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64 誤算の聖戦と勇者の戸惑い

遅れてしまい申し訳ありません。どうにも調子が戻らない上に

プライベートで躓きがあると更に遅れる体たらく。無理に進めても

力量不足でクオリティが更に落ちかねず…。なので1週間以内に

閑話を投稿した後は書き上がったら投稿するという不定期投稿を

しばらく続ける事に致しました。最終回までのプロットは出来ていますので

エタる事は無いですが調子が戻るまで不定期掲載になります。すみませんが

よろしくお願いします。




轟音が途切れし決戦場。殺戮の響きから勇者を称える叫びに置き換わった

ガープ侵略基地攻防戦は最終局面を迎えていた。



刀身が見えぬほどの輝きを放つ聖光剣を正面に構えた勇者ゼファー。


彼の傍らに聖戦連合軍を保護する巨大障壁を維持しつつ炎髪姫の異名

を持つ魔術師ラニアが瞬間転移で現れ、勇者ゼファーをサポートする

態勢を取り大敵ガープへ備えていた。


対するは黒衣の戦闘員の軍団を率いた大悪魔のような姿の闇大将軍。

ガープの首魁と思しき巨悪は更なる攻撃を加えようとしているように

右手を突き出したまま底知れぬ迫力を放っている。



圧倒的な力を示した新勢力ガープに対し勇者ゼファー出現は恐怖に染まり

つつあった人々に希望を与える福音となる。




聖戦連合軍にとって生存と勝利の可能性であり勇者を称える声が途切れる

事は無かったが是を好機として退避する軍もある。聖戦連合の行動が留ま

る者や後退する者とで混沌とし始めた状況において果敢に行動を開始した

者達がいた。



真っ先に動いたのはタンバート王国軍だ。



「新勢力ガープを勇者ゼファー殿が抑える間に我等は傷付き倒れた友軍の

将兵を救出するのだ!!決して1人たりとも見捨てるな!決してだ!」


色々と欠点のあるタンバート王国のパーデス王だが義に厚い人情家であり

ロガー獣人族連合から治療士の派遣要請を受けた際には手持ちの治療士

全員の即時派遣を決めた人である。事態の進行が早すぎて間に合わなかった

事を悔やむ人柄であり、共に戦った友軍が血の海に倒れる姿を傍観するなど

パーデス王からすればありえなかった。


ガープの追加攻撃の可能性を考慮し逃げの姿勢の傭兵集団を尻目に

人命救助に動いたタンバート王国軍に続きクレギオン公国残存部隊

も救助に向かう。


主攻撃軸でもバーマ共同軍やクー・アメル朝が人命救助を開始した。



続々と救出される連合軍兵士。だが近代火力戦を無防備な状態で受けた

兵士の惨状は凄まじく殆どの兵士が即死状態で原型を留めていないような

死に様も多い。生存者も例外無く重傷を負い生死の境をさ迷っている有様だ。


夥しい犠牲者に比して数少ない生存者の救出はスムーズに進む。

そして救命措置が必要な兵士達を救うべく懸命の治療が施された。





「目を開けなさいマウリッツ!!死んではなりません!!」


意識を失ったクレギオン公国軍のマウリッツ軍監にサニア公女が

流れる涙を拭いもせず懸命に呼びかけている。


マウリッツの顔色は青白く体温は急速に下がって痙攣が始まっていた。

大小の怪我を負っていたが彼が昏睡している最大の原因は彼の片腕が

失われていた事である。


それも綺麗に切断された類ではなく根元の肩付近がズタズタに爆ぜて

ちぎれ無残な傷口からの大量の出血がマウリッツの生命を脅かしていた。


治療士たちが懸命に治癒魔法で傷を塞ぎ出血を止めつつあるが

マウリッツの命が持ち堪えるかどうか予断を許さない。



「あああ…何と言う事……」


見ている事しか出来ないサニア公女は手で顔を覆い金切り声を発する。


「神よ!!おお我が神ゼノスよ!!!何ゆえぇ…何ゆえ私に治癒の力を

与えて下さらないのですか!!あ、ああああああああああぁぁ……」


血を吐くような慟哭。


英雄神ゼノスのプリーステスでもあるサニア公女。だがゼノスの神聖魔法には

治癒の力は無い。攻撃や状態異常など敵を苦しめ害する呪文しかないのだ。


だがマウリッツは神聖ゼノス教会の聖戦に身を捧げたのだ。それでも

ゼノス神は何もせず見捨てるというのか?


