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52 魔金ゴーレム!ゴールド・タイタンの脅威



 【禁忌の迷宮遺跡発掘コントロールセンター】



茶色や黄色で荒地仕様な迷彩塗装の天幕テントが並び搬入された機材で

コントロールセンターを設置したガープ迷宮探検隊は更にデンッと大き

な看板を正面に置いていた。


ラースラン王国の公用語であるル・ラース語で書かれたそれは発掘責任者

ウオトトスや副責任者モーキンの名前、オブザーバーとしてバーサーン最

高導師を始めとしてこの場に居る魔術師ギルド関係者全員の名前と役職を

いつの間にか調べ上げて表記されていた。


更にコントロールセンターから伸びる配線ケーブルの束の行く先、迷宮遺跡

へと通じる城壁の門には立て看板。


【発掘現場につき関係者以外立ち入り禁止】


更に歪んだ顔をした巨大な人面レリーフ、迷宮本来の入り口には黄色いリボン

の危険テープが張られて危険を示す立て看板が置かれていた。


【ドクロマーク:危険につき進入禁止】



突入第一陣の20名だけではなく交代要員や支援係など新たに開いた進入口

付近に待機したり忙しく立ち働いている戦闘員達がおよそ百名。ちょっとした

規模の工事現場のような喧騒だ。



既に探索開始より30分が経過。



「そう、その碑文は壁ごと切り出して運び出しておくれ。それ一つだけで

この調査の意義を主張出来るほどの資料的価値があるからね。」


液晶モニターを見ながらインカムで指示を出しているのは茶目っ気たっぷり

な魔女のオババ様といった風情の魔術師ギルド総帥のバーサーン最高導師。

清清しいまでにハイテク機器との違和感を醸し出している。


『了解しました最高導師殿。しかし切り出して宜しいので?施設の構造や魔法

構成に何らかの問題が生じる可能性があるのでは?』


モニターの向こうで怪魚のような姿の怪人ウオトトスが質問してきた。


「大丈夫さ。かなり入組んでいるけど基本構造はバーゼルーク近郊にある

古代遺跡群の高難易度迷宮と同じ。超魔法文明が滅びる前後の時期の標準

形だからその玄室から切り出しても問題無い。」


『了解しました。即刻切り出し送り届けましょう。』



バーサーンとウオトトスが交信している傍らでオペレーター戦闘員が

怪人モーキンに情報伝達を行っている。


「間もなくガープ・ハウニブ15号、17号、25号がロストした玄室に

到着いたします。ロスト直前にガープ・ハウニブから送られたデータに

よりますと原因はトラップではなくエネミーです。ヘドロタイプBが5体

存在する模様。」


『了解ッス。エネミーを排除して玄室にビーコンを設置したら連絡するッス。』



モーキンがインカムへの返事を終える頃合で件の玄室へと到着した。

緊密な外部との連携。ガープ式迷宮探索はやはり冒険者達のそれとは

相当に違っている。



迷宮の全体構造や構成は地下探査技術によって把握しており宮とは

言いながら迷う要素は殆ど無かった。更に先行した小型ドローンのガープ・

ハウニブによって行く手の環境や状況、敵の存在などが洗い出されて対抗策

を打つ事が出来、迷宮は順調に踏破されて行った。


例えば素粒子ミューオンを利用した地下探査で通路下に空間を検知。解析により

別通路ではなく落とし穴だと判明すると即座にドリルで穴を穿ち発泡性硬化剤を

ドロドロ注入し瞬間的に膨張硬化させ落とし穴を埋め立ててしまう。


天井の一枚岩が丸ごと落ちて来て圧殺する凶悪トラップも一枚岩の隙間に

コーキング剤を注入の上に岩の大きさと材質から総重量を割り出し、それを

支え固定する宇宙合金製の支柱を必要数設置して無力化した。


迷宮入り口のようなエネルギー照射攻撃などがある場合はビーコンを設置し

後からウオトトスが別の進入口を切り開く。尤もそれはハイパーチタンや

ダイヤモンド掘削機などが後送されて来るまでの暫定手段であるのだが。


冒険者パーティーの斥候や盗賊が罠を見極め作動装置を解除するのとは

あまりに違う工学的アプローチで障害を突き破っていくガープ探検隊。


暴走魔力が荒れ狂う迷宮ゆえに強制転移や幻覚魔法などの魔法的罠が存在しない

