9 戦乱の帝国 赤の皇女 下
ガタゴト、、
ガタゴト、、、、
薄暗い荷馬車、膝を抱える姿勢で座っているメッサリナ皇女は
荷馬車内部を見回してふと呟いた。
「悪臭なども無いし掃除と手入れも行き届いているようね。なるほど
商品たる奴隷の健康を保ち価値を落とさぬよう清潔にしてあるのか。」
荷馬車に乗ってどれだけ時間が経ったかも分らない。質素な食事なども
あったから意外に時間が過ぎているのかもしれない。
ずっと残してきたレクトール侯や騎士団が無事に撤退を乗り切ったか
とか帝都の被害の事などばかり考えていた。
そしてようやく自分の状況に意識を向け始めた所だ。
「奴隷姿で売られて行くなんて何とも斬新な経験ね。皇帝陛下と
皇太子に選出された兄殿下が同時に倒れる異常事態がなければ
こんな事には、いえ帝国の混乱そのものが無かったでしょうに、、」
メッサリナが帝国に異常事態が生じた時の事に思いを馳せていると
ガタンと馬車が歩みを止めた。
何度かあった小休止にしては妙に長く留まった。
何事かと鉄格子の嵌った小窓から外を覗う。
どうやらここは街道を行く者の為の休息所のようで牛馬の為の
大掛かりな水飲み場と馬車停留施設などがあった。
そして自分達の他にもう一台の馬車が留まっている。
同じような奴隷商の馬車らしいが鉄格子など至る所に
鋭い鋼のスパイクがトゲトゲと生えていて恐ろしげな印象
を受ける車両だった。
周囲の様子を覗っていると馬に水を飲ませていた奴隷商の
下働きが2人で何やら話しながら戻って来ていた。
普段ならこういう事は聞き流すのだが気になる言葉が
耳に入り思わず聞き入ってしまう。
「向こうの馬車、ありゃアクーニンの野郎だろ?何で旦那はあんな
胡散臭い奴に挨拶すんだ?」
「人の心を持たねえって噂の野郎だが情報は持ってるからな。あんなに
裏情報に通じてるなら奴隷商なんかじゃなく情報屋でもやりゃいいんだが。」
「そんな奴が今運んでる売約済みの赤毛にえらい興味もって見に来るんだろ?
何か儲け話の匂いでも嗅ぎ付けたかな?」
「しっ。旦那と野郎が来たぜ。俺達ぁ向こうで馬の干草を準備しに
行こう。奴の近くに居たくねえ。」
下働き達の声が途切れるのと入れ替わるように奴隷商のラハブと
何者かとの会話が聞こえてきた。
妙に低く湿度の高い声がラハブに告げる言葉にメッサリナは
冷や汗をがどっと出る。
「ですからこの数ヶ月のあいだレクトール領より女奴隷に執着する
ような好事家の貴人が帝都に来た記録は無いのです。」
「では売約済みの買い手というのは居ないのですかな?」
「いやいや、それは居るでしょう。おそらく貴人の召使いか何かが
主人の好みの奴隷を帝都で買い付けし、勃発した戦乱に困りレクトール候
の所に預けたのではないかと。」
「ふむ。」
「つまり買い手は女奴隷の事を絵姿とかでしか知らぬのです。ゆえに
先ほどの儲け話を進められる素地がある。もっともまずは件の女奴隷を
見せて頂かねばなりませんがね。」
「なるほど、なるほど。でしたらどうぞ。ただし見るだけですぞ。
大切な預かり物ですからな。」
カチリと鍵が開く音がして扉が開くとメッサリナは有無をいわさず
外に引き出されてしまう。奴隷でいる以上拒絶は出来なかった。
恰幅がよく笑顔を絶やさぬラハブの隣にトカゲのような顔立ちの
男が立っていた。深緑の髪をオールバックにした酷薄そうな印象
を受ける中年男だ。
(この者がアクーニンとやらか、、。)
奴隷商アクーニンは眼を細め小さく呟くように一言もらす。
「赤い。見事に赤いな。」
満足げにアクーニンは頷くとラハブに向かって
「予想以上だ。コレは欲しい。是非とも先ほどのお話を進めたい。」
「交換ですか?」
「ええ。おいスキッパー!!何をやっている!さっさと連れて来ないか!」
アクーニンが後ろを振り向いて怒鳴る。見れば顔色の悪い青年が
手鎖を引いて別の女奴隷を連れて来ていた。
その女は髪色がくすんだ薄い赤である以外はメッサリナに何処か似た
印象を受ける容貌であった。
しかしその女奴隷は胸も腰つきも豊かでグラマラス。観賞用の奴隷としては
メッサリナよりグレードが一段上であろうと思われる容姿をしている。
「コイツとその娘を交換しましょう。絵姿でしか知らぬ買い手も
同じタイプでより上玉の奴隷なら文句はありますまい。」
(えっ!?)
