表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/104

54 世界の敵ガープ





ガープ要塞が転移して来たマールート世界。


基本的にこの地の宗教は多神教である。それも当然で地球世界と違い

神々は神託を与え御使いを遣わし神聖魔法を与えるなど信徒に向けて

直接関与してくる身近な存在なのだ。


天空神タウタや大地の女神マウー、冥府の神アナンガなど多くの神々が

信仰され各地に神殿や聖堂が存在する。


だがこの大陸において最大の信徒数を誇りもっとも勢いと力を持つのは

英雄神ゼノスへの信仰である。太陽神などと違い英雄神というよく分か

らない権能の神。それが絶大な権威の主神、最高の神格と考えられ人々

に崇め奉られていた。


その英雄神を奉ずる神聖ゼノス教会の絶対権威、最高大神官ヤソ・レイシスの

名において全世界に向けての布告が発令された。




  新勢力ガープは邪なる魔王軍の同盟者であり

  神の敵、世界の敵である。




『新たに出現した強大なる邪悪、新勢力ガープを滅ぼす聖戦を布告する!

志ある者達よ!神の敵にして世界の敵を打倒する戦いへと集いそうらえ!

勇者が魔王軍と相対し抑えている今、正義の力を結集し新た出現せし悪を

我々が滅ぼすのだ!』



最高大神官の聖戦の布告。それに続く長い長い演説は各地のゼノス教会聖堂を

通じて大陸全土へと魔法映像によって中継され公布された。


大アルガン帝国、ロガー獣人族連合、ラースラン王国、帝政トルフ、そして

ポラ連邦といった列強国は即座に反応は示さ無かった。強国の地位から脱落した

旧ラゴル王朝や独自の文化大系を持つツツ群島国も様子見といった様子である。


そういった図体が大きく小回りが利かない大国に比して小国は次々と

聖戦への参加の表明を行った。ある国の王など剣を掲げ演劇のように

参戦表明し、使命に燃える想いを詩にしたためゼノス教会に送りつけた。

金銭や兵力ではなく大量の詩を送られた教会側は内心では辟易としていた

事だろう。


小国は経済的な余力は無く強力な軍事力も無い。力が無いからこそ小国

なのだ。逆に今回の聖戦のような場へ積極的に参加する事で存在感を示す

必要があるのであった。


しかし聖戦に参加するといっても小国は貧乏である。単独で行える事には

限りがあり創意工夫で凌ぐしかない。


例えばシャラント太守国とデルゼ王国、ランケンやゼナークといった国々は

国軍を出さず共同で資金を出し合って傭兵団を雇い入れそれぞれの国の貴族

の三男とか四男などを名目上の指揮官として送り体裁を取り繕った。


数ヶ国が共同して1ヶ国未満の兵力しか準備出来ない小国の悲哀。



一方、強力な個人の武といえる高レベルの剣士や戦士、魔術師などは聖戦と聞き

参戦表明をする者が続々と現れた。中でも魔王軍が偽装した偽ガープ部隊と交戦

した経験のある者たちは戦意旺盛で馳せ参じて来る。もっとも最高ランクの者達

は勇者と共に魔王軍と戦っており何故か布告が届かなかったルアンにある城塞都

市ベルグリムから離れる事は無かったが。



そして冒険者だが意外な事に高ランクの冒険者の参加表明は少なかった。

まず第一に生き残り一流にまで登りつめた冒険者には現実主義者が多く、

詳細の分からないまま浪漫主義的な戦いに身を投じる者は少なかった。


第二の理由は冒険者パーティーの僧侶や神官に英雄神ゼノスの聖職者が

極めて少なかった事である。どういう訳かゼノスの神聖魔法には治癒や

回復の呪文が殆ど無く攻撃や状態異常を引き起こす魔法ばかりで回復の

役目を果たすのが難しかったのだ。


ただ、そんな潮目も変わる。ラースラン王国やロガー獣人族連合を中心に

活躍し名声を轟かせるオリハルコン級のパーティー『君臨者』が無条件で

即時参加表明を行った事で参加し始めるパーティーが現れ始め、静観の姿

勢の冒険者ギルドを尻目に君臨者が彼等をまとめ率いるようになって行く。



世界がガープへの対決へと傾く流れ、更に加速させていくのは狂信的で

屈強であると知られているゼノス聖堂騎士団が総動員されている事実と

至高の英知、五大賢者が超魔法文明の力をもって参戦する事実が勝ち馬に

乗っかろうする輩の参加表明を促していた。





しかし、決して勝ち馬に乗ろうとしない。いや、勝ち馬とは信じず頑として

動かない者達がいた。


「ガープと正面から戦争?俺はごめんだね。墓穴に向かって全力疾走する

趣味は無いさ。」


ある国の武将がガープと共に戦い同じ戦場でガープの実力を目の当たりにした

兵士達の思いを代弁してそう吐き捨てたという…


大小の違いはあれど本物・・のガープと関わった者達は

決してこの無謀な聖戦に関わろうとはしなかった。





   ○  ○  ○  ○  ○





「皆、ご苦労だった。無事に任務を遂行し帰還出来て何よりだ。」


ガープ要塞の作戦室で禁忌の迷宮遺跡の第一次探査を終え帰還した

怪人ウオトトスとモーキン、帰還した班の戦闘員達を労う烈風参謀。


軍事行動の作戦指揮を取る闇大将軍が職務復帰したので烈風参謀は

本来の職務である作戦立案や情勢分析、外交交渉や政治工作に専念

するために各地を飛び回っていた。


禁忌の迷宮遺跡探査チーム帰還に合わせ戻ってきた烈風参謀。だがそれは

報告を受ける為ではない。探査作戦時に烈風参謀は不在だったが衛星通信

を通じてリアルタイムに進捗状況を把握しており当事者と大差無い情報を

得ている。


烈風参謀が直接聴こうとしているのは探査に携わった者から意見だった。


「雑感から私見などでかまわない。直接あの禁忌の迷宮に入った者としての

見解を聞かせてもらいたい。」


そう促し液晶モニターで迷宮探査の映像を見ながら幾つかの質問を発する

烈風参謀のヒアリングに活発に意見を述べる迷宮探査帰還組。


(…この人に手抜かりって言葉は無縁ッスね。)