以上、彼らを阻む物は敵モンスターだけであった。



照明専用のドローン群により明るく照らされた通路から玄室へと進むモーキン達。

ここは扉の無いタイプの玄室のようである。扉付の場合は開門させてからドローン

を先行させ中の状況の確認が必要なのだが今回はその手間は省かれる。


「特殊ニードルガンの弾倉交換完了。いつでも行けます。」


ニードルガンを携えた戦闘員がモーキンに報告する。様々な性質を持つ弾種の

針弾を標的の種類ごとに使い分けており、標的がヘドロタイプBに分類される

モンスターの場合、闘魔将ドルブ戦でも活躍した凍結ニードル弾を使用する。


「では突入ッス。」


まず怪人モーキンが先頭を切って玄室に突入する。やはり防護プロテクターを

装備した戦闘員より怪人の方が防御力も生命力も格段に強力である。


戦車に随伴する歩兵のようにモーキンを盾にするように玄室内に突入した

戦闘員たちは素早く展開し標的に向けニードルガンを構えた。



エネミー、ヘドロタイプB。それはスライムとかブロブなどと呼ばれる

モンスターに分類されるかもしれない。


アメーバのように蠢く不定形のヘドロのようなそれは肌色をしていた。

目、鼻や口に耳など顔を構成するパーツや指などがデタラメな配置で

流動的に付いており頭皮と思われる箇所にまとめて毛が密集している。


それは禁忌の迷宮に迷い込んだ人間の成れの果てであった。肉体以上に

精神は歪み生命の根源さえも混沌に沈んでいる。ブロブ化した瞬間に

寿命が尽きて絶命する者も居れば終わり無き寿命によって太古の時代から

歪み狂いきった生命体として存在している者もいた。


助ける手段は無いと聞かされていたガープ探検隊は心を閉じエネミーとして

ブロブ化した元人間を処置してゆく。


ドゥドゥドゥドゥドゥドゥ…

 ドゥドゥドゥドゥドゥドゥ…


ニードルガンが特徴的なX形のマズルフラッシュを吹きながらヘドロタイプB

に-273.15 ℃の絶対零度のニードル弾を撃ち込んで行く。濃縮した胃酸と思

われる溶解液を吐こうとした5体の敵は一瞬で凍結し沈黙。


「…せめて安らかに眠って欲しいッス。コントロールルーム、こちら状況終了。

目視では遺物等は確認されずッス。ビーコン設置後に引き続きA回廊の探索を

継続するッス。」


『了解。充分に気を付けて任務に当たられたし。以上。』



モーキンの班とウオトトスの班は緊急時などに連携出来る距離を保ち

二手に分かれて探索を行っている。両班合計22名だが彼らが探索を

終えた後方では戦闘員だけで構成された班が調査と連絡線の維持の為

に活動している。


突入人員は約60名。つまり60人パーティーの冒険者が無数に追加

される小型ドローンと共に物量で押しまくっている状況だ。


地上のコントロールルーム付近の大規模な天幕には迷宮から運び出された

遺跡や碑文、アーティファクト級の品が積まれて行き魔術師ギルドの重鎮

たちが確認すると称してそこに集まりうんじゃらうんじゃら小踊りしている。


位置、方角などが魔法的な結び付きを構成し動かせない物や図形、魔方陣など

は映像記録で残し紙媒体で欲しがる魔術師ギルドに半永久紙に原寸大でプリント

アウトした物を魔術師の塔に送り届けている。結構な距離がある魔術師の塔から

ヒャッホーという声が響いていた。


「アンタ達!危険な魔法の確認が済んだら仕事に戻りな!!ガープ探検隊に

魔法についてのアドバイスで頼りにされているのは私等なんだよ!」


バーサーン最高導師が浮かれている大導師級の魔術師たちを引き締める。


(けどまあ、気持ちは分かるけどね。それにしても……)


バーサーンは調査が始まってすぐ長年の疑念が確信に変わる思いだった。


運び出された遺物も迷宮内壁の素材も暴走魔力の影響を受けての変質が

見られない。つまり荒れ狂う暴走魔力に晒される事を迷宮の製作者は分

かっていたという事だ。


(魔法実験の事故なんかで始まった魔力暴走じゃない。恐らく最初に迷宮を

建設し最奥に時空を歪ませる程の危険な何かを封じた。そしてそこから溢れる

危険な影響力が流れ出て魔力を暴走させる。それさえ利用して侵入を防ぐよう

造り上げられた…)