驚き絶句するメッサリナを尻目にどんどん交渉は進んで行ってしまう。
「コイツの他にもあと2人、上玉の女と剣闘奴隷として将来有望な少年奴隷も
付けて3人進呈します。3人と1人を交換だ。損は無いでしょう?」
「ふーむ、、。うん。いいでしょう商談成立です。」
「待っっつ!!!あがぁぁ!!」
あまりの展開に叫びながら交渉に割って入ろうとした瞬間、
メッサリナの首に高圧電流が走ったような激痛と衝撃が襲い
その場に倒れ込んでしまう。
隷属の首輪の懲罰は予想以上でショックを受けたメッサリナの身体は
痺れたように自由が利かなかった。
そんなメッサリナの様子をチラリと横目で見ただけで2人の奴隷商は
話を続ける。
「それにしても3対1の交換とは結構な算段を立てておられる様で。」
「売り先のアテがありましてな。これ以上は商売の秘密です。」
そのままメッサリナはアクーニンの配下のスキッパーなる若者の肩に
担がれトゲだらけの馬車に運び込まれてしまう。
まだ動けないメッサリナの眼に3人の奴隷を乗せそそくさと立ち去って行く
ラハブの馬車が見えた。
泣きそうになるのを堪えていると真正面のスキッパーという若者が
メッサリナを見つめている事に気が付く。
(それにしても顔色が悪いわ。まだ若いのに歯茎が痩せて歯と歯の間が
空いている。何かの病気かしら?)
「赤毛の姉ちゃん。アンタの事、どっかで見たような気がするなぁ。」
そこにアクーニンの低い声が後ろから掛かった。
「皇族のような鮮やかな赤髪に貴品ある顔立ち。まさに皇族の姫君の
肖像画で見たようだろう?」
(!!!!)
まさか見抜かれた?露見した?メッサリナは内心でパニックに陥っていた。
もし身体の自由が効けば暴れていたかも知れぬ。しかし、、
「これだけ似ていればかなりの高値が付く。いま戦乱にあって影武者用に
皇族に似た特徴を持った奴隷は天井知らずに価値が上がっている。」
アクーニンは立ち去っていくラハブの隊商に軽蔑するような目線を向け、
「好事家の買い手?馬鹿め。レクトール侯陣営そのものがメッサリナ皇女の
影武者としてこの奴隷を仕立てたに違いないわ。コイツをレクトール選帝侯
領に連れて行けばあの3人の奴隷の合計の5倍、いや10倍以上の金額で
売れるに違いない。」
それを聞いた瞬間、メッサリナは深く息を吐き安堵する。
(そういう事か。経路はともかく何とかレクトール領に行けそうね。
こうなるとラハブ氏が哀れに思われるわ。)
アクーニンに巨利のチャンスを巻き上げられただけでは済まない。
メッサリナではなく別の女奴隷が届いた時のレクトール選帝侯の激怒を
ラハブはまともに受ける事になるだろう。
(私がレクトール領に着いた時にまだ生きていたら恩赦を与えるよう
手配しないと。もともとラハブ氏は何も知らなかったんだし。)
安心したメッサリナに他者を気使う余裕が出来たがこの後に
全く別の深刻な不安に駆られる展開になる。
「アクーニン様、目的地が同じならさっきの隊商と一緒に行った
方が良かったんじゃないですかい?」
「アホか貴様は? 奴等から巻き上げた奴隷をその目前で高値で売れるか?
