表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/104

55 各国の反応



神聖ゼノス教会の総本山、ロルク聖庁府から発せられた聖戦の布告は

雷鳴のように諸国に轟いていた。


それはラースラン王国の南に広大な版図を持つ獣人達の国も例外ではない。




ロガー獣人族連合の連合首都スヴェート


連合に所属する各部族を象徴する獣の巨大なレリーフが並ぶ荘厳な中央評議会

議事堂において絶大な権威を持つ五大賢者の一人、緑玉の賢人パオロが演壇に

立ち満員の獣人族連合の評議委員たちに向かって熱弁を揮っていた。




「勇猛にして正義の価値を知る獣人族の勇士達よ!!今こそ武勇を

示す時と知って欲しい!!かの大魔王の同盟軍たる新勢力ガープは

街道の要衝付近に侵略基地を設営し邪なる本性を露にした!!これ

を阻止し聖戦を勝利に導くには屈強なる獣人族の力が必要なのだ!」


聖戦には前向きに反応しているロガー獣人族連合。だが参戦については

慎重な姿勢を崩していないこの軍事強国を動かすべく五大賢者の梃入れ

が行われていたのだ。


この世界の獣人はケモ耳に尻尾という中途半端なタイプではない。


体型こそヒューマンタイプだが全身の体毛や頭部はほぼ獣である。


しかしあくまで獣であり高い知性を持ち表情筋が豊かな表情

を表し明瞭な人語を発す。そして明確な人間種としての身分が

大陸全土で認められていた。


蛇足であるが仔犬ソックリのコボル族は犬獣人族とは別種族である。

人間を遥かに凌駕するスピードと反応速度を持つコボル族は強力な

戦士であり何とか追随出来るのは獣人族のチーター獣人の戦士だけ

だとされている。



獣人族連合


各獣人の自治区が結成したこの国家は極めて強力な陸軍を保有している。

それぞれの獣人の特質に合わせた優れた編成と統率の軍だ。


ヒル・ジャイアントやギガースなどの巨人族に対抗可能な体格の象獣人の

重装歩兵にトロールやオーガー並みの腕力で突き進むサイ獣人の突撃兵、

人間に倍する武力と特殊な笛の音を聞き取り統率された作戦行動が取れる

狼獣人の部隊などその戦力は侮れない。


圧倒的な物量の大アルガン帝国や軍事技術の先進性のポラ連邦、強大な空中艦隊

を持つラースラン王国に並ぶ軍事力で聖戦を仕掛けた者達にとって是が非にも参

戦させねばならない存在であった。



緑玉の賢人パオロが演説を終えると獣人の聴衆は一斉に遠吠えを行う。


拍手の代わりとしてロガー獣人族連合では一般化された作法である。

手の形こそヒューマンだが肉球がある種族も居り拍手では上手く音が

鳴らないのである。


「英知ある五大賢者の御方が実にらしからぬ情熱的な弁論に感銘を受けました。

されど熱意だけで国は動かせませぬ。いくつか質疑させて頂くが宜しいかな?」


議会の重鎮と知られる白虎獣人のガレック評議員が舌戦の口火を切る。

雄大な体躯の歴戦の猛者ではあるが老成した落ち着きと知性で連合の

外交を担って来た人物である。


建前上は各獣人族の平等を謳ってはいるが実際には連合を仕切っているのは

強力な大型肉食獣系の獣人族である。その剣呑な眼光を真正面から受けなが

ら賢人パオロは余裕の態度で応えた。


「無論です。連合の方々に対しお答えする為に私はやって来たのですから。」


「では、まず1つ。本当に新勢力ガープなる者共は魔王軍の同盟者との確たる

証拠は在りましょうや?隣国ラースランから伝え聞いた話ではガープが魔王軍

を打ち破り恐るべき実力を持つ魔王軍四天王の一角、武闘公インプルスコーニ

を倒したとの事。これが事実ならば大義名分の上でも現実的な力量の意味でも

新勢力ガープに戦いを挑むは論外。」


落ち着いた口調に静かな迫力を込めてガレック評議員が言い放つ。獣人族は

その族種に合わせた体格を有し老境に達したホワイトタイガーの彼は身長が

