所有権の発揮
第2章
洞窟の入り口でゴソゴソと音がする。
赤ちゃんを、静かに布団に置いて、オムツを腰と胸に巻き、様子を見てみる。
昨晩、安全の為に、ドア風の木を立てかけて置いて正解だと心から思う。
そっと、外を見ると、なんと小ぎれいな5歳くらいの子供がいた。
「僕?どうしたの?迷子?」
その子は首を振り、洞窟の中を覗き込む・・・迷子なのか??昨日のご飯が残っていたので、
「お腹空いている?」と、聞いてみた。この世界は、誰もがお腹を空かしているのは、常識だったが、社交辞令のつもりで、質問すると、
「うん、」と、その子が答えたので、残り物のご飯を差し出した。
それを上品に食べて満足したのかそのままその場を立ち去っていった。
「??????」
「いなくなっちゃった・・・しかし、これ以上は扶養できないので、いいけど・・迷子ではないのかなぁ?」
赤ちゃんが、泣いたので重湯を作り、母乳の残りを混ぜてスプーンで上げてみたが、流石に新生児・・これで生き抜けたら、君は英雄だ。心配は尽きないが、今日も、またこの洞窟をもう少し住みやすくしたい。
洞窟の中に丁度、小川が流れる様に湧き水の道が出来ていて、上手い具合に川に続いていた。
そこの先頭をキッチンにして改造する。
小川の出口付近で水幅が狭くなっている所に、赤ちゃんのお尻を乗せて、彼専用のトイレにした。
(水洗トイレ・・・。)
とにかく、布団が湿って、寝心地が最高に悪かったので、布団を乗せる台を作ろうと思った。
昨日は余りの解放感で全裸だったが、今日はさっきの男の子のお蔭で裸ではない。
(胸と腰を隠している。)
川の周りは沢山の木があるが、のこぎりが無い、釘も・・・でも、流木を利用して組み立てて、安定を最大の目標にして、頑張る。
夢中になって作業していると、また、男の子がやって来て、手招きをしている。
もともと、地獄と思って暮らしていたので、怖いと言う感情が、この世界では少し減っていた。
(座敷童・・?)
トボトボと、その子の後をついて行くと、女の人が倒れていた。着ている洋服がこの世界の物とは異なっていて、メイド風なドレスを着ていた。
「お母さん?」と聞いてみたがその子は首を振って、
「違う・・・女官・・・馬車で橋を渡っていた時に、雷が鳴って、馬車が橋から落ちて、気が付いたら僕とこの女官だけがここに居た」
「馬と馬を走らせていた人は?」
「わからないけど、最後に見たのは従者が飛び降りて、わざと、川に馬と馬車ごと落とす瞬間だった」
「それは・・・・う~~~ん、難しいあんけんです。---お家はわかる?帰れそう?」
「ーーーお姉さん・・どうして裸なの?」
「---着る物がなくて・・・ちょっとね。貧困です。わかる?貧しい生活・・・」
「馬車に洋服があるから、とにかく着てください」
馬車は一部は壊れていたが、とってもいい感じの高級なつくりで、喉から手が出るほど欲しかった。
大きなトランクは2つ、子供用のものと、女官の物。
その子供が言うには。女官の埋葬を手伝ってくれたら、この女官のトランクをくれると言う。
「とにかく、服を着てください」
裸族も結構気に入っていたが、子供前ではやはり教育上、良くないと考えて従った。
それから、お墓になりそうは場所を探し、二人でなんとか穴を掘り、女官を埋葬した。
人が亡くなる事は、知らない人でも辛い気持ちになった。そんな事をしていると、赤ちゃんの事を、すっかり忘れていることに気づき、大急ぎで洞穴にもどった。
流石に大泣きだ。真っ赤な顔をして、手を思いっきり握り、声をからしている。
「ごめん。ごめんね。急いで重湯を用意するから・・ごめん・・・」
いつの間にかついてきた男の子が話す。
「この赤ちゃんはお腹がすいているの?どうして、お乳をあげないの?」
「私はこの子のお母さんではないの・・・だから、お乳がでないのよ。残酷だけど、この胸は役立たずなの・・」
そうすると、その男の子はマユの胸に手を当てて、光を放った。
「これが、僕が捨てられた理由」
「??????え、えええええ・・・胸が張る。え・・・・と、飲ませてみましょう」
おっぱいを出して、赤ちゃんに与えた。
そうすると、赤ちゃんがどんどん飲んでいく、すごい、赤ん坊ってこんな風に母乳を飲むんだ。知らなかった。
前世では欲しくてたまらなかった子供、今、他人の子供だけど、お乳をあげられるなんて・・・え~~~~感動する。そうだ、げっぷをさせよう!