余計な騒動など避けねばならんわ。」
「はあ。」
「移送を手配した側は予定の影武者を転売された事に心象を悪くするだろう。
その意味でもラハブの馬鹿と一緒なのはいかにも不味い。」
「でも街道を行けば鉢合わせしてしまうかもしれませが?」
「別の道を行く。御者台に乗れスキッパー。」
「他に安全な道なんてありましたっけ?」
「おそらく安全といった所だ。このまま北に行き北部国境ををいったん抜ける。
そのままハヴァロン平原に出て東に進み国境を入り直せばレクトール領は
目と鼻の先だ。」
「死の大地ハヴァロン平原?!ゾンビ地帯を行くんですかい?!」
荷台の檻から御者台に移ったスキッパーが大声を上げる。
ようやく痺れが取れてきたメッサリナも驚き立ち上がりかけた。
だがアクーニンはバタンと檻の扉を閉め鍵を掛けながら
「俺様の得た情報によるとゾンビ共の数は激減しているらしい。
ラースランあたりの冒険者も進出しているようだ。ともかく
早朝に国境を出れば宵の口にはハヴァロン平原を抜けられる。」
アクーニンも御者台に乗り馬の尻に鞭を入れ馬車を動かした。
「行くぞ。左の間道からバクロンの宿場町に向かい北に行く。アンデッドさえ
消えていれば関所も無い快適な道行のはずだ。」
ガタガタと動き始めた馬車の荷台でメッサリナは不安な気持ちが
拭いがたく湧き上がってくる。
「忙しい日々の合間、確かに私もハヴァロン平原の異変の報告は聞いていた。
だがアンデッドが壊滅した訳じゃ無い、、。」
何とか状況を改善する手段はないかと深く思考するメッサリナ。
今の彼女には他に出来る事は何も無いのだから。
北の国境の手前、宿場町バクロンにて死の大地超えの準備のため
短期間の滞在を行っていたがアクーニン達はどうも上手く行かった
らしかった。
アクーニンの悪態を要約すると情報収集の結果、ハヴァロン平原では
激減したとはいえいまだに陽が落ちるとゾンビが出現するとの事。
そこで冒険者ギルドで護衛を雇おうとしたアクーニンだが金額交渉
で失敗し条件が合わず護衛を得られなかった。
「ええい忌々しい!こうなったら強行突破だ。予定通りならギリギリで
日没前にハヴァロンを抜けられる!!」
そう言うとスキッパーに短槍を持たせて簡易武装させ、魔術師ギルドの
出張所にて爆裂の呪文を封じた使い捨ての投擲石を一袋買い込んで
北に向け出発した。
町のはずれ貧民区を通る時、ひっそりと小さな教会が建っているのが
見える。
「アクーニン様、あそこでゾンビ避けに聖水を買っていきましょうぜ。
短時間でも効果がありゃ、、」
スキッパーの提案をアクーニンは即座に切って捨てた。
「こんな貧民区のオンボロ教会の聖水なぞタダの水と変わらんわ。
そんな物を買う無駄金などあるか。馬鹿馬鹿しい。」
孤児院を運営し貧しい人々に尽くしている徳の高い老シスターが
司っている知る人ぞ知る教会の前を素通りしていくアクーニンの馬車。
もう彼らの前にあるのは北の国境とその先のハヴァロン平原だけだった。
○ ○ ○ ○ ○
ドガガガガガガッ!!!
車体を大きく揺らし爆走するアクーニンの馬車の檻の中で
メッサリナ皇女は壁に背を預け座り込み達観していた。
「…。もはや運を天に任せるしかあるまいな。この地で
わが命が散った後には・・・ふふ、自分が消え去ったのち
の事を考えても無意味だわ。」
檻の中のメッサリナには詳細不明だがアクーニン達は小さなトラブルでも
あったのか出発と行程に遅れが生じていたようだ。
ずいぶん急いでいたようだが日が傾き夕闇が迫ったあたりで
馬車が猛烈に走り始めた。
揺れる車体、轟音を上げる車軸。アクーニンの怒号にスキッパーの
悲鳴。束の間とどろいていた爆裂の投擲石の爆発音で騒然となる。
騒音の最中、小窓から外を覗うメッサリナの視線に草むらや
丘の斜面の陰になったあたりから不気味な人影のようなモノが
次々と現れる様子が見て取れた。
自身の死への恐怖よりレクトール侯をはじめメッサリナを信じ奉じてくれた
味方の人々の期待を裏切る事を憂える。