ずっと真剣に聞き取りを行っていた烈風参謀のその真剣さが凄みを増す。


「さて、事前にバーサーン最高導師殿からこの禁忌の迷宮についての所見を

伺った所、一つ面白い特徴を挙げられた。」


「暴走魔力ッスか?」


「其れは聞くまでも無い。あそこは形式上は同時代の迷宮の建築様式に

則っているとの事だったが、やはり他には無い異質な特徴があるとの事。

顕著なのはこの迷宮には鍵が掛かっている扉が異常に少ない。」


「ふむ、そうでしたな。我々が探査した区画全ての合計の鍵付き扉は

たったの2箇所。しかも…」


ウオトトスはモニターを操作しその扉の映像を出す。


「一つは入り口からすぐの仰々しく巨大な長文の碑文が存在した玄室の扉、

そしてもう一つが魔金ゴーレムを倒した直後のボスルームに出現・・した奥へ

と続く扉……」


「そうだ。入り口近くの扉はバーサーン最高導師の判断で迂回通路掘削で扉を

避けて内部に入った。だがボスルームの方でその手法は論外だろう。」


今度は烈風参謀がモニターを操作する。映像は魔金ゴーレムを倒すと同時に

現れた扉の姿だ。円形の扉はスライド式の左右に開く形式。そしてその表面

にはびっしりと魔方陣や古代文字が掘り込まれているのだが異様な事にそれ

らは刻一刻と動き変化し続けているのだった。


「あの暴走魔力の中で魔法の扉ッスからね。」


「いや、バーサーン最高導師殿の見解だとあの現象は扉の奥から桁違いの

暴走魔力が噴出していて扉の方が影響を受けている現象らしい。ちょうど

暴風雨に揺れる木の葉のようにな。」


不規則に蠢く扉の表面。だが一区画だけ不動の場所がある。


扉の中央にある縦長の楕円。その中央には鍵穴と思われる十文字の穴。

鍵穴の下には古代文字とも違う象形文字の短文。そして鍵穴の上には…


「この図形、いや紋章はどこかで見た事あるッスね。」


「ええ、いささか差異はありますがゼノス教会のシンボルに似ていますね。」


歯を向いて笑みを浮かべる黒い口元。それは確かに神聖ゼノス教会のシンボルと

同じだがより写実的で生々しい上に意匠の違いとして黒い口から長い舌が伸びて

いた。舌は蛇行して伸びユーモラスな感じは無く貪欲さを感じさせ、何か根源的

な気味の悪さを放っている。


「鍵穴の内部構造の透過と計測でスペア・キーを作れないか検討しておる。

ただ魔法的な鍵かもしれんので象形文字解読と合わせ分析しておる魔術師

ギルドからの結果待ちじゃ。」


いつの間にか死神教授が生えていて話に加わっていた。


「禁忌の迷宮、酷似したシンボルに建設時期を鑑みるに英雄神ゼノスとやらの

闇を解明する大きな手掛かりとなるだろう。鍵の解明が済み次第に第二次調査

を行いたいがその前に大仕事を片付けねばならん。」


そう言うと烈風参謀はウオトトスとモーキンに向かって、


「ウオトトスはこのまま要塞防衛に入れ。予備の砲やジェノサイダーガープを

喪失している以上、お前が拠点防衛の要であり戦略予備と心得よ。最悪の事態

が起こった場合はソア大使とリルケビット大使の保護を優先するように。」


