第五話 メロン
翌日
チロルは王都行きの乗り合い馬車に乗っていた
チロルを含め乗客は子供を入れて4人
小さな子供を膝の上に乗せている女性ともうひとり弓を持った若い女性だ
4人は軽く挨拶をしてからしばらく雑談していたが子供が寝たので気を使ってか誰もしゃべらなくなった
チロルはウトウトしている
若い女性はする事がなくぼんやりと馬車後部の幌の隙間から外を眺めてた
しばらく外を見ていると何かが馬車を追いかけるように近づいてくるのが見え、大声で叫んだ!
「魔物が後方から追いかけてきています!注意して下さい!」
若い女性はそう叫ぶと弓を構え、じっくり狙いつつ矢を射っていく
が、すばやい身のこなしで矢を避けつつも距離を詰める
チロルは女性の大声にビクッと起きた
御者もその声を聞き馬車のスピードを上げる
チロルは外を見るとネコ型タイプの魔物が見え、それは馬車との間をどんどん詰めてきているのがわかった
「御者さん! もっとスピード出して下さい!」
「兄ちゃんこれが目一杯だ!!!」
猛スピードで走るので御者も細かい操作ができず大きな石に車輪を乗り上げてしまい横転しそうになった!
大きくバランスを崩した馬車はその場で停車する…
チロルは短剣を手に馬車から飛び出した!
そして素早く鑑定する!
キラーキャット
種族スキル 咆哮
スキル 俊敏3
体長は4メートル
近くで見るととてつもなくでかい
名前はキャットだが、獰猛なトラにしか見えない
目は魔物特有の真っ赤な瞳をしている
「で、でけぇ…」
チロルは初めて対峙する魔物に足が震える
しかしやるしかないのだ!
若い女性も馬車から降り御者に告げる
「王都までもう少しの距離です。敵を刺激しないようゆっくり馬車を走らせ王都に向かい、門兵にこの状況を伝えて下さい!」
ゆっくり動き出した馬車にキラーキャットは一瞬視線を向けるも、すぐにチロルに視線を戻した
「さぁこいよ! 小猫ちゃん!!!」
直前で避け方向転換する隙に短剣で斬りつけ…
ボアを狩る方法しかしらないチロル
キラーキャットがチロルに突進する!
(きた!)
直前で横に素早く避け…
ザシュ!!!
え…!?
すれ違い様にキラーキャットの前腕から繰り出された鋭い爪がチロルを襲う!
とっさに身を引き短剣で防いだが右肩を切り裂かれた!
浅かったとはいえ激痛で片膝をつき短剣を落とすチロル
「うがああ…」
しかしキラーキャットは追撃をしない
明らかに格下と判断し、じっくり痛めつけるつもりだろう…
爪から滴る血を味わうようにひと舐めした
ビュン!
油断しているキラーキャットの臀部に矢が突き刺さる!
若い女性…メロンは大きな木の上に陣取り、間をあけず連射するもキラーキャットは軽い身のこなしでかわす
臀部の矢は浅くしか刺さってないのですぐ抜け落ちた
「しっかりして! そこの君!」
メロンの叫びに激痛に少し慣れてきたチロルは左手に短剣を持ち立ち上がった
直立したキラーキャットは覆い被さるようにチロルに襲い掛かろうとするもメロンの矢が再び臀部に刺さる
今度は角度がよかったのか深く刺さっている
それに気を取られたキラーキャットの隙をつきチロルが背中を斬りつけた!
フー!っと威嚇しながら背後のメロンと、前にいるチロルを交互に睨む
キラーキャットは矢の的にならぬよう前後左右に俊敏に跳ねながらチロルの胸を切り裂いた
皮の胸当てがベロンと2つに分かれる!
「あぶねぇ…」
チロルの額に大粒の冷や汗が流れる
一瞬動きが止まったキラーキャットにメロンの矢が襲いかかった!
ビュン!
臀部に2本目の矢が深々と刺さっている
ガアアア!と叫び声を上げるキラーキャットは木の上のメロンを睨みつけた
(なぜお尻ばかり狙うんだあの子?)
瞬時にメロンを鑑定したチロル
メロン レベル18
職業 村娘
スキル
急所看破
(村娘って職業か…っていうか急所看破!?)
この世界のほとんどの魔物には魔石が体内にある
体内の魔石を砕かれた魔物はほぼ即死するぐらいのダメージを受ける
ではその魔石を狙って攻撃すればいいと思うが、たとえ同じ種族でも個体によって魔石がある場所が違うのだ
どこに魔石が埋まっているかわからない
それについてはチロルも知っている世界の常識だ
(このキラーキャットはお尻に魔石があるって事か)
このスキルがあれば…正確な魔石の場所が分かる!
そう確信したチロルはメロンの急所看破をコピーしようと決断した
「届くか…あの子…メロンとかなり距離がある…」
念じるチロル…!
「よし! コピーできた!」
その瞬間ステータス画面が出て、剛腕と鑑定の2つのスキルが点滅しているのが見えた
「どっちを消すか決めろって事か!」
鑑定を消す!
そう念じたチロルのステータス画面のスキル欄には剛腕と急所看破の2つが表示された
すかさずキラーキャットに急所看破のスキルを使った!
お尻の一部分が赤く光っている!
その近くには2本の矢が突き刺さっている
キラーキャットは木の上のメロンめがけて大きくジャンプした!
木の上、結構な高さに陣取っていたメロンだがジャンプしたキラーキャットの顔が目の前に現れる!
顔と顔、その距離1メートル!
直後鋭い爪がメロンの顔に襲い掛かる!
が、目の前に現れたキラーキャットの顔に驚いたメロンはバランスを崩し足を滑らせ木から落下していた
メロンの頭の上をスレスレで流れる鋭い爪!
木から落ちたメロンは土が柔らかかったおかげもあり、大怪我はないものの頭を打ち気を失っている
気を失ったメロンに覆い被さったキラーキャットは喉元を食いちぎろうと口を大きく開けた!
「うおおおおおおおお!!!」
叫び声と同時に短剣がキラーキャットの臀部、赤く光っている部位を貫いた!
ガキッっと何かが割れるような感触
直後キラーキャットは腕を振り回しながら崩れ落ちた