大切なマウリッツが衰弱していく事に慄きながらサニア公女の信仰心に

亀裂が入ってゆく。



ヒュウウウウン……



その時、彼等の頭上を一陣の風のように光り輝くドラゴンが通り過ぎ

強く暖かな生命の波動が周囲を満たしてゆく。


「公女殿下!!奇跡です!マウリッツ閣下が持ち直しました!」


「ええ?!」


驚いてサニア公女がマウリッツに目を向けると傷は完全に塞がり

死相が浮かんでいたマウリッツの顔色は元に戻って行く。


安定した呼吸を続けながらマウリッツが意識を取り戻しゆっくり目を開くと

たまらずサニア公女は抱きつき子供のように泣きじゃくるのだった。





主戦闘正面においても混乱が始まっていた。特に酷かったのはゼノス

聖堂騎士団で退避する者や勇者に呼応して突撃しようとする者などが

入り乱れる混乱の極みにあって統制がまったく取れていなかった。


(ええい、邪魔な狂信者どもめ!!)


ポラ連邦軍のボロザーキン将軍は直属の混成師団に親衛第7旅団の

救出を命じつつ内心で毒付く。


今、彼の脳裏は作戦失敗と大損害についての責任問題でいっぱいいっぱい

であった。


「とにかく生存者の救護を急げ!!それと空瓶でも良いから例のポーション

を確保するのだ。五賢者とゼノス騎士団が差し出したアレが作戦失敗の

原因に違いない。敗北の責任はあっさり墜ちた超兵器と奴等だ!!断じて

俺では無い!俺では……」


本国からの査問と粛清に怯え責任転嫁する対象探すボロザーキンの

荒んだ瞳は混乱を来たし逃げてくる集団の1人に注目する。


「あれは確か聖堂騎士団長の色子のガキ…ミルスとか言ったな。奴は

重要会議でも騎士団長と常に一緒だった。奴を拉致しゼノス騎士団の

失態を証言させれば…」


ボロザーキンは冷静さを失っていたが狂ってはいないのだろう。


彼等の頭上を通り過ぎるミスリルドラゴンの上から聖なる法力を

受けてもボロザーキンの決意は覆らず実行に移されたのだから。






そしてロガー獣人族連合軍では国家元首でもある獅子獣人のサダン司令官が

聖戦からの離脱を決意し撤退準備を始めていた。


狂乱を起こした軍の中でロガー獣人軍の犠牲は比較的小さい物だったが

それは全てペピート将軍ら正気の者たちの自己犠牲の賜物であった。


(空瓶に残った飲み残しのポーションは確保した。国元の錬金術研究機関で

調査して五大賢者共を糾弾してやる…)


