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何処でも橋  作者: 夢小物
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温かい赤ちゃん

第1章

 ここは大陸にある国、その中枢にある宮廷の女中部屋で、一人の女中が子供を産もうとしている。


 幼い二人はガタガタ震えながら寄り添い、小声で話している。


 「誰か呼んで、助けてもらおうよ。二人では無理だよ。ね、ええええ・・・・」


 「駄目、そんなことしたら、私たちも、この子も殺される。お願い、私が、この子を産んだら、この子と逃げて、お願い! 今の私には、そんな体力がないから・・ここで回復したら合流する。幸い、明日から二日は休暇になっているから・・・」


 

 「たった二日で大丈夫なの?ーーー私はどこに行けばいいの?」


 「ここを出て、右にしばらく行って、森の中を通ってずっと行った所に、橋が架かっている」


 「その橋は、噂では、簡易な橋になったり、二本橋だったり、すごく立派な橋になったり、変化する橋のこと?」


 「うん、あそこは誰も怖がって近寄らないから、お願い、その橋の下に、子供に必要な物を、少し置いて来てある。だから、その場所でこの子と・・・痛い!! 痛い! 生まれそう・・・・・手を貸して、この子を守って・・・お願い」


 二人で立ったり、座ったり、摩ったり、呼吸法を試したりして、なんとか、リンは子供を産んだ。


 可愛い男の子で、貧しい食事しかとっていない割には、丸々とした赤ちゃんだった。


 お産は、前世で、テレビを見て得たすっごく浅い知識の中で、へその緒を結ぶ、そして産湯に入れて布に包んだ。


 「リン、何とか、生まれたての赤ちゃんみたいになったよ。可愛くって、丸々して、温かいよ」と言って、リンは初乳を飲ませて、眠った。


 すごく大人しい赤ちゃんで、小さい声でたまに泣いて、お乳を飲むとすぐに眠った。


 温かい赤ちゃんを抱いて、あまりにも幸福で手が離せなくなった。


 夜になると、リンが目覚めて、優しい顔で子供を見ている。


 「名前はどうするの?」


 「名前はまだ考えていないの・・・、もう、私は大丈夫、少し痛いけど、何とかなりそうだから、そろそろ行って・・、誰かに見つかると、大変だから・・お願い」


 「うん、本当に大丈夫?」


 「平気・・・、昔から、この部屋から抜ける道は、何度も練習したから、お互い大丈夫だよね?」


 「うん、多分、行けそう。赤ちゃんを抱いて少し狭い道もあるけど、きっと、辿り着ける。頑張るよ」


 「今度、お乳を飲んだら、行って! 」

 「うん・・・、リン・・・」


 しばらく、二人はそのまま泣いて、この不遇な環境を恨んだ。それにしても誰だ!! 父親!!


 「リン・・・・この子のお父さんは誰なの???誰があなたを・・・・」


 「------」


 「橋に無事に着いた時に話す。ごめんね、マユ、いつも仲良くしてくれてありがとう。今日も、私のわがままを聞いてくれて、ありがとう。私は、絶対にマユと赤ちゃんを守るから・・さあ、行って! 早く! あの橋のたもとに・・行って! 」


 「うん、待っているよ。赤ちゃんと二人で、だから、きっと、きっと、来てね。待ってる」


 何度も、何度も、泣いて、やっと、前を向いて、抜け道に進み、途中で止まって、赤ちゃんの様子を見て、リンを心配して、振り返る。


 その大きな宮殿を抜け出して、長くて暗い道を進み、森に入った時に、また振り返ると、宮廷の方角から火の手が上がっているのが見えた。


 茫然として、

 「バカヤロー!! 赤ちゃんに名前も付けないで・・・バカヤロー!! 」と闇夜に叫んだ!


 それでも、泣きながら、マユは足を止めないで、リンが用意してくれている橋のたもとに向かった。


 その橋は、何でこんな場所に必要だったのかと思う程に、誰も使わない橋だった。


 その橋の下には洞窟のような所があり、リンがこの子の為に、用意した品物が置いてあった。


 「リン!! バカヤロー!! 本当に赤ん坊の物しかない・・・私はどうやって生きて行けばいいの・・・えーーーん!! 」途方に暮れた。


 ずっと泣いて、落ち着いてきたら、いつの間にか眠っていた。


 胸の中には赤ちゃんが、抱かれたまま、腿のあたりは温かく、臭い・・・それから、また、泣いた。


 朝になり、少し外が温かくなってきたので、着ている物を全部脱いで川で洗った。


 赤子と15歳の少女が、裸で川で洗濯って、誰かが見たら、きっと卒倒するレベルだ。

 でも、マユは、ここ世界に来て一番気持ちが良かった。


 「アー、幸せだ。毎日、臭くて湿っている服を着て、宮殿の中を汚い雑巾で掃除して、こんな小さい靴とか、履いてられない。無理、無理、裸の方が気持ちいいし、体と髪を、洗えるだけでも涙がでる」