3メートル近く、その圧は生半可な物ではないがパオロは平静を保ったまま

冷静に指摘した。


「魔王軍とガープの対決、誰か第三者の目撃例がありましょうや?彼等が

あったと主張する戦いの現場はあの死の大地ハヴァロン平原の彼方だ。誰も

見ていない場所での茶番劇ではないという保証はありますまい?」


「…まあ、確かに。」


「それに魔王軍四天王を討ち取ったなら何故その首を晒し遺骸を公開しない

のです?魔王軍の大幹部、もし本当なら歴史に名を刻むほどの功績だ。……

もしや戦ったフリをした後で武闘公はガープ鉄の要塞に滞在しているだけかも

しれませんぞ?」


 ざわ…ざわ…

   ざわ…ざわ…


揺らがないパオロの指摘に議場はざわめき始める。もっともパオロの悪意ある

憶測が真実の一端を突いているとはパオロ自身を含め知る由も無い事だったが。


「魔王軍が勇者と対峙し動けない間に邪なガープが各地で跳梁跋扈していた

のは事実!!それは懸命なるロガー評議会の諸賢もご存知のはずだ!」


今は亡き謀略公クロサイトの入念な工作活動の成果を利用し畳み掛ける

緑玉の賢人に中央評議会は翻弄されつつあった。


「賢人殿にお尋ねしたい。ラースラン王国の動向は如何にお考えか?

かの国は新勢力ガープに急接近していると聞く。あのラゴル王朝を

滅亡させた空中艦隊が敵に回る可能性はあるのではないか?」


ヒグマ獣人の評議員アカブが巨体を竦め質問を発した。


ラゴル王朝戦役においてガープ部隊の活躍や功績は公式には無かった事と

されておりラースラン空中艦隊が単独でラゴル王朝を倒したと武名を轟か

せていた結果、その武威と評価が爆上げし各国に警戒されるようになって

いたのである。だが……


「もし、そのような態度に出るならラースラン王国も滅ぼす事になる

でしょうな。これは世界の敵との聖戦・・。それに味方するのは世界に敵対

すると言う事。軍事的のみならず国際的にも孤立化する道をラースラン

王国の上層部が選択するとは思えません。」


「しかし、万が一があれば空中艦隊が…」


「その時は我等の持つ超魔法文明の遺産を用いてラースラン空中艦隊を

撃ち落としてご覧に入れましょう。ハエを叩くが如くに。」


自信に満ちた五大賢者の断言に議場は鎮まり返り、議員達の視線が

中央に座す評議長へと集まって行く。



「…大勢は決したと見た。採決に移る。異論あれば申し出られよ。」


獅子獣人族のサダン評議長が立ち上がり宣告する。身長2メートル50センチを

超え立派な鬣を持つ堂々たる偉丈夫だが声に張りがあり瑞々しい。実は彼は先代

議長の急逝により代替わりしたばかりの若者である。


指導者として真剣に政務に取り組む若獅子に野暮な異論を出す評議員はおらず

中央評議会はただちに採決に入った。



結果、賛成多数で聖戦に出兵する事が議決され評議員達の遠吠えが木霊する。


それを聞きながら緑玉の賢人パオロは口端を吊り上げるのだった。






単純明快、質実剛健、電光石火。ロガー獣人族連合の社会の特徴を獣人達

自身を含めた印象がそれらだ。とにかく決まった事はテキパキ進めねば気が

すまない。


中央評議会からGOサインが出る事を見越して出征準備を進めていた軍部と

打ち合わせすべくサダン評議長は軍令本部に自ら足を運んだ。


軍部は今、大わらわである。魔物退治や魔王軍対応など防衛主体の戦い方ばかり

して来た近年、久方ぶりの大規模な外国への出兵なのだ。しかもサダン評議長が

自ら総司令官として出陣する事が決まっており事前に準備を進めて無ければ出兵

は実現困難であっただろう。




「相変わらず几帳面な事で評議長閣下。会合の時間まで大分早いですぞ。」


本部に入ると直ぐに親しみを込めた声が掛けられサダン評議長は其方を向いた。


「今は公式な場じゃないから閣下とか堅苦しい敬語は無しで頼めるかな?

