後編
「あら、ちゃんと冷蔵庫に入れておいてくれたのね」
「ああ、あのケーキ。やっぱりKちゃんのだったのか」
その夜。
部屋で私は、恋人とそんな言葉を交わしていた。
当時付き合っていたKちゃんは、ほとんど毎晩、私の部屋で寝泊まりする状態。いわゆる半同棲というやつだろうか。もう着替えも勉強道具も私の部屋に置きっぱなしで、洗濯も二人分まとめて行うくらいだった。
問題のケーキは、彼女がバイト先でいただいた物だったらしい。でもバイトの後に大学へ戻る用事――夕方のコマの授業かあるいはサークルの練習か――があり、そのままケーキを持って行くことには抵抗があった。
そこで私のアパートに立ち寄って、ケーキを置いていったのだという。急いでいたから――あるいは面倒だったからかもしれないが――、三階の部屋まで上がらず郵便受けに入れておく、という形で。
「Kちゃんのおかげで、美味しいケーキが食べられるよ。ありがとう」
と、私は礼を述べたような気がする。
少なくとも。
捨ててしまおうとか、他の郵便受けに移してしまおうとか。そんなことを考えたなんて、一切彼女には告げなかった。
(「郵便受けの白い箱」完)