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6 王の苦悩



ハヴァロン平原で大きな異変が起こってる。



ラースラン王国と大魔王の支配する暗黒の領域との中間に

位置する緩衝地帯。名物はアンデッド超大量発生。



国王の下に彼の地で起きている異変の情報は断片的ながら各方面から

続々と入って来ていた。簡単に話を繋ぎ合わせただけで真剣に向き合う

に足る重みのある懸案だ。



国王レムロス6世は各方面に人を派遣して情報を集めるよう勅命を下した。

特に冒険者ギルド、交易商会連合、魔術師ギルドからの報告に重点を置いて。




王都に聳える白亜の王城


内宮の執務室にて右手を額に当てて苦虫を噛み潰しているような

表情を浮かべているのは国王レムロス6世その人である。



魔術師ギルドから最高導師が自ら出頭し報告したのを皮切りに

各方面に派遣した人員が持ち帰った情報を主要貴族が臨席する

謁見の間で報告を受け、そのまま始まった討議では結論が出ず。

結局、王の裁量で当面の方針を決定する事となった。



つい先刻の事である。



そして今、この執務室で緑髪の女性書記官ミディ・ミトラから

王の三男にして副騎士団長のユピテル王子からの偵察案の説明を

聞いている所であった。



「……以上です陛下。 あと、ユピテル殿下からの補足として

偵察任務にて政治的判断を円滑にする為に殿下ご自身が随行するのが

合理的であると提案がありました。行動の自由を最大限得るため名前と

身分を偽り冒険者に扮装する用意もあるそうです。」


「許可を出すと思うか?」


「陛下の許可をいただけない場合はこの書類の手続を進めるよう

申し付かっております。」


「ん?」


「ユピテル殿下が王族籍を離脱し臣籍降下する旨の宣誓書と王位継承権を

放棄する為の貴族院議会の召集要請です。継承権者の権利により王といえど

議会の同意なければ拒否できません。」




王は右手で額を押さえた姿勢のまま、無言で左手を室内の暖炉に

向けて指差す。


書記官は手馴れた手つきで国王に頭痛をもたらしている書類を

ぽいぽい暖炉に投げ込む。


ようするに王子の行動に許可を出すから書類は廃棄という事だ。




「まったく、脅迫じみた手法を取りおって。何の為に急いで

王宮に戻したか分って、、、おるだろうな。あやつは愚かではない。」



「大アルガン帝国との婚姻、そーとー嫌みたいでしたが。」


「騎士団の仕事に託けここに来ないで何を拗ねておるかと思えば。

政略結婚が気が進まんのはわかっておるがこの件は重要度が違う。」



婚姻計画を進めている帝国皇女は有力な皇位継承権者であり、あわよくば

ユピテル王子は巨大帝国の女帝の皇配となれるかもしれない。それだけでも

大きな国益が見込めよう。しかも王の目論見はそれだけではない。



「帝位継承争いの渦中のメッサリナ皇女との縁談。かの皇女の派閥には

我がラースランと親密な諸侯が多い。この縁談で婚姻関係が出来れば

外戚として堂々と帝国内の親ラースラン派を支援する事が出来る。」


「・・・。」


「もっとも、ユピテルめは頭は切れるが自由を愛する奴じゃ。

会った事も無く肖像画でしか顔も知らん女性との婚姻自体が

嫌なのかもしれん。」


(それは嫌だと思いますよ?)