サダン司令官は深い怒りを心に秘めたまま撤退指揮を続けている。

その頭上を聖女である巫女姫アスアを乗せたミスリルドラゴンが

通り過ぎ身体と心の傷を癒す法力を振り撒いていった。


だがサダンの心の痛みは晴れない。彼を始めポーションを飲んだ者は全て

狂気に陥っていた間に見た光景を記憶していたのである。


狂乱に陥り死地へと突進する自分を親友のペピートがボロボロになりながら

引きとめようとする光景。ペピートをボロボロにしたのは他ならぬ自分自身。


怪我だらけになりながらサダンの無事を確認したペピートが最高の笑顔を浮かべ

ガープの放った猛烈な爆炎の中に消えてしまった情景がサダンの脳裏に焼き付い

ていた。ペピートだけではない。最も大きな犠牲を払ったのは正気だった部隊で

あったのだ。


それが生存者達の悔しさと悲しみを深めている。



様々な想いに耐え堪えているサダン司令官に続々と報告が届き始めた。


「瀕死だったラゾーナ将軍が聖女アスアの御力により持ち直しました!!」


「怪我人も急速に回復し作業に参加!撤兵準備はもうすぐ完了いたします!」



「ううっ…ごっ御報告申し上げます。」


そこに涙を流しながら黒ヒョウ獣人のガック隊長が現れた。


「…報告せよ。」


恐ろしい予感に襲われながらサダンはガック隊長に報告を求めた。

周囲の幕僚等も固唾を飲んでいる。


「生還したサイ獣人の兵士イコロなる者が…うううっ…これを託して…」


遂には男泣きし始めたガック隊長は小さな兜をサダンに差し出す。指揮官用の

飾りが付いた兜にはウサギ獣人用を示す長耳を通す穴が開いている。


ロガー連合広しといえどウサギ獣人の指揮官などペピートしかいない。

血塗れで半ば引き裂かれたその兜が誰の物か…考えるまでも無かった…


震える手で兜を受け取るサダン。数瞬の沈黙後、


「…時間が無い事は承知している。だが3分、いや1分だけでいい。

私を1人にしてくれ。頼む。」


「…はっ!!」


サダンはペピートの兜を大事そうに抱えたまま天幕に入り入口を閉じた。

間を置かず天幕から怒号のように激しく号泣する声が聞こえる。それは

時間が許す限り途切れる事はなかった…




ヒュウウウウン……




何十万という聖戦連合軍全てに治癒の力を及ぼす離れ業をやり遂げると

聖女アスアとミスリルドラゴンは勇者の元に駆けつけた。


意外な身軽さで巫女姫アスアが勇者の左隣へと着地するとミスリルドラゴンも

大地に降り立ち人間形態へと変身を開始する。


変身を終え全裸姿になる直前に虚空から呼び寄せた装備を瞬間装着し

シンプルだが高性能を感じさせるアダマンタイトの軽鎧を身に着けた

少女へと姿を変えたミスリルドラゴン。


勇者の騎竜にして前衛格闘士の輝竜姫ルコア。


勇者の右前方に位置取って油断なく構えを取るルコア。なぜ彼女がドラゴンから

人間形態へと変身したかといえばドラゴン形態より強いからである。


様々な武技を使いこなす最強の前衛として数多の魔王軍の化け物共を

打ち破ってきた格闘の申し子。その底力は計り知れない。



輝竜姫ルコア


巫女姫アスア


炎髪姫ラニア


そして勇者ゼファー


マールート世界における正義側最強の武、闇を打ち払う勇者パーティーが

新勢力ガープの前に立ち塞がった。


だがガープ側も亀のような姿の怪物が率いる戦闘員の増援と合流し

一つ目で四本角の大怪物がゆっくり腕を下ろし勇者から目を離さず

配下の怪物軍団に何かを指令している様子である。その姿の禍々しさ

と勇者に向け放たれるプレッシャーから尋常な相手ではない事が伺えた。



ちなみに闇大将軍らガープ側が何を話していたかと言うと…


「事前情報で知っとったけど、ホンマに勇者パーティーって

勇者以外は女の子ばっかや。これテンプレ過ぎやろ…」


「…まあ、そう言ってやるなよ。勇者サマの表情を見てみな。

チャラついたハーレム野郎じゃ無さそうだぜ。」


カノンタートルの言い回しを嗜めている闇大将軍に部隊長の戦闘員、

№39『サンキュー』が方針を聞いてきた。


「むしろ女子の好意に気が付かない超ニブチンかもしれませんね。

見ているだけで肩が凝りそうな真面目っぷりです。…それでこれから

どうなさいます?勇者捕獲を試みる好機ですが?」


「事前準備がまるで出来てねえ。だがまあ成功率は低くても狙う価値はあるな。

ま、どうなろうと棚ボタで勇者サマとの初接触だ。こいつは最大限に利用させて

もらうとしようぜ♪」


その時、勇者パーティーに動きがあった。


カッ!!