夕闇はさらに濃くなり馬車の外側のあちらこちらで生者ならざるモノが
しがみ付いてる音がする。
メッサリナは運命に身を委ね達観する他はなかった。
だがは運命は過酷な現実を突きつける。
馬車が大きく揺れ激しい勢いで横倒しになった。
何かに衝突したか乗り上げたのだろう。
メッサリナは衝撃で意識が少し朦朧としたが怪我は無いようだった。
奴隷を逃がさぬよう頑丈に造られた檻の荷車も殆ど壊れておらず
多少の割れ目や板の破片が散ったもののゾンビが入れる穴は開いていない。
「ふうっ。」
とりあえずメッサリナは一息ついた。ともかく一晩をこの中で
過ごせばいい。朝日が昇ればゾンビは退散する。そのあと徒歩で
脱出すればまだ希望があるだろう。
そんな見通しは一瞬で砕け散る。
いきなり檻の扉が後部壁面ごと切り裂かれた。鉄枠で補強された
分厚い合板板と鋼鉄の扉がまるで紙を寸断するごとく縦、横、
斜めに切断されてしまったのだ。
「!!」
驚愕し絶句するメッサリナ。しかし驚きはそれで終わりではなかった。
外から姿を見せたのはゾンビなどではなかった。頭部など要所を
金属装甲で防備している黒い戦闘服に身を包んだ奇怪な兵士らしき者共。
そして戦闘員達より一回り大きく鳥と人間を混ぜ合わせたような姿の
怪人が進み出てきた。
(これは…魔王軍か。どうやら我が正体は露見してしまったようだ。
やはりこの平原は魔王の領域にあまりにも近いという事か。)
只の奴隷相手に大魔王が尖兵を派遣するとは思えない。
自分の正体を察知された結果だろうと結論付ける。
(私を生きて捕える為だな。大魔王に洗脳された私が帝位に就いたら
アルガン帝国は、いや人類社会は計り知れない害をこうむる事になろう。)
メッサリナは覚悟を決めた。
愛する祖国、そこに住まう大切な人々を護る為に。
「%&%*。$##$&*#*ッス!*&$$*&ッス!」
「○×○×、$%*○##××*$○$#&%○*#&%&#×**!」
怪人と戦闘員は聞いた事の無い言語で何かを言ってくる。
「大アルガン帝国の皇位継承者を甘く見るな!我が覚悟と誇りを見よ!」
「%○○#!%$#&%*%#&ッス!!」
「生きて虜囚の辱めは受けぬ!!」
意志の強さを瞳に宿し啖呵を切るように鋭い言葉を発すると
メッサリナは傍らの馬車の一部だった木片を拾い上げた。
「$%#×%%×$、、、」
怪人が動く気配を見せる。
メッサリナは覚悟を決め手に持った破片の鋭く尖った側を
自分の方に向け、自らの喉を一突きに貫こうとした!!
「%×######?!$%##×%ッスヨ!!」
鳥怪人の鉤爪の腕が動いた瞬間、喉に刺さる寸前の木片が
粉々になって消滅した。文字通り木っ端微塵である。
しかしメッサリナは同時に強い衝撃を受け気を失ってしまった。
鳥怪人ことモーキンは鉤爪の腕を伸ばして攻撃できる。
射程は10メートル弱に過ぎないが瞬間的な速度は時速2万4千Km以上。
マッハ19という電磁レール砲の初速を瞬間的には上回る鉤爪攻撃を
回避したり防ぐのは至難だ。常人では眼で捕捉する事さえできまい。
むろんモーキン自身の目と脳の一部の器官に照準を合わせ制御する
機能があり正確にコントロール可能だ。
だがモーキンは動転していた。メッサリナの自決を防いだは良いが
速度による衝撃波を発生させてしまいメッサリナを壁に衝突させてしまう。
「うわわっ。とにかく保護するッス!!」
戦闘員たちから非難を轟々に受けながらモーキンはメッサリナの
救護を開始するのだった。
ドウゥゥゥン、、 ドウゥゥゥン、、、
無機質な重低音が一定のリズムで刻まれている。
あまりにも聞きなれない音に柔らかいベッドに寝かされていた
メッサリナは意識を取り戻す。
(私は…どうしたのか、、)
だが朦朧としていたのは数瞬だけで即座に自分の状況を思い出し
はっきりと覚醒する。
細く開いた眼だけを動かし自分や周囲の確認を行う。
メッサリナは自分が粗末な奴隷服から前合わせの清潔感あふれる無地の
