無実を訴えるからだ。
「良かった。気が付いたか」
エドワールは、意識を取り戻したデルフィーヌに安堵して声をかけた。
「エドワール様……」
「処刑は、聖女たる其方には刺激が強過ぎたのだな。倒れている其方を見た時は、心臓が止まるかと思ったぞ。独りにするのではなかった」
夢だったのだろうか?
デルフィーヌは、あの女性との会話をそう思いたかった。
「あの……。エマニュエル様には、妹さんはいらっしゃいますか?」
「いや。エマニュエルの兄弟は、弟だけだ。何故、そんな事を?」
「いえ。特に意味は……」
エマニュエルに妹がいないのであれば、やはり、あれは夢だったのだろう。
そう思ったが、別の考えが浮かんでしまった。
血の繋がりは無くとも似ている女性がいて、エマニュエルを陥れた可能性もあると。
どうして、ちゃんと捜査して貰わなかったのだろう?
「また顔色が悪く……。デルフィーヌに癒しを!」
エドワールに命じられた治癒術師が治癒術を使い、デルフィーヌを回復させる。
しかし、後悔に支配された心は癒せなかった。
どっち?! どっちが本当なの?!
あれは夢? それとも、現実?
あれは嘘? それとも、本当?
エマニュエル様は罪人? それとも、無実?
誰か、教えて!
私は、どうすれば良いの?!