久しぶりだねペピート将軍。」


向いた先には歴戦の猛者といった風情の熊獣人や黒豹獣人の軍人達がいる。

だが、サダン評議長の目線は随分下だ。


評議長の視線の先には身長1メートルも無い純白な毛並みでふわふわモコモコの

ウサギ獣人が立っていた。ふっくらホッペにキリッとした表情を浮かべた彼こそ

巨漢の軍人達を率いているペピート将軍だった。


彼等は同い年の幼馴染である。気弱で泣き虫だったライオン獣人のサダンを

勝気で元気いっぱいのウサギ獣人のペピートが守るという幼少期。


獅子獣人族でも名門に産まれ将来を嘱望されたサダンは思春期に入ると

出自や種族の有利を妬まれ嫉妬を受け、それが原因のイジメすらあった。

そんなイジメ連中をペピートはぶっ飛ばし、


「出自や種族を言い訳にすんな!!そんなの努力が足らないだけだ!」


そう啖呵を切ったペピートは努力の結果を証明するかのように草食獣、それも

小型草食獣系の獣人には無理だとされていた軍学校に入学し武人を目指した…




「…何か遠い目してないか?サダン評議長。」


「ん、いや少し昔を思い出してね。」


「おいおい、こんな時勢に悠長な。それより俺はまだ辞令を受けてない

んだが今度の聖戦に俺の出番はあるよな?」


「勿論。君の力を抜きに考えられないよ。本気で頼りにしてるからね

ペピート将軍。」


「応!任せておけ!!副将として主将を補佐しサダン司令官を守り抜き

我が軍を勝利させて見せるさ!!」



連合の外征部隊は意思伝達を阻害しない単純明快で無駄の無い指揮系統で

組織される。まず皆をまとめ士気を保つ象徴的な総司令官を置き、その下に

経験豊富な主将を置き実質的な指揮権が与えられる。そして主将を補佐する

副将たちが各部隊を指揮し敵と戦う。


威勢よいペピートの言葉に何故かサダンや配下の軍人達が微妙な顔をする。

おずおずと熊獣人のハニクゥード隊長が尋ねた。


「…あの、失礼ですが何故ペピート将軍殿は辞令が出る前から自身が

副将として参加されるとお考えなのです?」


「あ、そうか。小隊長としての任命もありうるか……」


「逆なんだけど。じゃペピート将軍は誰が主将にふさわしいと思ってる?」


少し呆れた口調のサダンの言葉に心底驚いたペピートは


「俺が主将なんて駄目だろう!ウサギだぞ?何と言っても主将にふさわしいのは

ラゾーナ将軍だ。種族に胡坐をかかない確かな実績と優秀な判断力がある。彼女

ならどんな強敵も打ち破れるだろう。」


「ウサギだから何さ。今の言葉、昔のアンタ自身にぶん殴られるよ?」


颯爽としたさわやかな声が後方からペピートを揶揄した。


「…ラゾーナ将軍。」


「出世のライバルに褒めちぎられるのは悪くない気分だけどね。でも

らしくないよペピート将軍。」


剣歯虎獣人のラゾーナ将軍は歯を向いて笑いながら歩み寄る。牙を剥く

サーベルタイガーの迫力にペピート以外の者はたじろいだ。


軍学校時代からのライバルだった二人。最初の出会いは最悪だった。ウサギの

分際で軍学校に来るなと邪険にし実技の授業で種族と体格差でペピートをボコ

ボコに半殺しにした。だが他者2倍、3倍と努力するペピートは何度も挑み、

跳躍力を利用する剣技を会得して遂にラゾーナを逆にボコボコに打倒した。


その頃にはラゾーナも他の学生や教師もペピートの頑張りを認め誰も

彼の種族を問題視しなくなっていた…



「繰り返すけどウサギだから何さ。種族の不利を覆して来たアンタの努力と

実績こそが未知の敵に立ち向かう主将にふさわしいと私は思うよ。」


「そうは言ってもな。俺も兵を率いる立場になって考えるようになったんだが

やはり指揮官は頼りがいある種族の方が兵士達の士気を保てるんじゃないか?