「…いったい造ったのは何者なんだろうね?少なくとも五大賢者連中じゃない。

アイツ等自身が入れない迷宮を作ったなら賢者じゃなくて愚者さ。それにしても

せめて正確な建設日時でも分かれば……」


「調べる事は可能ですよ?」


「え?!」


バーサーンの独り言を聞いたオペレーター戦闘員が応えた。


「元素を使った年代測定法があります。我がガープのそれは地球世界でも

最新最高で量子スーパーコンピューターの検証を加えますから相当正確な

日時を割り出せるかと。運び出された遺物に付着する迷宮内壁の破片を

使いセンサーで調べれば20分ほどで結果は出せると思います。」


「願っても無い!!すぐに調べておくれな!」


依頼を受けてガープ側は即座に調査を開始した。センサーの準備に若干の

時間を要し、更にセンサーを持って発掘された遺跡に戦闘員が近寄るのを

魔術師達が威嚇してバーサーン最高導師に叱り飛ばされる一幕などあったが

30分後にはデータ解析したガープ要塞のスパコンから特定された日時が届く。


「3024年前の4月7日に着工と推論。完成が5月2日との結果です。1ヵ月足らずで

これほどの大迷宮を完成させるとは神懸りな物を感じますね。」


ふうぅ…


深く息をつくバーサーン最高導師。


「3000年前の大陸暦が始まる直前、降臨した英雄神ゼノスと最初の

勇者ウルクが最初の魔王を倒した直後かい。これはいよいよ怪しいね……」


更なる疑念を抱えたバーサーン最高導師は頭を振り、今はガープと共に

進めている調査に集中しようと頭を切り替える。



その後も順調に探査は進んだ。障害は次々と現れたがガープ探検隊の合理的

解決法で踏み潰して前進し、表層、中層のA回廊、B回廊と踏破し奥の階層に

続く巨大な玄室の入り口付近にウオトトス班とモーキン班が合流して待機。


協議の結果、当初の予定通り迷宮最深部の探査は2次探査計画へと持ち越し

とする事にした。ここまでの探査で集まったデーターを元に最奥探査計画を

策定し烈風参謀が参加し直々に探査隊の先頭に立つとの事に決まった。


量子スパコンの出した最悪の想定では最上級怪人の力が必要となる可能性が

あると判断された為である。


今回の調査の総仕上げとして迷宮最深部を守る最後の玄室を突破する

事となった。恐らく存在するであろう迷宮製作者が設置した強力な防

衛対策を粉砕し大きな面積の玄室内に中間基地を設営する事になった。


「まあ、十中八九中層のボスとの対決ッスね!!」


「バーサーン最高導師殿の見立てでは魔力暴走の影響を受けない存在、

つまり迷宮製作者の用意したボスかトラップが待ち構えているとの事。

甘く見る事は出来ません。」



突入を決めた探検隊は気を引き締め隊列を整える。


「玄室の扉はAタイプの拡大版。やはり鍵などは掛かっておらず開閉可能!」


「よろしい。これまでの手順通り入り口を開きガープ・ハウニブ投入を

開始してください。」


ウオトトスの指令から中層最後の玄室攻略が開始された。

重々しい音を響かせ扉を開き内部探査を進める。


玄室内部は上から見て八角形をした広い空間で天井は高い。謎エネルギー照射

攻撃なども無くガランとした静かな場所だった。しかし何も無い訳ではない。


玄室の中央には高さ5メートル程の抽象的なデザインの彫像が鎮座していた。

顰めた怖い表情をして座った姿勢の彫像はガープ探検隊の照明を反射して

黄金色に光り輝いている。


これを仮想敵として元素探査してもガープにとって未知な材質不明の像だと

判明し性質不明の相手に特殊ニードルガンの効果は期待できないので戦闘員

の武装を80口径23㎜対戦車ライフルに変更。ウオトトスを先頭に突入

すると素早く展開し射撃体勢をとる。


「攻撃開始せよ!」


ウオトトスの号令と同時に装甲車両を正面から撃破可能な対戦車ライフルの

一斉射撃が放たれた!


「……ほほう、これは驚きました。」


「穴が一瞬で塞がったッス!!水面みたいに波紋が広がって衝撃が消える

ッス。あれは水銀みたいな流体金属らしいッスよ!」


轟音響かせ対戦車ライフルの巨大な弾丸が全て命中。しかし効果は無かった。

そして黄金像は傷一つ無いままゆらりと立ち上がる。


『お気を付けな!!あれは伝承でしか存在が知られていない魔金のゴーレム!

ゴールド・タイタンに違いないよ!!』


「魔金?ですか?」


『高度に魔化され本質転換された黄金さ。超魔法文明のトップシークレット

技術で今はその製法は失われている。魔金は液体金属ながら一瞬で硬化し刃

物にも何にでも変化して攻撃して来るよ!』


「他に何か戦いに関する特徴ありますか?」


『魔力を吸収して自己修復しちまうのさ。最初の質量を越えて増えないが

狂っていようと何だろうと魔力ある限りアンタの溶解液で溶かされても奴

は直ぐに復元しちまう!!入り口を塞いで一時撤退を考えなウオトトス!』


「撤退は優先的に考えておきますが可能な限り交戦して戦闘データを取ります。

このまま引き続いてあのタイプのゴーレムの特徴など御教授いただきたい。」


急速にゲル粘液を身に纏いながら先頭に立ち戦闘体制を整えるウオトトス。



彼らガープ探検隊に無敵の黄金ゴーレム、ゴールド・タイタンの巨体が迫っていた!






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