「お姉さん、あまりびっくりしないね」
「うん、私もこの世界に来て、色んな経験を積んだから、余り驚かない。もしかして、私たちみんな、もう死んでいるかも知れないし、何があっても、お腹が空く事だけは正解って、思って来たから・・・驚かないよ。ここには幸い数日分の食料があるから一緒に食べる?」
「ありがとうございます」
そ
れから、二人で、せっせと馬車を運び、居住空間を広くして、ご飯を作り、毎回、これが最後の晩餐と思いながら食事をした。
夜には、二人で色んな話をした。
名前はフガオルフと言って、6歳だった。亡くなった女官は、その日初めてフガオルフに配属された女官で、世話役になる予定だったらしい。
自分の事も6歳の少年に話した。
自分は、前世ではただの主婦で、ご飯が食べられなり・・自宅でうっかり死んでこの世界に来ている。
そして、ここでこの赤ちゃんのお母さんを待っている。
「その子のお母さんは、もうこの世界にいないのでは?---それでも待っているの?」
「やっぱり・・・どうして、リンは自分で死をえらんだのか?私にはわからない。こんなに、沢山の品物を用意もして、赤ちゃんと二人で、生きようとしていたと思うけど・・・もう、来れないのかな?」
「きっと、来ない方がこの子の命を守れると判断したんだ」
「------」
その夜は、心が落ち込み、リンを思い月を見ながら、赤ちゃんと二人で泣いた。
なんだ、かんだと、10日以上、この場所でリンを待った。来ないとわかっていても待った。
しかし、すでに、お米は無くなり、豆も、後少し、自分の体内で赤ちゃんの食料を作っているので、思いっきりお腹が空いている。
「リンがお金を残してくれたから、町に食べ物を買いに行こうと思うの・・どうする?一緒に行く?」
「はい、お願いします」
それから、身支度をして、女官さんの服はリメイクして、この世界に違和感のないようにした。
靴は履いていた靴を、憎き靴と思い燃やしていたので、申し訳ないと思いつつ女官さんのを拝借した。
皇子様風のフガオルフの服も直し、赤ちゃんは現代風に抱っこの布に入れた。どっから見ても宮廷の掃除女中には見えない。
二人で町に出て、馴染みの肉まん屋に行って、飲み物を飲み、肉まんをたらふく食べた。
それから、フガオルフが、中央の役場に行きたいと言うので、納得できないが向かった。
そこは、現代の法務局のような所で、土地の所有者を閲覧出来た。
コンピューターが無い世界は、もちろん手書きで、肉まん50個分のお金を出して、閲覧させてもらった場所は、あの橋の土地所有者の所だった。
その所有者は、もちろん国王と思っていたが、国王が即位する前に相続争いとなり、前の宮廷のままの記載で、現在では亡き者となった国王の叔父の息子の名前になっていた。
その息子もすでに殺されていたので、フガオルフは勝手に魔法で自分の名前を記入した。
目の前で不正を見て、びっくりしたが、二人の中では何でも有りだった。
それから、戸籍を作りに戸籍の役所に行って、マユオルフと改名し、赤ちゃんにも戸籍を作り、名前も、ダンオルフにした。
15歳の若さだが、二人の子持ちのお母さんになった。
父親がいないのは大きくなってから不便だと、フガオルフに言い、ついでに、チチオルフも作ってもらった。
赤ん坊を抱き、持てるだけの食料を持ち、また、橋の方角に歩いて行くと、もちろん、女、子供だけで、派手にお金を使っていれば、後ろには、お決まりのゴロツキがついて来た。
内心・・・ここでお終りかと思った瞬間、フガオルフが、道を閉ざした。
「え?どうしたの?」後ろを振り返ると、すでにいつもの森になっていた。
「ええ、ここの所有権を発揮しました。僕の土地ですから・・・許可なく誰も入ってこれません」