その方が戦場から兵が生還できる確立も上がる。俺の意地より兵士の命だ。」


「ちょっと一兵卒上がりとして言わせてもらいやすが…」


黒豹獣人のガック隊長が手を上げる。


「連合の兵士で努力の権化ペピート将軍を知らねえ奴はモグリでさぁ。

ペピート将軍の指揮で不安に思うアホはいません。指揮官としての実績

もあるし何より魔獣ケルベロスを斬り倒したウサギ獣人としても有名だ。

吟遊詩人が歌う『純白の毛並みを鮮血で染めし白兎の瞬斬…』」


「待て待て待て!!その小っ恥ずかしい歌は止めてくれ!」


「もう覚悟を決めてくれペピート将軍。君を主将に認めてないのは

君だけだ。非公式だが確かなスジから聞こえてくる新勢力ガープの

実力は恐るべき物だ。この局面を任せられるのは数多の困難を乗り

越えてきた君しかいない。」



周囲から寄せられる信頼。これまでの努力が報いられ得た信頼。




「…わかった。俺の持てる全力を尽くす。」



兎獣人族のペピート将軍は短いが万感の想いを込めた言葉で受け入れた。

寄せられた信頼に応じる為に命すら捨てる覚悟を決めて。







   ○  ○  ○  ○  ○






一方、同じ頃の北方、ポラ連邦の軍事拠点モロペツ。


コンクリートで固められた堅牢な構造物と対歩兵障害物で構成された

大規模な軍事拠点で多数の兵力を要するポラ連邦の東部方面軍の拠点

の1つだ。そこで今、重要な決定が伝達されようとしている。


基地指令室の入り口に歩哨が立っていた。その装備は地球における

18世紀後半のプロイセンの胸甲騎兵の物に似た軍服を着用し武装

として銃剣を装着したマスケット銃を携行している。


火薬ではなく爆裂呪文の触媒を応用した銃は地球の18世紀の銃に比べ

連射性に難があるが射程と威力に優れていた。


ポラ連邦とは比較的新しく成立した国家である。大魔王クィラの前、つまり

前回の魔王ジュガシビルと共に異界からやって来た人々が中核となって樹立

された国なのだ。


彼等のいた世界は魔道を動力とした機械文明が発達した19世紀初頭クラスの

魔法科学文明世界であった。そこでは財産の共有と労働者階級の平等社会を

唱える経済学者の理想論を追及し、いつの間にか恐怖の統制社会に変わり果て

てしまった世界であった。そこで暗躍していた魔王が異世界転移した。



この世界に引き込まれる魔王は何故か魔王単体の脆弱な状態ではなく眷属や

軍勢と共に現れる。まるで勇者以外に倒される事が無いように調整されたか

の如くに。その軍勢に魔王軍に与した人間の狙撃師団が含まれていた。


その師団を率いていたクレープスカヤ少将は此方に来て真実を知る。

元世界の理想論を歪め独裁政治を産み出したのは他ならぬ魔王ジュガ

シビルであった事を。


彼等は魔王軍を裏切り、勇者となった僧侶スプーチと共に魔王を滅ぼした

後、この世界にポラ連邦を樹立した。つまり建国50年余である。



そして現在


基地司令室においてブルドッグのような顔をした基地指令コポフ中将の

前に二人の男が並んでいる。どちらも高級将校の軍服にシャコー帽に似た

軍帽を被っているが軍服の色と襟章が違う。


右側に立っている30代半ばの男は政治将校のナグルガスキー大佐。左は

連邦軍少将で名をボロザーキンという。


「総統府から総統指令208号が伝達された。」


コポフ中将が告げると同時に2人の将校は最敬礼する。総統指令を

受ける時の規定だ。


「我が偉大なる連邦は未開国家群の聖戦と称する対ガープ戦闘に積極介入

する事を決定した。」


