うっかり、5年分
第8章
マリカートは何日か養生して、元気になった。女性が加わって、一番嬉しかったのはマユだった。
ある日、ダンをお風呂に入れていると、マリカートがやって来て手伝ってくれた。
今まで膝に乗せたり、床に置いたり、最初の頃はお尻しか洗ってなかったりで散々だったが、
二人でお風呂は本当に楽だった。
「マユさんはお子さんを育てた経験はないのですね」
「ええ、心から欲しいと思っていましたが、できませんでした。その内、愛人には子供がいたことがわかって・・・バカですね」
「---でも、ダンちゃんは生まれたてで、丈夫に生きています。マユさんは素晴らしいお母さんです」
「それは、フガオルフが母乳をくれて、なんだか霧の中にいれば病気にならないとか言って、全部、フガオルフのお蔭です」
「坊ちゃんはこの世界に来て、本当に優しい坊ちゃんに戻られました。それは、お父様の結界が解けた事もありますが、マユさんとダンちゃんに触れたからでしょう」
「そうなの?わからないけど・・・わたしにはただの6歳の男の子なんだよね・・」
マリカートはフフフと笑い、
「ええ、きっとそうです。6歳の可愛い男の子でダンちゃんのお兄さんです」
「食事の準備をしましょうか?今日は、坊ちゃんとマックは、町に買い出しに行っていますから・・」
「ええ、でも、もしも台所をマリカートさんが得意分野であれば、私は畑やその他の仕事をしたいのですが・・・どうでしょうか?もちろん、ダンは私が連れて行きます」
「畑を作っているのですか?」
「ええ、ここも自給自足がモットーです。後は、鳥とか魚を捕まえて、お金に換えて日用品を町で購入しています。この前、ユーオー国で種とか肥料とかも調達して来たし、鶏が、もしかして卵を産んでいるかもとか思うと、なんだかお尻がムズムズして、外に出たいので・・・・」
「いいですよ。食事は得意分野です。ダンさんも置いて行かれたらいい、外の日差しは赤ちゃんには酷です。いつも抱き袋に入れているのですか?」
「そう、もう少し大きくなったらおんぶして、野良に出て行こうと思っています」
「ダンちゃんをカゴに入れて、日陰に寝かす所があれば、私も一緒に行ってもいいでしょうか?畑も見てみたいです。食事は簡単に作れますから・・」
「でも、まだ、体の方が・・心配です」
「マユさんは私の体を見たのですね。この傷はもう何年もたっています。大丈夫ですよ」
マユは思い出して、泣いていた。
「本当に大丈夫です。坊ちゃんを探しす魔食いの王は、自分の言いなりになる役人を使って、私に聞いたけど、坊ちゃんはユーオー国にはいらっしゃらなかった。私も答えられなかった。それだけです」
「しかし、ここの霧は本当に素晴らしい、傷が何だか薄くなって来たのよ。見る?」
それから、マリカートさんの体を点検してから、一緒に野良に出る許可をした。
結界の世界に来て、力仕事は苦にならなかった。
自由な発想と、前世の記憶で、自然が豊かな事が、貴重だともおもった。畑には一番最初にトマトを植えた。
トマトの苗とかホームセンターで買った事はあったが、とにかく、トマトを増やしたかったので、ユーオー国で仕入れた小さいトマトをそのまま植えてみた。ユーオー国の肥料は優秀だと、フガオルフの言葉を信じて、トマトの畑に直行した。
「ギャー!!スゴイ!!2週間で出来てる。出来てる。水を毎日欠かさずあげるだけで、実のなるトマト・・・最高だ。トマトだけあれば、もう何もいらない。大好きトマ~~ト~~」
ルンルンルンと我を忘れて踊っているマユに、マリカートは、
「ユーオー国の野菜は、本来、みんなこんな感じで成長します。それは国王の魔力のお蔭で、国は豊かではありませんでしたが、食料に困ることはありませんでした。だから、今、居るこの土地でも沢山の物ができますよ」
「本当?野菜がこれからも食べられるの?うううううう・・・嬉しい・・・」
