こころから美味しい
第4章
「それは、元にいた世界と同じ橋?って、こと?」
「ええ、そうです。最後の一瞬、記憶に残ったあの橋です。あの橋は我が国でも長い橋で、何年も費やしやっと完成した橋です」
「ここに来た時から橋は変化している?」
「いいえ、気になって見に来たりしましたが、この気味悪い橋のままです。毎晩、訪れるのも面倒なので、屋敷をこの場所に移動しました」
「頭いいね」
「------」
「さてと、ありがとう。でも、最初は、お風呂にダンと一緒に入って来ます。それからの朝食で良いでしょうか?」
「ええ、大丈夫です。必ず、服は着て下さい。ダンもです」
昨日の残り物の朝食を取りながら、
「---ねぇ、元の世界の橋が現れて、その世界に帰れるとすると、帰っちゃうの?・・・イヤイヤ、私たちは、屋敷も整備してもらって、畑と肉と魚があれば、なんとか生きられるけど、一応、心の準備があるから・・・突然、いなくなる・・・それって、心を痛める行為なんだよね・・・。わかる?」
「わかりませんが、私が前の世界に戻っても、殺される可能性が高いです。私の魔法能力が高すぎるので、軍事的に利用される可能性があると、国に判断されました」
「そうなんだ・・・便利でいいと、思うけどね。でも、軍事的って?国を滅ぼすくらいなの?」
「はい、」
「---ええ・・・じゃあ、気をつけます。えええぇぇ・・・・」
「じゃ、当分はいるよね?国は滅ぼさないとしても、領地の整備はしてもらえると、嬉しいので、これからも、よろしくお願いします」とマユは深々と頭を下げた。
フフフ・・とフガオルフは笑っていた。
食事を済ませて、屋敷のあった場所に行ってみると、すでに畑仕様になっていた。とりあえず、昨日、購入した、芋を二つに切って植えていった。水は川を分水してもらって、畑に撒いた。
「ありがとうございます。芋は成長が早いけど、当分は自分たちが食べる野菜を、増やしていきたいね」
「お金はあるの?」
「---ない! 」
「・・・町に、何かを、売りに行かないと・・どんな肉が一番の高値かね?」
「イノシシじゃないかなぁ・・?肉まん屋が沢山あるから、宮廷での休みは、月に2日しかなくて、町に行けたのは、数えると何日もないから、よくわからない・・その時は、食べ物を探して、お金と相談して、腹いっぱいになるのが、一番の目的で、お店も、どこに何があるとか知らない・・・この世界で生きるのは、飢えとの闘いだよ」
「初めての売り込みは、定番の鳥がいいのでは?鳥は、いっぱい飛んでいるから疑われないよ。きっと・・・取れるかは別だけど・・・」
そこで、フガオルフは飛んでいる鳥を一匹、また、一匹と捕まえた。
それを見て、マユはゴクリと唾をのんだ。心の中で、昔は、鳥にも生きる権利があるとか、思っていたけど、今では、美味しそうだと思ってしまって、自分でも、この地に生きついたと実感している。
「これ、1匹、もらってもいい?---食べたい! 」
「いいですよ」
「ありがとう。鶏が、本当は欲しいよね。ハトと鴨とかでも、いいですが・・・」
「どうして?急に敬語?」
「いや、食料をくれる人と、もらう人の上下関係かなと、思いまして・・」
「僕は狩りをして、あなたは料理をする関係でいいのでは?」
「そうだね。それで行きましょう」
未知の売り込みの為、適当に鳥を捕まえて、カゴに、生きたまま入れて、町に売りに行ってみた。
みすぼらしい、乳飲み子を抱えた親子が、台車みたいなもので、ゴロゴロとカゴに鳥を入れて、肉屋に到着した。
「すいません。鳥を売りに来ました」と声を掛ける。店主はジロジロみて、髭に手をあてて、
「これ、あんたが捕ったの?」
「ええ・・子供とふたりでなんとか捕まえました」