そこで言葉を切るコポフ指令に怪訝な表情を浮かべるナグルガスキー大佐と

ボロザーキン少将。何故に自分達が呼び出されたのかや指令の概略の説明を

求めようか逡巡していると、


「総統指令の概略と意義はこれからふさわしい方から提示される。

決して聞き漏らす事が無いように。」


そう告げるとコポフ中将はナグルガスキー大佐の隣に並び、前に向け

敬礼する。すると壁際に彫像のように並んでいた幕僚の一人が隣室へ

通じるドアを開いた。


中将に合わせ敬礼した二人の目の前に現れたのは過剰な勲章を付けた

女性であった。その人物にボロザーキンの若々しい顔に戦慄が走る。


(副総統にして連邦情報局長官のデラーゼ閣下?!なぜこんな大物が?)


氷の彫像の方がまだ温かみがあると言われ冷徹の代名詞にされる副総統は

挨拶も目礼も無いまま司令室へと入った。


カッ、カッ、とブーツの音を響かせ全員の前に出ると後ろに手を組んだまま

デラーゼ副総統が前振りも無くいきなり口頭で指令を語り始める。


「デラーゼである。総統閣下の決断により我等は聖戦に参戦するがこの戦いに

蒙昧なる宗教的な意味を我々が共有する必要は無い。我々の目的は多数派であ

る聖戦側に付いて戦い我々独自の戦略目標を確保する事だ。」


「戦略目標ですか?」


「然り。我々は聖戦側と共にガープ前進基地を陥落させた後にガープの鉄の要塞

と呼称される根拠地を攻略する。そしてそれらの基地の占領権を主張する予定だ

が容れられぬ可能性が高い。そこで諸君が占領初期の過程で何としても確保せね

ばならぬ物がある。」


すいっとデラーゼ副総統が手を掲げると控えていた幕僚が奇妙な物を容器から

取り出して提示した。


「これは一体?!」


それは小さなプロペラが付いた小皿のような物体を開いた物だった。開放部分

から覗く内部には精密な機械がびっしり詰まっている。それはあのガープの小

型ドローン『ガープ・ハウニブ』だった。


「わが情報局が極秘情報としてラースラン王国とラゴル王朝との戦争に新勢力

ガープが深く関与している事を突き止めた。そして情報局員が持ち帰ったのが

これだ。これはガープの兵器であると考えられるが使用法は不明。だが恐ろし

く高度なテクノロジーが使われている。驚くべき事に魔道を一切使わず科学技

術のみで構成され出来ているとの事だ。」


「…なんと。」


ボロザーキン少将にも事の重要性が分かり始めた。


「現在、確保した3機のうちもっとも原形を保っている1機をポラ科学アカ

デミーが解析を行っているが中身の精巧な機械はおろか外殻すら金属で出来

ているのか陶器で出来ているのかが分からない始末だ。」


ここでガープハウニブを引っ込めさせるとデラーゼ副総統は命令調で二人に

告げる。


「ガープ関連施設に入り次第、先端技術に関する物品の確保に万全を期するよう

下命する。更に重要なのは生きたままガープの人員の確保だ。もし技術者や科学

者の確保に成功した場合の功績は計り知れない物と知れ。最高人民栄誉勲章の授

与に特進。最高人民英雄の称号は確実だろう。」


最後に副総統は両目を輝かせる将校達に総統指令の概略、彼等への作戦内容

を示す。


「本日付けでボロザーキン少将を派遣軍司令官として東部方面軍より

混成第2師団を指揮下に付ける。またナグルガスキー大佐は副将とし

て参加。直属部隊として総統親衛軍より親衛第7旅団を与える。その

上で現地上空をコナイコフ提督の飛行艦隊が上空支援に入る予定である。」


ボロザーキンとナグルガスキーは敬礼で応えた。


(混成師団か…)