聖光剣ディンギルを輝かせ勇者ゼファーが決意の言葉を言い放つ。


「いくぞ!もうこれ以上の犠牲は出させない!!」


ゼファーは強大な力を持つだろう敵の首魁、闇大将軍を

真っ直ぐに見つめ、その凶行を実力で止めようとしている。


その姿勢、言葉には無辜の民を邪悪から救う気概が溢れていた。

まさに勇者である。ゼファーの姿にかつての宿敵、特務小隊

ソルジャーシャインを重ね合わせた闇大将軍の心に好意的な

気持ちが沸いてくる。



その勇者ゼファーが新勢力ガープに敵対を宣言した。




「ガープと名乗る大魔王の走狗よ!!これ以上の暴虐は僕が許さない!!」



「ハッ!!大魔王だと?笑わせるな!!」



迸る決意をのせたゼファーの叫びを嘲笑する闇大将軍。


「勇者だろうと魔王軍だろうと我々新勢力ガープの目的を邪魔する者は

叩き潰すのみ!!苦痛ある死を恐れぬなら掛かって来るがいい!!」


「何だと?!」



闇大将軍は烈風参謀主導で進めているプロパカンダ・シナリオに沿って

悪の大ボス演技を続けた。内心で少し楽しんでいるようだが見た目が

まんま悪ボスなので見る側にとっては疑念の余地が無い事実に見える。


「それで誤魔化すつもり?残念だけど貴様達ガープの戦闘部隊が魔王軍と

連携している事は把握済みよ。大魔王クィラから……」


「ほほう?守旧派の連中が魔王軍とか言うカス共を利用する計画を進めていると

聞いていたが戦闘部隊を動かしたとは聞いていなかったな。一度本拠地で確認を

取らねばなるまい。」


守旧派などという存在しないガープ内派閥を匂わせてプロパカンダ・シナリオに

沿った発言を使い闇大将軍は炎髪姫ラニアの追求をも嘲笑する。




悪である事や魔王軍との関係を否定し潔白を叫んでも無駄である。

人は信じたい物しか信じない。



だからガープは魔王軍とは別の悪・・・であると明示しガープ内部の派閥の一部が

大魔王と関係を持っているに過ぎないと言い張る。


強引で無茶な設定だが彼等には内実を知る手段がない。このシナリオに沿った

大芝居で強引にゼノス側の大義名分を消去し水面下の工作を進める予定である。


ちなみに勇者と闇大将軍の応酬はこっそりとガープ基地側で音声が拡大され

この地にいる全員の耳に届くように仕掛けられていた。



「…まあ、要するに魔王軍は利用するだけ。ラースラン王国と同じようにのう。

最後は使い捨てるハラかの?」


いつの間にか勇者の正面前に出ていた輝竜姫ルコアが闇大将軍に言葉を返した。

外見年齢では勇者パーティーで一番若く見えるルコアだが挙動と態度、そして

何より落ち着いた口調の婆ちゃん言葉が真の年齢を感じさせる。


「ラースラン王国?」


「とぼけるで無いわ。貴様じゃろう?ラースランの戦争に介入し竜帝王ごと

ラゴル王朝のドラゴンを500頭以上も殺したのは?いくらラースラン空中

艦隊が強うても1戦でこんな戦果が出るはずが無いわい。」


「ああ、それか。あんな貧弱なトカゲの群れ相手にわざわざ俺が出る訳が無い。

我がガープの1部隊を送っただけだ。」


「!!。……どうやらハッタリでは無いようじゃの…。」


ゼファーを含む他の勇者パーティー全員が絶句する闇大将軍の言葉に

不敵とも言える表情で応えるルコア。


だがその内心は押し寄せる戦慄を表情に出さぬよう鉄の自制心で

統制していた。必死に。



ルコアの固有スキル『天眼』は相手の強さを正確に見抜く事が出来る。


覇道の剣の英雄ライユークの直感よりも正確に敵の強さを測れるが

感覚的には数値化に近く、技の詳細や種類などは読めず個としての

強さと破壊力を感知するのみ。


ルコアはガープ側と対峙した瞬間から天眼を発動させ…ずっと戦慄し

続けていた。


まずザコと思われた黒衣の戦闘員。だが装備している武器込みならば

実体化したグレートデーモンに匹敵する怪物揃いであり、見えている

範囲に200名が完全に統制され展開している。恐ろしい事に。


そして亀怪人。その力量は闘魔将に引けを取らず、破壊力だけならば

この地に集う聖戦連合軍を1匹で壊滅させる事が可能と判定した。

恐ろしい事に!


