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「エイダ、すまない。君とは結婚できない」

私の目の前で婚約者のアンドリュー・コーマンが頭を下げた。

二人でやって来たグリール公爵家の夜会。

話があると庭に連れ出され、結婚のためのプロポーズかと期待すれば、まさかの結婚のお断りであった。

「何故、とお伺いしても?」

恋愛感情なんて持ち合わせていなくても、共に歩む人間同士として今まで愛情を育んできたはずだ。

「結婚したい人がいるのだ」

「は!?」

思ってもみない理由に、淑女らしからぬ声が出た。

私達の婚約は王命だ。

婚約破棄は政治的な理由しかあり得ない。

「申し訳ない」

再度、アンドリューは頭を下げた。

「お相手はどこの方なのです?」

私は声が震えないように必死に平静を装う。

「ララミー・テーラだ」

その名前を聞き、私は最近聞こえてきた噂が本当であったと知る。

王宮でアンドリューと侍女が二人でよく歩いている姿を見る、というものだ。

アンドリューは王太子付の近衛だ。

そして、ララミー・テーラは男爵令嬢として、侍女として王宮に上がっている。

私も14、5の頃は王宮に侍女見習いとして上がっていたが、王立学院を卒業した今は、外務官をしている父の秘書役として働いている。

私ともきちんと会食など婚約者として最低限の振る舞いをしながら、同時にララミーと愛を育んでいたのだろう。


「この事は侯爵には?」

婚約は家同士の約束であるから、婚約破棄をするならアンドリューの父親であるコーマン侯爵を通してもらわなければならない。

しかし、アンドリューは首を横に振るだけだ。

「でしたら、殿下には?」

そもそもこの婚約は王太子とその妃のための婚約だ。

王太子マクシミリアンはアンドリューと、王太子妃ジャクリーンは私と友人だ。

彼らが王と王妃に即位した時に支えるために私達の婚約は王命でなされた。

「殿下には、君が了承してから…と」

私は頭が痛くなってきて、手で額を押さえた。

押さえきれなかったため息が漏れる。

「婚約破棄されたいのでしたら、コーマン侯爵と殿下の許可を得て下さいまし」

私がここで婚約破棄を了承する勝手はできない。

それだけのことなのだが、アンドリューは私が了承したと勘違いしたのだろう。

嬉しそうに頷いている。

そんなアンドリューを見て、私の感情が急激に冷めていくのがわかった。

12歳で婚約が決まり、7年もの歳月を共にした男性。

異性として少なからず意識していた自分が馬鹿みたいに思える。

アンドリューにとって私との婚約はただの義務でしかなく、そこに恋愛が絡めば簡単に捨てれるものだったのだ。

「今宵は失礼しますわ」

私はそれだけ言って、賑わう夜会の会場へと引き返した。


私は夜会の会場では何事もなかったように振る舞い、待機していた馬車に飛び乗った。

いつもより早く帰宅した私を、家人は驚いて迎える。

「お父様はお帰りに?」

とにかくことの次第を父に報告しなければならない。

「どうしたんだ?随分と早い帰りだな」

まだ宵の口。

仕事が忙しい父は今帰ってきたところなのだろう。

家令を伴って玄関ホールまでやってきた。

「ただいま戻りました」

礼儀として挨拶をする。

そんな私を見て、父は眉をひそめた。

「何かあったのか?」

「お父様……」

唇が震える。

父の顔を見て、張り詰めていた緊張の糸が切れてしまったようだった。

「サロンでゆっくり話そう」

暖かい父の手が背中にそっと回り、私をサロンへと促してくれた。

温かいお茶を飲みながら、私は父にアンドリューから婚約破棄をしたいと告げられたことを伝えた。

「お前に何か瑕疵があったとは私は思えない。もし、二人の関係がうまくいかなかったのなら、私の責任だろう」

「そんな、お父様…」

王太子妃と同学年の私が学院卒業するとすぐに始まった王太子の婚礼の準備。

私は婚礼の招待状を携えた父が諸国に赴くのに付いていった。

本来なら母が同伴するのだが、母はそんなに体が強くなく、語学堪能な私が父のパートナーとして外交の場にいることもしばしばあった。

王太子の婚礼と外国からの賓客への対応で、私はこの一年多忙を極めていた。

だからといって、婚約者としての義務の会食や夜会への出席、婚約者への配慮などは怠っていない。

王太子付の近衛のアンドリューだって忙しかったのだから、ここら辺はお互い様だと思っていた。

違っていたのは、私が不在がちにしている間に王宮でアンドリューが脇目していたこと。

王命での結婚の前の遊びだと放置していたのが悪かったらしい。

まさか、アンドリューが婚約破棄を考えるほどに相手に本気になっていたとは。


「明日、王太子妃殿下に相談して参りますわ」

「その方がいいだろう。私もコーマン侯爵殿に事情を聞きに行ってくる」

「お願いいたします」

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