混成師団とは連邦において第四等国民と規定されている種族で構成された

部隊である。人間に倍する体格と怪力を持つミノタウロス族や半人半馬の

セントール族の騎兵隊など大きな戦力を持ちながら見下されている師団だ。

一方、親衛軍は全て第一等国民である人間のエリートで構成された軍だった。

装備と訓練で他より格段に優遇されている部隊である。


「作戦計画の詳細は書面で確認するように。これは総兵力2万5千を投入し

飛行艦隊まで参加する総統指令により発起された作戦である。失敗すれば貴

官らに未来は無いと思え。以上だ。」


一方的に話を切り上げるとデラーゼ副総統は基地指令コポフ中将を伴って

退出した。二人を敬礼で見送るナグルガスキーとボロザーキン。ふいに、


「足を引っ張るなよ。下等国民の小僧。」


ナグルガスキー大佐が見下した目線でボロザーキンを侮蔑する。


本来はボロザーキンの方が階級は上だが政治将校は2階級上の扱いなので

立場は下になる。つまり戦場では名目上の指揮官はボロザーキンだが実質

的な命令権はナグルガスキー大佐にあると言えた。


(要するに失敗すれば俺の責任。成功すれば功績の大半は奴の物か…クソが!)


政治的な思惑が絡みやすいポラ連邦軍の複雑怪奇な指揮系統の弊害を

モロに受け不愉快千万なボロザーキン少将。しかも腹が立つのはそれ

だけではない。


(小僧などと…外見はともかく奴は俺の年齢を知っているはずだろうに!)


ボロザーキンは連邦において第三等国民である長命種血統とされている

ハーフエルフである。選挙権はあるが立候補する権利が無い。何故かと

言えば長命の者が政治参加すれば長く権力の座に居座り政治腐敗を招く

可能性があると総統が考えたせいであった。


たったそれだけの事で彼の社会的地位が決まってしまっていた。


エルフやハーフエルフは二次成長期までは人間と変わらない成長速度だが

声変わり前後から老化・成長が鈍化し始める。個人差はあるがハーフエル

フは人間の3倍余りの250年を生きる。実年齢43歳のボロザーキンは

外見年齢は華奢で小柄な17歳ほどの少年に見えるのだった。


華奢な美少年に見えようと中身はおっさんであり、年下の相手から子供に

見られたり変な趣味の士官や同僚に尻を触られたりするのが嫌で嫌で仕方ない。


だが第三等国民の彼が第二等国民の人間に反抗的な態度を取れば内務人民委員

から査問される立場である。


少年のような容貌の苦労人は今度の任務の成功に望みを託す事にした。

もし任務達成で最高人民英雄の称号を得られれば第一等を飛び越えて

特権階級である特等国民の地位が得られるのだ。




(何としても生き残ってやる。そしてナグルガスキーの野郎を出し抜いて俺が

功績を分捕ってやるぞ!!見ているがいい!!)


司令室を退去しながらボロザーキン少将は決意していた。





   ○  ○  ○  ○  ○





つい先日まで絶頂期に在った都。


ラースラン王国の王都アークランドル。


戦勝に次ぐ戦勝。ネータン王太女による勝利宣言で最高潮

へと達した熱狂は更なる高みへと駆け上がる。


アニーサス第一王子の帰還と新勢力ガープとの交易開始による

好景気だ。


前進基地が完成すると同時にガープとの交易が開始され王国に

大きな利益をもたした。



だが王国に暗雲が広がる。



王国の未来が明るいと誰しもが思った瞬間への冷や水。


神聖ゼノス教会の新勢力ガープに対する世界の敵宣言と聖戦の布告。



新勢力ガープと接近する事で軍事的な成功や経済的利益を享受しつつある

ラースラン王国にとってそれは巨大な楔を打ち込まれたに等しい。


重大にして間違いが許されぬ決断を迫られたラースラン王国の

国論は大きく揺らぎ混迷の最中であった。




そのラースランの王都を帝国風の巨大馬車に偽装された車輌が行く。

内部は空調の効いた最新鋭の乗物であり、そこに乗り込んでいるのは

漆黒の髪を持った美しき新勢力ガープの参謀。



烈風参謀が搭乗する巨大馬車は風雲急を告げるラースラン王城へ向かい

迷う事無く突き進んで行くのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