「ええ、私も本当に嬉しいです。飢えとの闘いを知っていますから・・・」
「でも、そんなに直ぐに成長するとは思っていなくて、わたし・・ほとんどの物を植えてしまったの・・これからは食料過多になる可能性大だわ・・・どうしましょう??」
「今の季節は夏みたいですが、ずっと、このように暑い日が続く国ですか?」
「いいえ、急速に秋になって、結構、早く、冬がきます。冬は厳しくて、でも、短いです。一番、長いのは春かな?気候がいい春はいい感じです。この国の人たちは春をいつも待っている」
「そうですか、冬が駆け足でやって来るのであれば、今、沢山の食料を収穫しておいて、冬に備えておきましょう。町への買い物が、ずっと可能であればいいのですが、その保証も無いので・・」
「坊ちゃんに貯蔵庫を作って頂いて、この夏の間に収穫して、1、2年はその倉庫を使いましょう」
「そんな事できるの?本当?」
「ええ、多分、大丈夫です。帰って来たら聞いてみましょう。食料の苦労は本当に大変で、坊ちゃんも理解して下さると思います」
「ええ、良かった。私、本当にこんなに直ぐ出来ると思っていなくて、失敗したと思いました」
「でも、調理済みにしておいた方がいいような物は、これから二人で作って行きましょう。畑の手伝いは息子もできます。慣れていますから・・計画的に蓄えて行きましょう」
その後、町に行っていた二人が帰ってきた。
「どうだった?二人の服とか買えた?」
「ああ、店主が覚えていて・・鴨とか、もっと欲しいと言われた」
「へーーーー、まだ、2回しか町に行っていないのに、どうしてだろう??」
「肉屋によると、宮廷で使うらしく、この前の鴨がいい物で、あの肉屋、調子に乗って、また仕入れます。って、返事したらしい・・また、来ると思ってたよ! って、軽い感じで言われた」
「どうするの?明日も行くの?」
「いや、一応、断ったけど、宮廷で大きな動きがあるらしい・・町は、ざわざわしている印象だった」
「今のこの国の王は在位して長く、次の後継者は、すでに決まっていて、後継者争いがないとは聞いていたけど、その皇子が結婚でもするのかしら・・・?」
「そうなると、お祝いのお菓子とかもらえるのかな?」
「---その祝いのお菓子とか欲しいの?」
「うん、欲しい、その時、きっと町は色とりどりに飾られて、きっと、もっと、多くの出店とかでたりして、楽しいかもよ。そんな話を、年取った女中さんが、話していたのを聞いたことがある。そうなると、いいね。楽しいイベントとは無縁だったから・・・夢みたいだ」
その話を聞いて、フガオルフは、ぱっと、明るい幻想を作った。七色のプロジェクションマッピングの様で、驚いて言葉が出ない・・・・
「これ! これ!!スゴイ!! えーーーーー」と、両手で祈るように見ていると、
「こんなことか?」うん、うん、うん、と首をふると、消えた。
「キャー、消えた」
「面倒になった」
「えーーー、でも、ひとつお願いがあるの・・・ユーオー国で仕入れた種、全部、植えちゃったから、貯蔵庫を作ってほしいの・・・なんだか、すごく早く成長するらしくて・・」
「えええええ・・・・!!!! 」
マックのあまりにも大きな驚きに見て、フガオルフとマユは少しだけ悟った。
「----マリカートさんは1、2年は大丈夫って、言っていたけど・・・だから、なるべく大きなものをお願いします。冬が来る前に・・・保存しましょうって・・」
そこで、フガオルフはマックに聞いてみる。
「全部、撒いてどの位、5人でたべられる?」
「う~~ん、種はまた出来ますので、気にしなくてもいいのですが・・・今回の収穫で、5年は大丈夫です」
「収穫はもちろん私たち3人では無理になります。皇子・・・お願いできますか?」
「仕方がない。明日から収穫と貯蔵を行って、5年分の食料を保存しよう」
「---もう、町には行く用事がなくなるね・・・・テヘへへへ・・」