「安んじてお任せあれ。」


「モーキンは前進基地へ赴き闇大将軍の指揮下に入れ。私は敵のプロパカンダに

対抗する準備で飛び回る事になるだろう。優先事項が多すぎて後回しにして来た

がこれ以上は放置できん。…まあ、我等の過去を省みれば忌み嫌われる程度は甘

受すべきかもしれんが今後の活動の支障になるのは困る。」


「合点承知ッス!!いよいよ勇者ゼファー捕獲大作戦ッスね!」


「……1つ伝達事項がある。まずはこれを見て欲しい。」


「??これは衛星から偵察画像ッスか?」


「勇者ゼファーの拠点、城塞都市ベルグリムだ。神聖ゼノス教会の聖戦宣言の

後、ここだけは平穏そのものを保っている。他の主要都市が蜂の巣を突いたよ

うな有様なのにな。その上、聖戦宣告の内容も勇者の参戦を示唆していない…」


「ちょっと待って欲しいッス!!まず最初に勇者パーティーを捕獲する計画の筈

ッス!そうすれば各国の軍勢は戦意を失い退却し戦闘の被害は無いはずだったの

では?!」


「誠に遺憾ながら防衛戦を行わねばならないだろう。あの五大賢者が直接この

戦いに参加するとの情報得ている。奴等を排除する絶好の機会だ。」


「そんな……各国の兵士はいわば五大賢者とかゼノス教会に騙された被害者

ッス!何とか作戦を中止する訳にはいかないッスか?」


「残念ですが、もうここまで事態が進行してはどうにもなりません。降りかかる

火の粉は払わねば。」


「ウオさん…そうだ!死神教授!!何かこう怪光線をビヨヨヨヨーっと撃って

兵士の皆さんを気絶させ無力化とか出来ないッスか?」


「モーキン、お前はワシを何だと思っとるのじゃ?」


「マッド・サイエンティストと思ってるッス。」


「………、う、うむ。まあお前が言っとるのは催眠幻光ライトとか準洗脳電磁波

照射装置あたりの一時的に心神喪失にする兵器じゃろう。だが今から万余の軍勢

に使用する数を製造するのは不可能じゃし精神異常を癒す呪文を使われたら多分

無意味じゃ。」


「諦めよモーキン。我々とてやりたくて行うのではない。闇大将軍の指揮なら

向こう側の兵をいたずら追い詰めたり無用な虐殺や殲滅は行わないだろう。他

に道は無い。草花を1本も刈り取らず草原に道を通すのは無理なのだ。」


「………納得出来ないけど…了解ッス。」


同僚でもある怪人ウオトトスが消沈する怪人モーキンの肩を叩く。

ここでのヒアリングと行動指針の提示が終わり各員はそれぞれ行動

を開始した。とりあえずモーキンは休養に入り二日後には前進基地

に向かう事に。



  カツーン、  カツーン、



肉体のメンテナンスを行いながら電脳空間『ガープ横丁』へと電脳INする

休養ルームへと向かうべく廊下を歩くモーキン。ふいに一瞬だけその場に

立ち止まると俯いたまま聞き取れないほど小さい声で呟く。




「…マキャベリズムとか大嫌いッス。人間は草花じゃないッス……」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