(じゃが、そんな連中なぞ問題にならん!何なのだアレは?!)


ルコアの決して短くは無いこれまでの生涯でこれ程の強者に

出会った事は無かった。


4本角を持った一つ目のガープの首魁。


その力は比較対象として勇者パーティーが戦った最強の敵の1人、

魔王軍四天王の武闘公インプルスコーニと比べても隔絶している。


インプルスコーニが小魚なら目前のガープ首魁は大鯨、いやそれ以上の

リヴァイアサン級に力量が違った。恐ろしい事に!!!


大魔王クィラと遭遇する時に備えていた決死の覚悟をここで決める

決意をするルコア。


『ラニアよ。聞こえておるかの?』


「!」


突然、炎髪姫ラニアの脳内にルコアからの念話が届いた。


『どうしたのルコア?』


その口調が尋常な物では無い事に気が付きラニアも念話で応える。


『簡潔に言う。成長途上の今のゼファーではあのガープの化け物に勝てん。

ワシが命を懸けて陽動をかけるゆえゼファーとアスアを連れて瞬間転移で

離脱せい。』


『それほどの相手なの?!まったく魔力を感じないのに?』


『魔力を感じない?じゃがワシの天眼で見た奴の実力はインプルスコーニを

超越しておるぞ。万に一つも勝ち目無しじゃ。』


『分かったわ。けど約束して。貴女も必ず生還を…』


その時、勇者ゼファーが前方のルコアより前に進み出て闇大将軍に問いかけた。


「邪魔をすれば叩き潰すといったな?そのガープの目的とは何だ!!」


闇大将軍はニンマリ笑い、


「世界平和だと言ったら…貴様は信じてくれるのかね?」



シュン!!



「邪悪な敵の言葉に耳を傾けてはならぬ!!勇者ゼファーよ!」


その瞬間、勇者の左右に五大賢者の赤玉の賢人ラーテと緑玉の賢人パオロが

転移の力で現れた。


「賢者殿か?!」


「左様、ここは我等の戦場。勇者殿は引き下がられよ!!」


「究極兵器ニル・ピラムスは黄玉の賢人シスと共に散ったがまだ対抗策は

残っている!!」


(何だ。つまりシスはあのピラミッドと共にオダブツになってたのか。)


期せずしてガープ側は知りたかった敵情を知る事が出来た。3人の賢者を

逃がさず仕留める為に全員の所在が明らかになるまで攻撃を控えていたが

最後まで分からなかったシスを既に倒したと分かったのだ。


「よし。戦略目標の賢者狩りを敢行するぞ。」


だが先手を取ったのは赤玉の賢人ラーテだった。


大仰なデザインの水晶の杖の様な物を振りかざし裂帛の気合を放つ。


「クアック・メテオロア発動!!」


(フルパワーのメテオ集中衝突で消滅せよガァァァプ!!!)


水晶の杖の異様な輝きに同調して大空が異様な輝きに覆われた。


絶望を象徴するような赤く輝く彗星が出現し急激な速度で地表へと墜ちて来る。

天空に現れた彗星の数は7個。鳴動するような落下音が響き渡った。


「何を考えておられるか賢者殿!!」


炎髪姫ラニアが絶叫する。魔術師である彼女は赤玉の賢人ラーテが発動した

兵器が究極の攻撃呪文『メテオ』に類する物である事は即座に分かった。


通常のメテオは直径10メートルの隕石を召喚し敵に落とす攻撃。

衝突速度からそれだけで砦を丸ごと吹き飛ばす超威力がある。だが

クアック・メテオロアのフルパワーは規模が違った。


直径100メートル級の隕石が同時に7発である。1発でもツングースカ大爆発

を超えるメガトン級の核兵器並みの威力があり7発全て墜ちれば聖戦連合軍はむ

ろんこの地域、いや国家そのものが消滅する大破局をもたらすだろう。


ラニアの魔力でも防ぐ事は出来ない。国を滅ぼすような攻撃を止めるには

賢者ラーテを説得するしかない。だが…


「大事の前の小事!!いまもっとも大切な事は新勢力ガープを滅ぼす事だ!!