店主は不思議な顔をしていたが、丁度、その日は大口の注文があったらしく、買い取ってくれた。
金額は肉まん100分だった。
ここで説明しよう。肉まんは大体20円、鳥を売って、2000円となる。それはマユにとっては大金だっで、宮廷の掃除バイトでもらえる小遣いは月500円くらいだった。
そこで、店主に聞いてみた。
「どの鳥が高額買取ですか?」
「この鳥だね」
その鳥をみると鴨だった。やはり、鴨は高額買取なんだ・・・わかった。
「ありがとうございます」
「ああ、また、捕れたら頼むよ」と言ってもらえた。顔が歪んでしょうがない。(ふふふふ・・)
「その顔していると、また、ゴロツキがついてくるよ」
「そうだね。何か、お菓子でも買っていく?欲しい物はある?」
「パン」
「パンか・・・食べたいね。この世界では見た事ないけど、小麦粉さえあれば・・卵とバターも必要だよね。ヤギと鶏をカゴに押し込み、小麦粉と麹を買って帰ろう」
「明日は雨だよ」
「そうなの?町には、当分来ないつもりで、今日のうちに買い物をして帰る?」
「それでいいと思う」
鳥を売ったお金を全部、色々な品物に変えて、町を出た。当然のことながら、また、人相の悪い連中が後ろにいるが、一瞬の隙で、3人は結界の中に入った。
「あ~~~ドキドキが止まらない。怖かった。怖いよ・・・」
「全部、商品に換えたら、それはついてきますよ。行き交う人達も、皆、振り返って見ていた」
「だって、家に帰ってお金があってもなんにもならないよ。物があった方が便利でしょ」
「---あなた、お金が沢山あった方がいいと思わないのですか?」
「お金でお腹いっぱいになるのは、ある程度の生活を維持できる社会、ここにはない。お金があっても幸せは、買えないって、前世で習った、必要最低限のお金で十分、死んだらお金は持って行けない。それを人類は知るべきだ」
「それは僕も同感です。欲まみれの人も、死は免れない、死は、平等におとずれる」
「あーー怖かった。さぁ、家に帰りましょう」
フガオルフは、マユが家に帰ろうと言うことが、何だか心地よいと思うようになった。
町で手に入れた調味料に感謝して、ヤギと鶏をその辺に放した。
屋敷の周りには二重に結界が張ってあると聞いたので、野放しても大丈夫と判断した。
ヤギも鶏も自分で餌を取って下さい。
ヤギはお乳が張っているメスを購入して、さっそく、お乳をもらった。ふりふりでバターを作り、小麦粉をこねてパンに取り掛かる。
「発酵に時間がかかるので、今は雑炊でいい?鴨の肉を少し入れて、野菜と調味料もある。きっと美味しいと思うよ」
「はい、お願いします」
この日も、生きていてよかったと心から思える。食事が美味しいと、マユは思っていた。
それから、荷物を整理して、ダンをあやして昼寝をして、パンの発酵を待った。
発酵が終わる前にフガオルフにオーブンを作ってもらい、薪を集め、火を起こし、準備万端です。
パンが焼けるとバターを乗せ、町で清水の舞台から、飛び降りる程の勇気を出して購入した、砂糖も乗せた。
飛び上がる位に美味しかった。(少し踊った。)
二人で美味しいねって、話して、マユは、美味しいねって話せることが、こんなに幸せたと久しぶりに感じていた。
その時、ダンは愚図り始めて、急いでお乳をあげて、それから、ちょっと、唇に砂糖をつけると、ペロリと舐めた。それを見て、二人はこころから笑った。
「チョコとかあったら最高だね」
「僕の世界にもチョコレートはあります。この世界ではどんなに頑張っても望めませんね」
「本当だね」
それから、互いの国にある美味しい物を言い合いして笑った。そして、予想通り雨が降り始めた。
マユとダンは布団に入り、ぐっすり眠り、夜、フガオルフは必ず、橋を見る。