書記官が内心でツッコミを入れていると取次ぎの者が急報を知らせる

伝令が謁見を求めて来ている事を告げてきた。


否も応も無い。即座に呼び入れる。


「急報にございます陛下!!」


「直答を許す。何事か?」


「大アルガン帝国にて継承権争いによる武力衝突!!帝国で内戦の

勃発です!!」


国王は両手で頭を抱えた。



大アルガン帝国。


この大陸の半分を領有する広大な版図を持つ巨大帝国であり

多民族を統べ桁違いの人口と国力を誇る強大国だ。


その帝国での内戦は人類圏の全てに波及するだろう。列強や

同盟国、敵対する国々まで巻き込む戦乱を巻き起こすに違いない。


利益を得るのは大魔王クィラの率いる魔王軍のみ。


異世界『マールート』にかつてない暗雲が広がろうとしていた。







一方、





ラースラン王国の要人達が帝国の内戦を告げる知らせを受け多忙な

日々を送っている頃、王都からすーっと西にあるハヴァロン平原の

要塞に居を構える暗黒結社ガープは日を追うごとにノンビリとした

余裕が生まれていた。


この世界に飛ばされて来てから十日間余り戦い続けた結果、夜毎に

襲ってくるアンデッドが激減して来たのだ。


貴重な時間を得られた今、色々な事に着手する準備に入った。



「戦闘の終結が見通せる段階まで来た。今後に向けて動けるよう計画を

立てる必要がある。」



最低限やらねばならないと考えられているのはこの世界の把握である。


烈風参謀がまず提案を持ち出す。



「高々度航空偵察を行う。周辺の地形、地理、文明圏の分布や位置を

まず把握する必要がある。GPSの設置が出来るまでにやれる事はやって

おきたい。ハイドル戦闘機を飛ばす事で最低限の情報を揃えようと思う。」



「GPSも含めた多目的衛星の製造は急いでおる。新設計を行うのは時間が

足らんかった。ゆえに地球で使っていた衛星とほぼ同じ物となる。この惑星の

自転と公転軌道の計算はもう終っとるから衛星が完成次第に打ち上げじゃ。」



何かの作業に没頭する死神教授が顔を上げずに応えを返す。その教授を

はじめこの場に居る三幹部に関西弁の提案が提示された。



「すんません、資源確保の為の資源調査隊の派遣はどないですか?」


「出したいのは山々だが所有権の問題がある。この世界の人間と接触し

友好的関係を築くのが最優先である以上、対立の火種は作るべきではない。」



「あ、そらそうや。すんません。人様の土地から勝手に資源強奪したら前と

同じ非合法活動でしたわ。反省、反省。」



烈風参謀がカノン・タートルの試案を保留にしていると培養槽から闇大将軍が

口を挟んできた。



「接触するなら例の『お客さん』から始めりゃ良いんじゃねえか?

また近くにいるんだろ?」




お客さん


それは2日前から現れた当方を監視している生きた人間達だった。

それ以前には居なかったかと外部カメラの記録映像を確認した所、

6日ほど前に生きた人間の小集団らしき姿が記録に残っていた。



「彼らはステルス技術か光学的な迷彩技術があるらしくセンサー類や

カメラで捉え辛く不鮮明にしか見られん。だが、敵対する者ではない。」



不鮮明ながら数少ない映像記録には彼らがゾンビと交戦している様子を

映している物があったのだ。どうやら此方に対する遮蔽とは別の方法で

ゾンビに対処している様だが不安定な手法と推定される。



「我々の知らない高度技術を持っているようだが何故か中世のような

鎧を着て剣や槍でゾンビと戦っていた。文明レベルがよく分からん。」




「聞いてみたらどうです?敵やないなら呼びかけてみたら?」



「我らを相当に警戒している。こっちが向こうの存在に気が付いている

と分ったら即座に撤退されてしまう可能性が高い。」



「まあ、多少は怪しいからな俺達の見た目は。撤退される前に取っ捕まえて

要塞にご招待し歓待して友好をアピールしちまうのが手っ取り早かねえか?」




「お言葉ですが、多少・・ではないかと思われますが将軍。」



ややナルシストな響きをしたクールな声が闇大将軍に冷静に突っ込みを入れる。



「まず、ご自身のお姿を鏡で確認されてはいかがです?ゾンビも裸足で

逃げ出す凶悪さですよ。ふふふ。」



「…お前は口調が変わらんな。ウオトトス。よりによってお前だけ変わらん

とはなぁ、。」



ふふん、と存在しない前髪を指で払う仕草をする怪人ウオトトス。改造前から

の癖であるそうな。



もっともウオトトスに突っ込まれても仕方なかったのが闇大将軍の姿だ。


培養液に漬かっている身体の再生はようやく首から肩のあたりまで出来て

来ていたが、その下から先に内臓が生成されて連なっている。


恐ろしい最強怪人の生首に内臓がぶら下がっているのだ。実に迫力満点である。



「性急な手段は却下だろう。ファーストコンタクトは慎重であらねば。将軍、

我らの目的はもう破壊工作活動では無い事をお忘れか?」


「ん。ああ、そうだったな。」


「この世界の人類社会に善を成す事。もし、我らとの接触そのものが有害で

あった場合は最初から絶縁する必要もある。その為にも情報が必要だ。」




烈風参謀の生真面目な姿勢に誰も反論する事無く沈黙が場を支配する。


その沈黙を破ったのは教授だった。重い口調で困惑もあらわに驚愕の言葉を

宣った。




「その情報の1つじゃが、この世界はとんでもないぞ。エネルギー不変の法則、

いや、物理法則そのものを超越する力が存在する事を確認したのじゃ!!」



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