逃がさぬようギリギリまでメテオをコントロールしたら我等も転移で撤収する。

勇者ゼファーよ、君も死にたくなければ急いで転移したまえ!」


「クククッ、魔力を持たぬガープは転移呪文も転移門も使えず逃げられん!」



「馬鹿を言うでないわ賢者殿!!無辜の人民の大量死を小事などと!!」


堪らず叫ぶルコア。その時だ。


「僕が隕石を食い止める!!!!!」


勇者ゼファーの宣言に今度は賢者どもが慌て出した。


「馬鹿を言うなゼファーよ!!」


「君には大魔王を滅ぼす責務がある!!ここは諦め退避するのだ!」




だがゼファーは彼等を無視しガープの首魁、闇大将軍に叫んだ。


「状況は分かっているだろう?貴様達の為でもある!!僕等の妨害はするな!!」



そして初めて気が付いた。


新勢力ガープ側に慌てる様子がまるで無い事を。




闇大将軍がゆっくりと空を見上げる。すると真北の空から一条の青白い光線が

到達し赤い隕石の1つを撃ち貫く。


同じ方角から何度も光線が隕石を襲い7つの赤き彗星はそれぞれ2発、3発と

撃ち抜かれて行き隕石は激しく輝き出した。



シャアアアアア!!!


そして赤き彗星は木っ端微塵に打ち砕かれ無数の流星へと変わる。

荘厳な打ち上げ花火のように大空を美しく輝かせて。


その攻撃はガープの人工衛星に搭載されている大出力レーザー砲による

精密射撃であった。ガープ要塞の量子スーパーコンピューターの制御で

隕石の形状と質量、構成素材分布と大気圏突入角度を計算し、隕石の

構造上で最も脆弱なポイントを破壊し空気抵抗を増大させる大穴を開け

大気圏突入の衝撃と抵抗に耐えられぬよう仕向けられた。


そして全てスーパーコンピューターの計算通りメテオ隕石を地上に無害な

流星群、美しき星の屑へと変えてしまったのである。




「っで?あの石コロがどうかしたのか?…クククッハハハハハハハハハ!!!」



勇者や賢者を始め何万と居る将兵も絶句し沈黙する中、両手を広げた

闇大将軍の哄笑だけが響き渡った。


圧倒的な巨悪の姿を印象付けながら闇大将軍が軽い口調で嘯く。


「では、今度はこちら側からのお返しだ。」


ズアアアアアアア……


「ぬ?!のおおおおあああ?!」


先ほどメテオ隕石を打ち抜いた高出力レーザー砲が天空から緑玉の賢人パオロを

襲い抵抗する間も無くその肉体は仮面の鮮やかな緑色の翡翠ヒスイごと蒸発

し、立っていた地面まで超高熱で溶け赤熱化してしまった。


さしもの大賢者と言えど衛星軌道上から正確無比にレーザーで狙われては

予兆すら感じ取る事も出来ず対応出来なかったのだ。五大賢者の一人たる

緑玉の賢人パオロは意味ある言葉すら残せず消滅した。


続けて赤玉の賢人ラーテを屠るべく命令を下そうとした闇大将軍の目前に

突然ルコアが出現した!!


