屋敷をゲット
第3章
「所有権の発揮って、この辺に結界が張られてみないな感じなの?」
「ええ、そうですね。安全を守るのが土地の所有者の義務ですから、この橋を含めて、私がここを守るつもりです」
「それは、私と赤ちゃんも含まれている?」
「勿論です。私たちは家族と言う契約も結びました。架空の父親も含め、今は家族です。それから、赤ちゃんではなく、ダンと呼びましょう。名無しは不憫です。ーーー安全に過ごせるので、洞穴から少し外に出ませんか?」
「でも、屋根が無いと雨が降って来た時にダンが濡れてしまう」
「この橋から少し行った所に家がありました。そこは誰も住んでいません。そこに行きましょう」
「そんなところあった?スゴイ!いつ見つけたの?」
「私の手を握って下さい」
マユはフガオルフの手を握ると、空から結界を張った土地の全貌が、脳内に入ってきた。
「本当に近くに家がある」洞窟よりはきっといいはずだ。
それにしても・・・広い・・・勝手に書き換えた名前で、こんなに広い土地が手に入っていいのか???
「なんだか・・・広くない?」
「ええ、私も驚きました。役所の地図には、この奥の土地が記載されていませんでした・・・どういう事でしょう・・・?」
「この国の前国王の叔父と言う人の土地であったはずです。これから行く屋敷もきっと彼のでしょう。もしもこの叔父が、争いに負けて幽閉された土地だとしても広すぎます。まるで・・ひとつの領土くらいの土地です。しかし、私たち3人しかこの土地には存在しません」
「本当?うーーーーーん、悩む・・でも、いいや、3人の方が気楽だから、では、引っ越しますか?」
「---あなたは本当に楽天家ですね」
「この世界で確かな事はお腹が空く事だけだから・・後は、フガオルフの魔法でなんだか行けそうな気がしている。とにかく、ダンにお乳をあげられればいいの・・リンから預かった大切な命だから・・・」
フガオルフは、ダンにキスをするマユを見て、嬉しそうに微笑んだ。
荷物は馬車に乗せて、二人で運んだ。
「魔法で運べないの?」
「今日はもう、力を使い果たしました。子供なので仕方ありません。それよりも、もうすぐ雨が降ります。急ぎましょう」
「え!! それは大変、ダンが、病気になったら一番厄介だから・・急ごう!! 」
「私たちは病気になりません。霧が守ってくれます」
「そうなの?なんでもいいけど、雨はいや!! 雨が降っている時に、目を閉じ、死んだのを覚えているから・・」
屋敷に着いて、ほっとする。大切にダンを布団に寝かせて、周りを見渡す。
「これ?これって・・・今の時代とは少しかけ離れている。なんと言うか洋風だよね?だって、ソファとかあるし、棚や机が西洋風だね」
「あなたのいた時代はそう言うのですか?私が存在していた世界とは親近感があります」
少し、落ち着いたら、やはり雨が降って来た。逃げ出してからの、初めての雨の夜。
フガオルフは自分の力(魔法)について話はじめた。
「私の力を見て、驚かない人を見たのは初めてです。それに、私利私欲を要求しない人も、そして、自分の子供でもないのに宝物のようにしている人もです」
「そう?普通でしょ。生まれたての赤ちゃんだよ。リンが決死の覚悟で産んで私に託した」
「そうですね」
「私の魔法は命は与えられません」
「うん、神様ではないんだね」
「だから、食べ物は、これからも自力で、どうにかするしかありません」
「うん、わかった。肉まんをとりあえず食べよう」と渡した。
「でも、大規模でなければ、土地を開拓できます。畑を作るとか。井戸を掘るとか、屋敷の修繕とかは可能です」
「本当?じゃ、町で買った芋を植えたら増えるよね」
「そうです。ここの屋敷には二重に結界を張りましたが、この領土の中には動物がたくさん生息しています。町では肉は高く売られていました。それをお金に換えて行きましょう」
「はい、わかりました。今日は町に出て、引っ越しもして、少し疲れました。もう、眠ってもいい?」
「はい、ここで、寝るのですか?玄関ホールのようですが・・・」
「だって、ダンを、また動かしたら泣くかも知れないよ。ダンが眠っている時は眠りたい・・お休み」
「それから、」
「ん?」
「一緒に生活するにあたって、これだけは守って下さい」
「何?」
「必ず、洋服を着て下さい。特にスカートを穿くとかして下さい。上はダンの為に目を瞑りますが、なるべく隠して下さい。全裸は禁止です」
「OKです。パンツを作るよ。女官さんの荷物の中に裁縫道具があったから・・・パンツは無かったけど、ノーパンの時代だったのかしら?モモヒキみたいので代用していたの?」
「申し訳ない・・・子供でその点は疎いです」
「そうだね。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
次の朝、目が覚めると、その屋敷は様子は一変していた。まるで、貴族の屋敷のようで、言葉を失った。
「どうしたの?これ?魔法?」
「ええ、朝から力を使いました。今日は、獲物を捕獲できる力がありません。何を食べますか?」
「ええ、昨日、買った卵とかお米とかありますから、普通に食事が出来ます。この世界に来て、初めて卵を食べるかも・・・町では見かけていたけど、買っても料理できないと思っていたから、とにかく昨日、購入したもので何か作ります」
「私は2階のスペースを使いますので、マユさんは1階でいいですか?」
「はい、玄関ホールでも有難いです。ありがとうございます」
1階は大きな食堂とキッチン、洗面所とお風呂があった。
そして、トイレも・・・もちろん水洗ではないが、そんなに臭くない・・・
「スゴイ、お風呂がある・・・お湯はどうするの?薪で沸かすの?」
「一応、そんな感じにしてありますが、入る時は、魔法でお湯を張ります。言って下さい」
「水もカメに溜めておきましたが、マユさんが使っていた竹の浄水も設置しておきました」
「火を使う時も出せます。一応、僕がいなくても、薪でコンロが使えるようにはしておきました」
「いやいや、本当に凄い。ありがとうございます。ここが本当の天国です」
それから、卵の料理をして、ご飯を炊いて、魚を焼いて、日本のありきたりな朝食を作った。
町には味噌が売っていたが、日本の味噌とは違っていて、それでも魚でだしを取って卵と青菜を入れてスープも作った。
「味がするご飯って、美味しい・・・初めて食べた。死んでもいい・・・美味しい・・」
久しぶりのご飯と言う物を食べると、涙が頬を伝わった。自分でも泣いている・・と思った。
「お口に合うかわからないけど・・・食べようね」
フガオルフと食べると本当に美味しいと思った。それからまた片づけをして、お乳をあげて昼寝をして、午後からは外に出ることにした。
貴族風の屋敷の庭はどんなのだろうと・・・思って、外に出で、びっくりした。
「これ、これって、もとの橋の洞窟の所にある。なんで・・・・?」
「屋敷を移動しました。この橋はきっと特別な橋だと思います。この橋の近くが一番安全だと考えてました。畑を作るのはこの屋敷があった場所が一番整地されていますよ」
「この橋は、変化する橋って言われていて、色んな橋に姿を変えるって、噂だけど、私が、この場所に来てからはずっと同じなんだよね・・・」
「それは・・夜、寝ているからではないでしょうか?」
「??????」
「僕が、この世界に来た時は、石の橋でしたよ」