 しかし、川の水は、冷たくて赤ちゃんには向かない、


 そこで、陽が当たっている浅い場所に石で小さい湯舟を作って、お尻を洗った。漏らしたら洗おう。

 オムツはそんなに無い、垂れ流しだ。


 明るいうちに、生活できるようにしなくては、ここで暮らせる限りはリンを待とう。

 裸族のマユはそう思った。


 リンはお乳を搾れるだけ搾って、持たせてくれたが、一番の問題は赤ちゃんのミルクだった。


 お米があって、川には水があるが・・水質に問題があるとイヤだったので、竹に砂利を入れて、即席の浄水器を通してから水を使う事にした。


 火を起こすことは宮殿の炊事場で覚えた。だから、何とかなった。


 鍋は用意されていた。重湯で育てるしかない・・・リン、待ってるよ。本当に・・・待ってる。と何度も口にして、泣かないようにしていた。


 裸族のマユは何度も服を川で洗ったが、何年も着ていた服は、川の流れ位では、臭いは消えていない。


 「何度、嗅いでも、臭い・・・無限のループ・・」


 崖の上に花が咲いていた。ハイビスカスの様に赤い花・・・アレで、いいじゃん。と思い、崖に登り花と葉っぱを取る。


 頭と体も花と葉で洗って、服も洗う、臭みがなくなって、なんだかいい感じだ。気分が上がって来たところで、魚が足のそばを泳いでいる。踏む、また、踏む、何度も踏んで、2、3匹を仕留める。


 「ーーーリン、人間には塩分が必要だ」と嘆き、

 リンの残した荷物をガサガサ探して、塩分を探す。途方に暮れて…目に入ったこの洞穴の岩を舐める、少し塩からい・・?


 岩塩がとれるのかしら?と思いつつ、重湯を先に取り出し、その後、コメと魚と岩を一緒に炊いた。

 

 「ふう、ふう、して、美味しい。あ~~~美味しい。赤ちゃん、早く大きくなって、美味しい物をたくさん食べようね。材料があれば何でも作れる。任せて!! 材料があればね!ふ~~ぅ」


 それにしても・・・リンが残した物は、絶対に自分たちの給金では買えない。


 給金と言っても、貰える給金は、生活費を引かれた後の、お小遣い程度の金額で、ほとんどは町の肉まん屋で、消えてなくなる。


 だから、ここにある鍋や、赤ちゃんのオムツ、着替え、ましては米、芋、豆などは買えるわけがなかった。


 リンはどんな気持ちで、この場所を探して、品物を買い揃えて、運び、誰にも気づかれないように、働きながら、この子を産んだのだろうか?そして、この大金・・・父親はお金持ちだったのか?


 最初、死んで、なんで私が、地獄行になったのかと、毎日の様に思っていた。


 地獄行は、浮気をしたアホ亭主が行くべきで、私はストレスで拒食になって、迂闊にも死んでしまった。


 どうして、私が地獄に・・・と泣きながら臭い雑巾で掃除していた。

 しかし、ここは地獄ではなく、転生されたと気づいたのは、何年も過ぎてからだった。


 転生したとしても、もう少し、楽に生きられる場所が良かった。

 だから、今のこの場所が、極楽に思える。自由とは、本当に、愛すべきものだ。


 「裸族!!最高だ!!! 」

 「おぎゃー、おぎゃー!! 」


 「あら、あら、泣いている、行かなくては・・・・」


 前世で、キャンプの動画を、たくさん見ていたことが役立つ、服はインスタントのタープにして、日陰を作り、木や石で椅子とテーブル、グリル等を増設して、リンが、残したろうそくは大切に使った。


 リンは、赤ちゃんの分の布団しか用意していなかったので、お互い裸で、赤ちゃんを抱いてその布団を一緒に使わせてもらった。

 

 ーーー汚物は自分の体で受け止めて・・はぁ・・・、いつも思うのは温かい・・・。



 次の日の朝、洞穴の外でゴソゴソと音がする。


 「誰かいる?---誰?リン?」



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