「武技!縮地神速歩!!!」


瞬間的に間合いを詰めルコアは闇大将軍に攻撃を放ちながら後方に絶叫した。


「今じゃラニア!!皆を頼む!!」


闇大将軍に一矢報いようと放たれた攻撃だが効果が無かった。

いくら不意を付こうと戦闘形態の闇大将軍に攻撃を与えるなど

至難である。


闇大将軍の重力場フィールドに触れ10tトラックに追突されたような

衝撃がルコアを襲う。


「ぐおおお?!」


だがこの隙を突いて炎髪姫ラニアがゼファーの左手首と巫女姫アスアの右手首を

掴むと無詠唱の瞬間転移でこの場を離脱して行った。


他者を連れての無詠唱瞬間転移。魔術師ギルド総帥のバーサーン最高導師でも

成功の可能性が低い離れ業を炎髪姫ラニアは苦も無くやってのけたのだ。


「リアルチート目撃や。異世界感出てきたなぁ。」


ぽつりと呟くカノンタートルが見守る中、体勢を立て直したルコアは更なる攻撃の

構えを取る。その様子に闇大将軍は感心していた。


「仲間を逃がす為に独り残ったのか…。」


「今は未熟じゃがな。あやつ等はこの世界の平和を守り支える大柱となる存在よ。

このような場で死なせる訳にはいかんでのう。それより…」


ドガッ!


ルコアは気迫の篭った飛び蹴りを繰り出しながら叫んだ。


「貴様の名を教えてくれんかの?恐ろしきガープの親玉よ!!」


「俺か?俺は軍事を司るガープ三大幹部の一人、闇大将軍さ!!」


ルコアを迎え撃つ為に指向性重力震を放ちながら闇大将軍も叫び返す。


指向性重力震は闇大将軍からすれば小技で羽虫を追い払う感覚に等しい。

それでも50tある主力戦車を吹っ飛ばす威力なのだが。


その重力震が直撃する瞬間、フェイク攻撃の蹴りを止めドラゴン姿に

変身するルコア。頑強なミスリルドラゴンの身体で闇大将軍の攻撃を

受けた上にわざと威力に抵抗せず蹴られたサッカーボールのように遠く

跳ね飛ばされる。


無傷とは行かなかったが軽傷で距離を取ったルコアはそのまま翼を広げ

遁走を試みた。逃げられる可能性は五分と踏んでいたが危惧していた

追撃は無く見逃されたと知る。


(勝者の余裕か。新勢力ガープ、なんと凄まじき奴等よ…)




勇者パーティーだけではない。大敗し撤退する聖戦連合残存部隊にも

ガープはまったく追撃せず安全に退避する事が出来た。


だが逃がすつもりが無かった赤玉の賢人ラーテや神聖ゼノス教会の

大神官にドサクサ紛れに逃げられてしまったのは誤算である。


「30点の作戦だったなぁ…。俺もヤキが回ったか?」


闇大将軍が自嘲気味に呟いた。



参戦した五大賢者を倒すのは不完全達成で意図せぬ大虐殺と

なったガープの大誤算。


剣を交える事も出来ないまま強制退却となった勇者の誤算。


大敗し10万を超える未曾有の大損害を出した聖戦連合の誤算。

その戦死者はロガー獣人族連合のペピート将軍やポラ連邦軍の

ナグルガスキー大佐などの将官クラスまで及ぶ。


中でも衝撃的なのは大アルガン帝国のメルタボリー皇女と

ザン・クオーク選帝侯の戦死であった。


連合軍諸国にとって誤算しかない戦いであったと言えよう。




こうして聖戦は受けて立った新勢力ガープの勝利で終わる。参戦した国々は

勿論、密かに密偵を放っていた勢力、影の中から暗い目で監視する者や高空

から観察を続けていた者。可憐な花の中の精霊の瞳を通じて見守る者など

多くの者達が本気のガープの力について再考を迫られていた。



そして…


「何故なのだ?なぜ超魔法文明の兵器が破れるのだ?それになぜ

勇者ゼファーが現れたのだ?」


最大の誤算を蒙り苦悶しているのは赤玉の賢人ラーテである。


「勇者への情報遮断は完璧だったはずだ。しかも勇者の周囲を固めさせて

いたのは三大英雄の一人、高速剣士ボーグだぞ?!もしかして後方で何か

重大な異変が?」



そう、彼等の耳目が聖戦に集中している間に後方にて重大で深刻な

事態が発生していた。その切っ掛けの1つが自由行動を満喫していた

ある鳥怪人達なのであった。




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