衣服に着替えさせられている事に気が付いた。ゆったりとしたガウンの
ような服は心地よく、全身どこにも痛みは無い。
(治療を施されたのか。しかし妙だな。)
慎重に思いを声に出さぬよう気を付けながら考える。
(何故、気を失っている間に洗脳されなかったのだ?魔王軍らしくない。)
大魔王への敵意は普通にあるし、それを思っても苦痛を感じる事も
無い。
洗脳や魔繰虫を寄生させられていたらいずれも不可能であるはずだ。
(それでも捕われの身には違いないわ。奴等に目が覚めた事を
気が付かれてはいけない、、。)
メッサリナのベッドは透明で大きな筒の中。継ぎ目も見えず
出る方法すら分らぬ。
息を殺し観察を続行する。
ベッドの外は大きな部屋だった。壁は無機質な光沢を放つ金属で
先ほどから響く重低音に合わせ要所や継ぎ目がら弱い光が
点滅している。
室内にはあの鳥怪人や仲間と思われる魚の怪人、黒服の戦闘員達。
そして彼らの上に立つと思わしき者共。
黒い衣服を身に付けた初老の男。黒衣は錬金術師の研究服に似ている。
そして顔の右半分が不気味な仮面で覆われていた。
(いかにも人体実験を繰り返す狂気の錬金術師といった感じね。)
次に機能的な軍用服を着用している黒髪の美女。
(とてつもない美女だな。しかしあれは染めているのか?
漆黒の髪など初めて見る…。)
そして彼らと会話しているモノ。水槽の中で上半身だけの姿で浮いている。
4本の角と一つ目の凶暴無比の形相をした人外。
(何なのだアレは?!最上位のアークデーモンか何かとしか思えん。)
メッサリナの演技は大したものだった。傍目には未だに意識を失っているように
見えたろう。
だが、彼女が寝かされている治療寝台は脳波や体温、脈拍などを正確に
計測しておりメッサリナの意識が戻った事を示す青ランプを点灯させる。
メッサリナからは側面の青ランプは見えなかったが三幹部の様子の変化から
自分の芝居がばれた事を悟った。
黒衣の錬金術師風の男と軍服の女が近寄ってくる。
男が手に持った小さな器具を操作するやメッサリナのベッドを覆っていた
透明な筒が一瞬で収納された。
メッサリナは仰向けで姿勢を変えず眼を閉じたまま口を開いた。
「もはや私に抵抗する術は無い。好きにするがよい。だがな、
私を利用しようとしても無駄だぞ?私に異変あらば他の後継候補が
帝位に就くだろう。貴様らの謀略は決して実らぬ。残念だったな。」
「%$&##×○。」
(ん??)
違和感を抱いたメッサリナは眼を開いて傍らの二人に向けて、
「貴様ら本当に魔王軍か?」
ポンポコポォォォォォン
メッサリナが疑問を口にしたとたん、黒衣の男が持つ
器具がマヌケな音を立てた。
すると男と軍服の女は小さなボタンのような物を2つ、耳の辺りと
胸元に取り付けた。そして初老の男が話し出す。
「今の言葉とモーキンめとの会話の録音で量子コンピュータの言語解析が
完了した。どうじゃ?自動翻訳できとるかの?」
「りょうしこんぴゅーた??それに口が動いているのに声が胸元からして…」
「亜空間制御で音声の指向性と消音発音をコントロールしておる。アンタの
方には翻訳した声、我ら同士は今までの言葉で会話可能というわけじゃ。」
「あくうかんせいぎょ??えっ?」
言葉が通じたが聞いた事の無い単語のオンパレードで混乱しつつあった
メッサリナに漆黒の髪の軍服女がまだ分りやすい話を始める。
「いろいろと驚かせて申し訳ない。我々は貴方を保護しただけで虜囚とする
つもりはない。希望するタイミングでの解放も約束するし安全な帰還も
無条件で支援するつもりだ。」
ここで女は言葉を区切り、
「その代わりと言う訳ではないが貴方に幾つか質問をさせてほしい。
むろん拒絶されても無条件の解放は守るつもりだ。」
(何を聞き出そうというのかしら?)
内心で警戒し身構えていると、
「まず最初に。この世界は何と言う名前で呼ばれているのか教えて欲しい。」
「はあぁぁぁ?!」
完全に虚を突かれたメッサリナは相手を誰何する事さえ忘れ絶句してしまった。




